すすぃ
2025-05-26 16:36:38
3000文字
Public ソナタくんの御茶会
 

オリズのあったかもしれない物語(IFルート)


⚠︎︎⚠︎︎オリズの設定と物語を読んでない方は先にそちらをお楽しみください⚠︎︎⚠︎︎



ソナタが俺の担当職員になった。ソナタには職員適正があって、以前彼を担当していた職員から直々にスカウトされたらしい。「本日から貴方の担当となりました」なんて親友に対してあまりに堅苦しいソナタを見るのは心苦しい。ソナタはもっと優しくて穏やかでどこか抜けたところもあるそんな少年だ。こんな冷たくて悲しくなるような話し方なんてしない。でも彼には彼の事情があるんだきっと。俺も知らないような何かが。彼は俺よりも遥かに頭が良いから俺には分からない何かが。
ルネスタ実験の時間」
はい」
前は、お互い実験体だった頃はこんなのじゃなかったのにな。ソナタの瞳も揺らいでいて本当はこんなことしたくないという意思が伝わってくる。だから親友に心配をかけないよう普段通り振る舞う。下手くそかもしれないけど。俺を見てソナタが小さく「ごめんなさい」と呟いたのを俺は聞き逃さなかった。辛そうなソナタをこれ以上見たくなくて俺は足早に実験室へと向かった。
「いつ飲んでもソナタの紅茶は美味いな」
ソナタが言うには今まであった自由時間は彼が職員になってからも許可されているらしい。だからこうしてソナタの紅茶を楽しめている。
「ありがとうこの時間だけは今までと同じでいられるね
今にも泣きそうな声で涙を堪えながら口を開くのを見た俺は思わず立ち上がってソナタの頭を優しく撫でていた。ぽんぽんとまるで子供をあやすように。最初は目を丸くして驚いていたが堪えきれなくなったのかぼろぼろと大粒の涙を流して彼は泣きじゃくった。俺に対する謝罪の言葉を終始呟きながら。俺は彼の涙が収まるまで頭を撫で続けていた。
「ルネスタに酷いことしたくないよ」
そうしないと生きていけないだろここでは」
「でも
「俺は大丈夫だからソナタが心配することはない」
ソナタが安心できるようにいつも通りの笑顔を見せたが彼の暗い表情は変わらない。彼は少し考えるような素振りをした後「これをルネスタに預けておくね」と俺に耳打ちし小さな封筒を押し付けてきた。「自由時間そろそろ終わりだからまたね」とソナタは部屋から出ていってしまった。彼の白衣の裾がふわりと舞うのを俺はぼんやりと見ていた。先程渡された封筒の裏側に小さな紙が貼り付けてあったので慎重に外して確認する。いずれルネスタの役に立つ何のことだ。本当に心当たりがない。今考えても仕方がないので紙と封筒は大事にしまっておこう。ふと時計に視線をやると自由時間が終わる時刻だったので俺は急ぎ足で部屋を後にした。
あれからソナタの暗い雰囲気は晴れることはなく悪化しているように見える。自由時間に淹れてくれる紅茶の味だけは変わらずそれが逆に不気味にも感じてしまう。美味しい紅茶なのにそれを淹れてくれた彼は俯いて何も話さない。最近は無言のソナタに俺が一方的に話しかけている。時々こちらを見て微笑んだような表情をするが下手くそで全然笑えていない。笑えていないことに彼は気づいているのだろうか。
「今日の紅茶は桃の甘い香りが特徴的で美味いな」
「フレーバーティーってやつだろソナタが教えてくれたのちゃんと覚えてるぞ」
俺とソナタがまだふたりとも実験体だった頃の自由時間にソナタが紅茶に関する知識を俺に教えてくれることもあった。そのうちの1つだ。彼との思い出は余すことなく全て覚えていたい。大切なものだから。零れ落ちてしまうのは酷く悲しく思えるから。ソナタは俺を見つめるだけ。大きくて虚ろな瞳。前はこんなにも空虚ではなかったはずだ。ソナタは「ごめんなさい」と細い声で呟き俺の頭を数回撫でた。細くて小さな手。儚げで今にも消えてしまいそうで思わず華奢な彼の体を抱きしめる。
「ルルネスタ?」
「ソナタは何も悪くないから抱え込まないでくれお願いだから」
俺の懇願するようなそれにソナタはふわりと下手くそな笑顔で微笑むだけで何も答えてはくれない。目の前で親友が苦しんでいるのに俺は何もできない。本当に無力だと思う。俺が彼のためにしてあげられることはないのだろうか。自由時間が終わるまでソナタを抱きしめながらぐるぐると考えるので精一杯だった。
ソナタの状態は悪くなる一方でこのまま壊れてしまうのではないかと思った。俺への実験は淡々とこなすがそれ以外は電池が切れてしまったかのように動かない。業務は完璧にこなすので彼の上司も特に干渉はしてこないようだ。自由時間は俺が手を引いて彼を部屋まで連れて行く。ソナタは紅茶を淹れなくなった。紅茶の茶葉を見せても虚ろな目で見つめるだけで今までのように淹れようとはしない。俺は空のティーカップを机に置いてソナタに話しかける。当然返事はない。彼の瞳は何も映していない。空虚な彼の瞳を見てふっと頭に小さな封筒の存在がよぎった。以前彼から渡された小さな封筒。貰ったその日の夜に中身をちらりと見たがその時は意図が全く読めなかった。でも今ならわかる。レモンバームのティーバックと粉薬を入れるような袋に入った粉末。レモンバームはソナタが好きだと言っていた紅茶だ。いずれ俺の役に立つってこういうことかと嫌でも理解してしまう。理解してしまった。俺はふらふらとソファーから立ち上がると紅茶を淹れる準備を始めた。彼のように上手くはできないがずっと見ていたから手順は覚えている。紅茶を慣れない手つきで淹れる俺にソナタは「3ふん」とだけ呟きまた電池の切れたような彼に戻ってしまう。不慣れではあるがなんとか紅茶の準備を終え、あとはカップに注ぐだけとなった。ちらりとソナタの方を見るとレモンのような爽やかな香りで目が覚めたのかちゃんと俺の目を見つめ返してくる。「ルネスタが僕に紅茶淹れてくれたの?楽しみだなぁ」と幼い声で無邪気に言う彼にこれを飲ませるのかと心が痛くて痛くて堪らないけれど、それが最善なんだと己に言い聞かせ紅茶を慎重に注ぎ粉末を混ぜる。ソナタの前にカップを置くと彼はニコニコしていて飲むのが楽しみといった表情だ。紅茶を飲む直前「ありがとう」と何もかも見透かしているような声で彼は感謝を告げカップに口をつけた。こうなることがわかっていたかのように。さっきまで彼が座ってたソファーには彼の纏っていた衣服と塵だけが残されている。俺は親友を自分の手で殺した。親友をソナタを苦しみから解放するにはそうするしかなかった。解放されるには死ぬ以外何もない望みなんてこれっぽっちもないそういう場所なんだここは。ここにいる限り一生苦しみ続ける。俺はこれ以上苦しむソナタを見たくなかった。頭に言い訳がぽつりぽつりと浮かんで自分の行いを正当化しようとしている。大切な親友を殺した罪は消えないのに。俺はソナタの塵をカップに無言で入れて残った紅茶と一緒に飲んだ。じゃりじゃりとした不快な感覚や吐き気を堪えながら飲み干した。ソナタが着ていた白衣のポケットから鍵を取りそのまま簡易的なキッチンへふらつきながら歩く。引き出しの上段の鍵をかちゃりと開けるとそこには小ぶりなナイフが1本都合よくあるじゃないか。俺は「神様来世があるならソナタと平和な世界で」と祈りを捧げながら胸にナイフを突き立てた。


おまけ 職員ソナタくんイラスト