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桜霞
2025-05-27 22:55:15
7335文字
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【RKRN】夢
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恋の呪いよ、解けないで
お湯さま(@63_ymcs)の#RKRN夢同タイトル企画に参加させて頂こうと書きました。
いつもの幣つどい奥方シリーズです。
※雑渡さん夢です。
※つどい設定の奥方が婚約破棄されなかった世界線です。
※同シリーズを読んでいただいた方が分かりやすいですが、つどい奥方が雑渡家に嫁いだけど忍のことは知らないという設定を念頭に置いて頂ければこれだけでも読んで頂けます。
慕われていると、おもう。
◆
夏の日差しが眩しく視界を遮る。山々は青く、空には雲がたなびいている。
山々の連なる間を埋めるようにして、茶色いかわぶき屋根がぽつぽつと点在している。家々の合間には、青々しい田が広がっている。水車が涼し気な音を立てて、風が田に引かれた水の上を滑り、冷たく木々を揺らした。
子供が畦道を走る傍ら、大人たちは皆、農作業に出払っていた。耕して柔らかくした土が水を吸ってぬかるんでいる。そこに足をしっかり踏ん張って、女たちが等間隔に稲を植えている。男たちは傍で田楽を踊り、小堤や太鼓で囃している。その足元には酒や桶弁当、重箱が用意されていた。
初夏である。日差しは少しずつ強くなり、しかしまだ風の中に春の心地よい冷たさが残っている。豊穣を願って子を産む女が田植えをし、男たちが餅をついたり小豆を煮て餡を作ったりしている。手が空いている男たちは、村で一番大きな家に集まり、早苗饗の用意をする。田植え煮物やきな粉結びを用意し、田植えを手伝ってくれた人たちをもてなすのだ。
賑やかな田の方から身を隠すようにして、女がひとり、山に入って行った。木々の暗がりが、彼女の姿を隠す。女は体調を崩したと言って田植えを休んでいた。
下草に覆われて傍目には分からない獣道を進む。急く心に従って、足がもつれるように前へ進んでいく。伝え聞いていた目印を見つけて、女は息を吐いた。呼気を整える間も無く、目印のついた木から男が姿を見せた。
思わず息を呑む。こんなところ、村の誰かに見られたら、なんと言われるか。嫁に行ったばかりの身で、山奥で男と二人きりなんて。
さっと辺りの気配を窺って、彼女は懐に手を入れた。力の入っているのか入っていないのか分からない指先が、紙の感触を伝えてくれる。
脳裏に過ぎる光景がある。眼裏に思い描く人々がいる。
月明かりも、星の光も届かない暗い部屋。ぬるい肉体に覆いかぶさられ、浮ついた吐息が肌をざわめかせる。強張った四肢が恐怖と焦燥を加速させ、彼女から自由を奪う。
痛みも、嫌悪も、不穏な欲望の前では何にもならなかった。過ぎ去って見れば日々は澄まし顔で、女のことなど知った風もない。
口の中がからからに乾いている。女は意識して、腹の底に力を入れた。
「村の家の配置と、どのように柵などを設置するかの地図です」
男が女の差し出した紙を受け取る。女の鬼気迫る様子などには目もくれず、中身をざっと確認し、「確かに」とあっさり懐にしまいこんだ。
「
……
男たちは、この後、村外れの寺に。私達女子供は、山に逃げます。誰が何を持つかは分かりませんが、武具の類を見たものだけ記しておきました」
女が別の紙を男に手渡す。その様子を、木々の枝葉に紛れて、見下ろしている影がある。
影に終始気が付かず、女は来た道を帰って行った。今にも倒れそうなくらい顔色が悪い。腹に子がいるのかもしれなかった。手で腹を抑えているのに、本人は気付いているのだろうか。
情報を受け取った男が、するすると木を登って影たちに合流する。影のうち一人が腕を伸ばし、紙を二つ受け取って、女の持ってきた情報を検めた。
「どうだった」
「隼隊があらかじめ調査していたものと、おおむね齟齬はございませぬ。武具の数に多少の誤差がありますが、許容範囲かと」
「そうか」
影が動く。別の場所で待機している仲間と、村に続く街道で待機している騎馬隊へ情報を報せるためだ。残りの影は、騎馬隊が陣を構える予定の場所へ先回りした。
「結局あの女、本当にあの村を裏切ったんですね」
「そうだね」
村の様子を窺いながら、雑渡は尊奈門の言葉に相槌を打った。
本来であれば、行商に化けた黒鷲隊が隼隊を手引きして村の内部を探らせるだけの手筈だった。しかし、あの女は一目で行商に化けた忍者を敵と見破った。
「あんた達、余所者でしょう」
人気の無い場所で、取引を先に持ち掛けてきたのは女の方だった。
取引で偽の情報を掴ませるための謀の可能性も捨てきれなかったが、女と対峙した忍者は、おそらくこの女はこの村を裏切るだろうと踏んだ。
女は何も望まなかった。金が要るのかと聞けば「これから攻め落とされる村で金?」と片頬を吊り上げ、他の領地に逃げたいのかと問えば「充てなんてない」と独り言ちるように言った。
女の立場はすぐに知れた。村でも立場ある家の娘で、最近婿を取ったばかりだった。村の中では、似合の夫婦として通っていたはずだ。その実、女は裏切った。
───お慕いしております
屋敷に迎え入れた内助のことを思い出す。もうとっくにご新造さまと呼ばれる時期は過ぎた。けれど、いつだって彼女は雑渡を優しく出迎えてくれる。雑渡の多忙を咎めず、どこで何をしていたのか糾弾するような素振りは一切見せない。寂しかったとか、一人にしていることへの恨み言を零しかけた口を噤んで、穏やかな慕情を、そっと明け渡してくれる。おかげで、雑渡の胸中は引っ掻き回されていた。それが決して嫌ではないのだから、不思議である。
彼女は雑渡を慕ってくれている。
……
だが、もし。万が一があるとして。それが、嘘だとしたら。
嘘ではないと思う。自惚れでなく。客観的な事実として、彼女は雑渡の支えであろうとしてくれる。
「
……
」
という、思い込みだったらどうしよう。
各隊の小頭が集う。視界の向こうでは、騎馬隊が村外れの寺を目指して行軍している。
「組頭」
山本が代表して、雑渡の指示を仰いだ。
「狼隊は
百雷銃
ひゃくらいづつ
ともっぱんの用意を。黒鷲隊、隼隊は騎馬隊が突入したら攪乱を。月輪隊は各隊の護衛、村に入るものは騎馬隊の援護を」
忍者たちは無言で低頭し、瞬きひとつで己の役目を全うするために散じた。
青い空に、白い雲がたなびいている。山は泰然と青く、風は爽やかに駆け抜けていく。もうすぐ雨が降るかもしれない、と雑渡は村の方へ視線を落とした。女たちが働き、男たちが囃し立てていた賑やかさは幻だったかのように、しん、としている。水を引かれた田んぼが瑞々しい。遠くから、蹄と甲冑の擦れる音が大量に近づいている。百雷銃が激しく打ち撥ねた。大量の火縄銃を撃たれたのかと勘違いした村人たちが様子を窺おうと寺の外に出る。
やがて、寺めがけて、騎馬隊が野原を駆け抜けた。寺の後ろには田と、その合間を縫う畦道しかない。その畦道を、薄っぺらい防具をぶら下げた男たちが怒号を上げながら手に手に槍や刀を持ってかひしめき合っている。
刃か、水面か、日差しを反射する。青い夏に、血飛沫の舞う。
◆
武士の一人が、戦勝を報告する。陣を率いていたタソガレドキ領主家臣団たちはひとまずひと段落がついたと肩の荷を下ろした。
「では、当初の手筈通り、岩室殿が村の差配を。殿への報告は、我ら長宅にて」
「は。よろしくお頼み申しまする」
長宅家が先立って陣中を後にする。村に向かおうとした岩室を、目付が引き留めた。
「私はこの後、殿の御下命にて検地の予定があるため、これにて失礼する。この村の検地には、どうぞ我がせがれをお使いくだされ」
「は、有難きことにて。朔之丞殿には普段から世話になっておりますが、此度も頼りにさせて頂きまする」
一礼しあって、目付の当主も陣中を去った。
検地を任された朔之丞は、既に村に入っていた。村の中にも破壊はおよび、忍軍や足軽たちが協力して、破壊された家や橋などの修繕を始めていた。
「
義兄上
あにうえ
殿」
「ン、おお、雑渡殿」
「お久しぶりです」
帳簿から顔を上げた
朔之丞
さくのじょう
が爽やかに微笑む。雑渡の内助の兄であるこの男は、いつだって好青年だった。相手が忍だろうが何だろうが常に礼儀を忘れず、義兄という立場でも雑渡より年下であることを気にさせず、誠実に接してくれている。
「妹は、変わりありませぬか。粗相などしておらねば良いのだが」
「粗相どころか、家のことは任せきりで。里の皆とも、上手くやっているようです」
実際、この間雑渡が久しぶりに帰宅すると、他の家の奥さんに味噌やら塩やら葉物野菜やら、いろいろと貰って恐縮しきりで、お返しをどうしたものかとむつかしい顔をして悩んでいた。
彼女の根は素直だ。偉ぶるところも、嫌味な感じもない。他所からやってきたこと、立場としては上だが、知らされていないことがたくさんあること、里の中では新参であることをきちんと弁え、年長者や他の家内を立てることを忘れない。彼女はすぐに里の女たちから末の妹のようにかわいがられることになった。
「上手くやっておりますか。それは良かった」
朔之丞が安堵に眦を緩める。雑渡はそこに、妹を他所の家に嫁に出した以上の心配があると見た。
雑渡に見つめられているのに気が付いて、朔之丞は苦笑した。
「雑渡殿の前で言うのもなんだが、アレの気性は、まあ、少々自由の過ぎるところがありますから」
「そうですか?」
「いずれ目の当たりにするやも知れませぬ。特に父上の絡む時など
……
」
首を傾げる雑渡に、何を思い出したのか、半眼で朔之丞が嘆息する。
雑渡はちょっとだけ思案を巡らせた。そう言えば、彼女から家族の話をとんと聞いていない気がする。雑渡も話さないから、失念していた。
「
……
たしかに、ウチに来る前の話は聞いたことがありませんね」
「左様であったか。
……
そうか、話していないのか」
独り言ちる朔之丞は、どこか遠くを見つめている。しかし、瞬きひとつでそれは穏やかな笑みに変わり、雑渡の視線を軽やかに受け流した。
「では、私はあちらの方を見てまいります」
「
……
それでは、私は修繕の方を。では、後ほど」
引かれた線を、雑渡は踏み越えなかった。互いに礼をして、踵を返す。
誰にだって秘密はある。雑渡だって、忍であることを彼女に秘めている。彼女の秘密を責めたり、詰ったりすることはできない。
雑渡とて、人のことは言えないのだ。でも。
ふ、と視界が翳る。雲が日差しを遮った。
◆
雑渡の予想通り、仕事を終えて皆が帰宅の途に着く頃には雨が降り出していた。
道中、雑渡は昔の情景を思い返していた。
彼女には、最初から、嫌われてはいなかったように思う。
初めて城で顔を合わせたあの時から、彼女は本音を話してくれているようだった。まだきちんと婚儀の約定が形を成すまでも、雑渡と親しくしてくれていた。好かれていると思っていた。山本が「ちゃんとしろ」と言うくらいには。何はともあれ、概ね雑渡の予定通りではあった。
雑渡が全身に大火傷を負っても、そのせいで半ば八つ当たりのような態度をとっても、彼女は「そりゃそれだけの怪我をすればこのくらいは当然」とまで言い切って、泰然としたものだった。
慕われていると思う。雑渡が何気なく放った一言だけで、彼女はずっと、誠心を尽くしてくれている。
通り雨で視界が烟る。ざあっという雨足が思考を閉じ込める。
ふ、と息が切れる頃、雑渡の視界に小さな灯りが灯った。屋敷から漏れ出している仄かな明かりが、凝り固まった胸中を幾許か解してくれる。
泥濘に取られる足を引きずって、なんとか屋敷の前に辿り着き、戸を開ける。敷居を跨ぐ。随分と体が重い。
「おかえりなさい」
安堵の混じる、優しい声が、雑渡を労わった。
彼女は濡れた笠と蓑を躊躇わず受け取って壁にかけ、すぐに洗い湯を出して雑渡の足の汚れを拭った。
「すぐにお風呂も炊きあがりますから。温まってくださいね」
「用意がいいね」
「虫の報せです。なんとなく、そんな気がして」
彼女が得意げに、ちょっとだけ胸を張る。すぐにはにかんでごまかし、お着替えの用意をしてきますと身を翻す。
彼女のそういうところが、雑渡の頬を緩ませる。体の重かったことなど、どこぞに霧散してしまう。
一緒に入ろうかという誘い文句は、口から出る前に「お湯は冷めないようにしてありますけど、私お夕飯の準備でお勝手にいますから、何かあったら呼んでください」という彼女の言葉で、飲み込むことになった。
雑渡は大人しく一人で湯に浸かった。彼女と一緒に入りたかったのだろうか。一緒に入って、彼女の肌に触れて、訳の分からなくさせて、あることないこと聞き出したかったのだろうか。
「
…………
」
疑心。
胸の苦しいのを紛らわせるように、嘆息する。探る必要はないと分かっているのに。
忍の自分は、彼女を信じきれていないのだろうか。村を裏切った女の昏い瞳が脳裏にこびりついて、どうしても離れてくれない。
彼女が話すなら、自分とて話さなければならない。そうでなければ、対等ではない。
湯から上がる。着替えも、替えの包帯も、すべて乾いていて、ふわふわと触り心地のよい。塗り薬も、きちんと忘れず置いてある。雑渡が脱いだ着物や、汗と膿んだ肌から滲む液で汚れた包帯は、どこにも無い。
「
…………
」
雑渡は、勝手場に向かって声を張り上げて彼女の名を呼んだ。すぐに、はーい、と返事があって、何かありましたかと彼女が顔を出してくれる。
「薬を塗るの、手伝ってくれる」
「、
……
どこかお怪我でもされましたか」
「うーん。そうかも」
驚いたのか、少し間があった。失礼しますと入ってきた彼女が、瞼を伏せて手拭いを持ち、背を、腕を、足を拭いてくれる。今更、雑渡の裸体が恥ずかしいのだろうか。
「
……
どこもお怪我などされておられぬではないですか」
彼女が雑渡の背後で呟くように言う。見ないでも頬を膨らませて唇を尖らせ、半眼になっているのだろうことが分かる。雑渡の頬が緩んだ。
「まったくもう。腕などお使いになれぬのかと」
「驚いた?」
「はい。たちの悪いことはおやめになってください」
「はあい」
ごめんなさい、と雑渡が素直に謝る。よろしい、と彼女が顰め面しく頷く。
「戻ってもいいよ」
「そうですか?」
少しとぼける調子でそう言って、彼女は焼け爛れて感触の薄い所へ、静かに指を這わせた。柔い手のひらで優しく薬を撫で拡げられるのが、得もいわれぬ心地良さをつれてきてくれる。つられるようにして、四肢の先が重くなる。
全身の火傷痕に薬を塗ってもらい、包帯も巻いてもらって、着流しも着せてもらい、雑渡は彼女の後について板間に移動した。雨に冷やされた風が、凝った熱をふっと冷ましてくれる。同時にいい匂いが漂って、空腹を刺激した。
食事はほとんどできあがっていた。膳の上に、柔らかく炊いた飯、一口大に小さく用意された煮物、菜っ葉のお浸し、汁物、魚が並ぶ。彼女と一緒にいただきますと手を合わせ、雑渡は数日ぶりにまともな食事を口にした。噛むごとに、味わって飲み込むごとに、体が重くなっていく。姿勢を保つのが億劫になっていく。いつでも警戒を怠りたくない忍が焦燥を募らせるが、ざあざあという雨音がそれらを分かりにくくさせている。
片付けておくからお風呂入りなさいと言うより早く、彼女がさっと膳をさらって洗い物をしてしまう。手持ち無沙汰で後ろから覗き込んでも、己の手が動こうとしないことに、雑渡は気が付いた。
結局、雑渡は、終始何も言えずに、彼女が風呂に行くのを見送った。
「
………………
はあ、」
溜息。
直哉
じきさい
に聞くことができれば良い。苦労しない。だが、駆け引きなどしたくない程度には疲れている。それに、そうなったら彼女に負けるだろう、よく分からない自信がある。
忍であることを詳らかにしてしまいたかった。本当は、婚前など、時期を見て伝えるつもりだったが、実は私は忍者で云々。突然何を言い出すんだ。アホか。雑渡はなんとか頭を掻きむしりたい衝動を堪えた。
やはり、このまま隠したままの方が。そう思う度に胸が苦しいのを無視するのに慣れて、幾久しい。
秘密を明かして、彼女の身の上も聞いて、そうしたら安心できるのだろうか。
安心したいがために、彼女を暴くのか。
───普通から外れる私を、私らしいと仰ってくださった、あなたさえ、宜しければ
再び、溜息を吐く。
確かに、彼女は普通のおなごではない。簪に目を引かれても金銀の値が気になり、端女に成りすまして、見舞いどころか家事の一切を世話するようなおなごだ。
雑渡のてきとうに放った一言だけで、寂寞を慕情へ変えてくれるひとだ。
「あら、まだ起きていらしたんですか」
「
……
うん」
いつの間にそんなに時間が経ったのか、湯上りの彼女が珍しそうに雑渡を見遣る。変わらぬ表情の下、雑渡は慌てて懐をまさぐった。指に触れたそれを、雑渡はさりげなく取り出した。彼女の視線が、雑渡から手拭に移る。
「放っておくと、おまえは乾かさないで寝るからね」
「あなた、本当に私の髪が好きね」
雑渡の言い訳を気付いているのかいないのか、呆れて口をへの字にした彼女がこちらに背を向けて座った。ごまかした手前、雑渡は櫛を取り出して、彼女の髪の水気を拭った。
「お疲れでしょう。ご無理なさらずとも」
「そんなに疲れてないよ」
嘘だ。体は褥に潜り込みたがっている。先程から、そう感じさせないような声音を取り繕うので精いっぱいだった。
「ちゃんとやりますから」
「いいから、させておくれ」
「
……
」
彼女が嘆息する。それきり、言葉はない。大人しく、雑渡にされるがままだ。
今だ。今、聞けばいい。さりげなく。
そう言えば今日、仕事で義兄上とご一緒してね、相変わらずお元気そうだったよ。おまえが変わらず過ごしているかご心配なさっていた。他にもいろいろと心配してたみたいだけど、おまえ、昔はよく義兄上を困らせていたのかい。
「
………………
」
櫛を通して水気を切る。溢れた雫が、手拭いに染みこんでゆく。
雑渡は何も聞けなかった。四肢だけでなく、口も重くなってしまっていた。
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