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のたり
2025-05-28 08:19:50
1263文字
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hrsz
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小さなわがまま
雫さんのわがまま
お昼休みになったらすぐ教室を出た。
持ち物はしぃちゃんのノート。駆け足になりそうなのを抑えながら、廊下を歩く。
屋上か中庭か、それとも教室か迷ってしまったから、愛莉ちゃんに相談したら「教室じゃない?」と言われた。今日は身体を休めるために練習を休みにしているし、外でお弁当を食べるには風が強い、というもっともな推理はさすが愛莉ちゃん。
「ひとりで行ける?」と聞かれたけれど、さすがに大丈夫。去年までは毎日通っていた教室だもの。
2年D組に着いた私を見つけてくれたのはみのりちゃんだった。
「あ、雫ちゃん!」
お弁当を広げようとしていた手をわざわざ止めて、私の方へ来てくれる。
「どうしたの? お昼休みに教室にくるなんて珍しいね」
「ええ、そうね」
みのりちゃんがいた机の前に座っているのは他の子で遥ちゃんの姿は見当たらない。
「えっと、遥ちゃんは?」
「職員室に質問に行くって、さっき出て行ったよ」
「そう
……
」
どうやら入れ違いになってしまったらしい。
「遥ちゃんに用事?」
「ええ、まぁ
……
」
昨日の夜、遥ちゃんに渡してほしいと託されたしぃちゃんの数学のノート。みのりちゃんにノートを預けたほうがいいかしら、と一瞬迷ったけれど。
「今から追いかけたら間に合うと思うよ! ほんとについさっき行ったばかりだから!」
みのりちゃんがそう言って、私が来たのとは反対方向の右側の階段を指差す。
「じゃあ追いかけてみるわ」
「うん、いってらっしゃい!」
笑顔のみのりちゃんに後押しされて、早足でみのりちゃんが指差したほうへ歩き出した。
きっと数学の先生のところへ行ったんじゃないかしら。この間の撮影で出られなかった数学の授業で教科書だけじゃわからないところがある、と言っていたから。それを聞いたしぃちゃんが貸してくれた数学のノート。
ふたつめの角を曲がった時、遥ちゃんを見つけて目が合った。
「雫?」
どうしたの? って今にも言いそうなきょとんとした目。
「えっと、私、遥ちゃんに渡したいものがあって」
「え?」
「これ」
しぃちゃんのノートを差し出す。
「あ、日野森さんのノート?」
「ええ」
ふわりと遥ちゃんが笑う。
「ありがとう。放課後に受け取りにいくつもりだったんだけど、雫が持ってきてくれたんだ」
ノートを受け取って、また遥ちゃんが笑う。
「助かったよ、数学の先生、出張でいないっていうから」
パラパラとノートをめくって、日野森さんのノートは丁寧でわかりやすいね、なんて独り言のように呟く。
私が教えてあげられたらいいのだけれど、数学は苦手だから上手に教えられないし。
遥ちゃんの笑顔に胸が暖かくなる。けれど同時にその奥がどこか冷たい。
遥ちゃんはいつも私を助けてくれる。そんな遥ちゃんを頼りにしているけれど、私もなにか遥ちゃんの助けになるようなことがしたい。遥ちゃんが安心して甘えられるような存在になりたい。遥ちゃんが甘えられる相手は、いつも私がいい。ーーそんなわがままなこと、自分が思うなんて考えてもいなかった。
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