僕の呪術界改造計画の第一歩として選んだ例の子供、伏黒恵と出会ってから早数ヶ月が経とうとしていた。なんでも出来るという自負のある僕でも教育、という点に置いてはズブの素人と言う他無い。
まず、子供と触れ合う事が人生においてほぼ無かったといっても過言では無い。確かに五条の分家で産まれた赤子であったり、御三家の禪院、加茂の後継なんかとは会った事はあるがコミニュケーションを進んで取る必要などはないし、ましてや何かを教えるなんて事は以ての外だ。
多分伏黒恵という子供は生徒としてはとても優秀な部類だろう。
出会った時の返答からして頭の回転が速い、育ってきた環境がそうさせているのか相手が何を伝えたいのか、どうして欲しいのか、自分が何をしなければならないのかを汲み取るのが上手い。
先日、伏黒恵の生得術式ーー十種影法術の顕現に初めて挑戦する運びとなった、が呪力を上手く練れないのか彼の影はちゃぷちゃぷと波打つだけで式神の形を成すことは無かった。
「恵くん、今どんな感じ?」
「……なんかうまく形にできないってかんじ、もやもやしてる」
「君の術式は一般的な式神と違って影を媒体としてる、もしかして君自身のイメージをソースとしてるのかもね」
「イメージ?」
呪力操作に難航した事がない僕は、少し考えて恵君の最初の相棒となる玉犬の元となるイメージを固めるのを優先する事にした。そうとなれば話は早い、思い立ったが吉日アウトプットするにはまずインプットだ。
「よし!恵くん図書館に行こう!今日の修行は玉犬のイメージ作りって事で」
「わかりました」
「ついでに体力作りのためにダッシュでいくよ!ほら早く早く!」
「アンタ足長いんだから先にいかれたらおいつけない」
「頼みがあるんだけど」
五条と図書館へ行ったその日の晩、学校の宿題に取り組む津美紀へ声をかける。
「えっ恵が私にお願いなんてどうしたの?」
熱でもあるのかなぁ、なんてわざとらしく心配そうな声をあげる、意外と津美紀は辛辣な所がある。
「……これにいぬ、描いて」
五条名義のマンションへ引っ越す際、新しく買い替えたダイニングテーブルへ、夏休みの宿題のポスター作成で使ったスケッチブックの余りを広げる、色鉛筆もクレパスも準備済みだ。
「犬?わんちゃん?」
「そう、五条さんからの宿題で使うんだけど俺そういのちょっと」
「私は恵の絵好きだよ」
式神の顕現に必要な玉犬のイメージ固めの為、図書館で五条と色んな動物の図鑑を見た。柴犬ポメラニアンプードルなどの飼い犬から、キツネタヌキオオカミコヨーテジャッカルなどのイヌ科に至る迄多種多様な犬の姿を見る事が出来た。
本当は十種影法術の取り扱い説明書的な物を読ませてあげたいんだけどね〜なかなか申請が降りなくて、とは五条の言葉だ。
「まっ無い物は、無い!恵くんだけの十種影法術にしちゃおうぜ」
そう笑ってる頭をガシガシ撫で付けてきた、初めて会った時と言いこの人は頭を撫でるのが好きなのだろうか?五条の顔をジッとみると、先程読んだ図鑑に載っていたホッキョクオオカミとかサモエドなんかを思い出す、体が大きくてまっしろでーーー脱線した。
イメージを固めると聞いて俺はなんとなく粘土を思い出した。図工の時間で使った油粘土で玉犬の姿を作りたかったけど、残念な事に美術的な才能は俺には無いようで、鳥のつもりで描いた絵は津美紀にはキリンに見えたし、花のつもりで捏ねた粘土は五条には苦悶の表情をした人に見たようだ。
自分の力だけで玉犬のイメージを確立させることを瞬時に諦めた俺は、ノートの片隅にかわいいイラストを描くと評判の津美紀に描いてもらってそれを利用しようと考えついた訳だ。
「いいよ、恵も一緒に描こう?どんなわんちゃん?」
「白色と黒色のやつ」
津美紀に促されるままスケッチブックにぐりぐりと鉛筆で丸を描く。
「小林さん家のポチくんみたいな?」
小林さん家のポチくんは雑種の中型犬だ、白と黒茶色が混じり合った毛並みをしていて、通りかかった人に誰彼構わず吠えまくる立派な番犬だ。
だけど俺には吠えずに、きゅ〜んと甘い声を上げてお腹を見せてくれるので嬉しくなってつい帰り道に寄ってしまう。
「ポチくんよりもっと毛が長い感じ」
「うーん、こんな感じ?」
クレパスを使った津美紀の描いた犬はふさふさとした白色の毛並みでにっこり笑った表情をしていた。
「おんなじ感じで黒色も描いてくれ」
「……恵のそれは焼きそば?」
手慣れた感じで黒色でふさふさの犬を描いていく、今度はキリッとした表情をしていた、なるほどこんな感じか。
俺がグリグリ描いていた物体を見てそんなことをいうが、これは犬。
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