もしも魔法が使えたならば

レノ✕シスネ

※貴方はレノシスで『もしも魔法が使えたならば』をお題にして140文字SSを書いてください。



 プロフェッショナルは公私を混同しないものである。頭では当然わかっていても、それを実行できるほど自分は人間ができていなかったらしい。
「魔法使いっていると思うか」
 レノはシスネの行動ひとつひとつを目で追う自分に気付く。僅かな指の動きですら見逃すものかと、鍛え上げられた観察力と集中力を駆使して。オフィスでの事務仕事とはいえ、仮にも今は勤務中であるというのに、レノの全神経はシスネへと向けられていた。
……それは、マテリアによる魔法って意味じゃないわよね」
 唐突な問いに、シスネは柳眉を僅かに寄せる。らしくないことは百も承知だった。非科学的なことを信じるほど幼くも、夢見がちでもない。それでも訊ねてしまったレノの真意を探るように、シスネは書類を整理する手を一旦止めてこの戯言に付き合った。
「もうお伽話は信じる年じゃないけど……。そうね。魔法のような人の力なら、日常の中にも存在するんじゃないかしら」
 それは言葉であったり、行動であったり。他人が及ぼす様々な影響は時に魔法のようであると、シスネは言った。
「レノも昔、私に魔法をくれたわ」
……ぜんぜん記憶にないぞ、と」
「無理ないわ。きっとレノには当たり前で、特に意識したものじゃないだろうから」
 懐かしむように目を伏せたシスネを、レノはじっと見つめる。過去、自身が彼女に及ぼした影響がどんなものか見当もつかなかった。
「私がタークスに入ったばかりの頃よ。任務に失敗して捕まった私を、レノは助けに来てくれた」
……仲間なんだ。当然だろ」
……うん。あの時もそう言ってくれたの」
 シスネは嬉しそうに呟いて、レノの瞳を見つめ返す。途端に心がざわめくのはまるで何かの呪いのようだ。
「でも私、ずっと独りだと思ってたから。……そうじゃないって知って、本当に嬉しかったの」
 レノは出会った頃の、シスネの少女らしからぬ荒んだ目を想起する。目の前で微笑む彼女に、最早あの頃の面影はない。
「レノや、皆のおかげで今の私がある。私にとっては奇跡のような魔法よ」
 俺が昔とった行動が魔法だと言うのなら、柔らかく微笑むシスネの笑みも魔法だとレノは思う。そうでないというのなら、何故自分はこんなにも心乱されているのだろう。そこにいるというだけで仕事が手につかなくなるほど、離れていてもその姿が頭から離れないほど。
「レノは何か魔法を知ってる?」
 心当たりがあるから聞いたんでしょ、と無邪気に問う彼女に答えられるわけがなかった。プロフェッショナルに徹することが出来ず、公私の区別がつかなくなり、レノをクールでいられなくするレベルMaxの魔法。シスネにかけられた魔法だとは、口が裂けても言えない。