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匣舟
2025-05-26 13:12:47
5970文字
Public
RKRN
きみの頬に降る日照雨
転生パロ 綾乱(※死ネタあり)
きみの頬に降る日照雨
乱太郎が死んだのは、三年生の時だった。委員会活動の一環で裏裏山に一年生の子と薬草摘みに出かけた時に運悪く山賊と出会ったのが運の尽きだった。
泣きじゃくる下級生を庇いながら、なんとか山賊を撒いた頃にはもう全身傷だらけで、出血量などを見て、自分ながらにああ、もう私は死ぬんだな。とどこか他人事のように考えていたように思える。
「
…
君は、忍術学園に戻って先生と先輩方に伝えてきてくれる?」
「
…
せ、先輩は?」
「私はまだ近くに敵が居ないか確認するから。
…
さあ、早く行きなさい。君が見つかったら元も子もないから。」
一年生の子の背中を押して、忍術学園に走らせて応援と守備強化を伝えるようにとお願いをして、動ける範囲だけ山賊や忍が居ないか確認して、自分の息だけが潰えるのを待っている時に、その人は来た。いつものように踏み鋤を携えて。
その人が私の姿を見た途端に私のことを抱いてずっと私の名前を呼んでいた。
「らん、たろう、しぬな、しぬなッ!」
いつも表情が変わらないのに、その時だけは涙を流していて、半狂乱になりながら自分の名前を力強く呼びかける彼に死ぬ間際に酷く驚いたのを強く憶えている。
その先輩は、四年い組の作法委員会所属の綾部喜八郎。乱太郎の恋人だったひと。
乱太郎が綾部の恋人になるきっかけになったのは、何回も先輩が掘った落とし穴に落ちていたかららしい。
不運小僧と呼ばれていた乱太郎は、ほぼ毎日落とし穴に落ちていて、自ずと落とし穴を製作している綾部と顔を合わせていたから、そこから彼が乱太郎に興味を持ち出したのだと付き合った後から綾部と同室である平から聞いたことがある。
乱太郎が綾部に告白されたのは、いつものように包帯と一緒に彼の落とし穴には落ちていた時に、僕ね、乱太郎のことすきみたい。と告げられた時だった。
「
…
今なんと?」
「
…
乱太郎のことがすきみたい?」
「
…
えええ!?」
その時の乱太郎は十歳ということもあり、まだ好きという感情がどういうものか理解しておらず、ただ素直に、すきと言われてもなにか分かりません。と言った。
好きという感情がどのようなものか分からないと告げる乱太郎に、綾部はいつものようにおやまぁ。とだけ言って諦めたように思えたけど、全然そんなことなくて次の日からの彼の追撃がすごかったのだ。
毎日会う度に周りに誰がいたとしても絶対に乱太郎の名前を呼んで、好きだと告げてくるのだ。
例えばいつものようにきり丸としんベヱといた時だとか、保健委員長である伊作と共に綾部の掘った落とし穴に嵌った時とか。マイペースな先輩だから所構わず乱太郎、好きだよ〜。と伝えてくるものだから、落とし穴に嵌ってボロボロな伊作にそれ今言うことかい
…
?ってつっこまれていたこともあった。
毎日会う度に自分を見かけては好きだと伝えてくるものだから、周りもいつの間にか自然と彼を応援する流れになっていて、そんな周りの空気にいつの間にか飲まれていく乱太郎。
「ねえ、乱太郎。すきだよ〜。」
「
…
知ってます、」
「すきだよ」
「わかってますよお、」
「じゃあ付き合ってよ〜?」
「
…
わかりましたよお、」
付き合いますよお
…
。と顔を真っ赤にさせながら乱太郎が綾部からの告白を承諾したのは乱太郎が彼に告白されてから半年後のことであり、乱太郎が顔を真っ赤にしている傍ら、綾部はだぁいせいこぉ〜う。と言いながらちゃっかり乱太郎を抱きしめていた。
付き合ったと言えど、綾部と乱太郎はあまり変わることはなかったが、乱太郎は少しずつ無表情な彼の機嫌が読み取れるようになったり、綾部の知らなかった内側を知ることが出来るようになってきた。
例えば、周りに無関心かと思いきや以外と後輩思いなところとか負けず嫌いなところとか。あと、ふたりきりの時はちゃんと甘えてきてくれるところとか。
「らんたろ〜う。いつものして。」
「はい、どうぞ。」
ふたりきりになると、彼は絶対乱太郎の名前を呼んで膝枕をするように強請る。どうやら乱太郎が綾部の髪を梳く仕草が心地よいみたいで、乱太郎もそんな綾部に甘えられるのが嬉しくて、二つ返事で応じていた。
マイペースなところに振り回されたことは多々あったし、それに巻き込まれて喧嘩だってしたけれど、自分だけに甘えてくれる彼が好きだったし、こんな幸せがずっと続けば良いと思っていた。でも、そんなささやかな願いは叶わない。今日、叶わず終わる。
「
…
ぅあ、」
ああ、もう声すら出せないのか、もうそこまで死が来ているのか、と冷静に考えながら、今までのことが走馬灯のように蘇ってゆく。
春になれば一緒にお団子を片手に花見をしたし、夏になれば夜更かしをして裏山まで抜け出して蛍を見に行ったり、秋になれば綺麗だと有名な紅葉を見に行ったし、冬になれば一緒に雪かきと言いながら雪だるまを作ったり、かまくらを作ったりした。彼が飽きるまで穴掘りをしている姿を見たり、自分の不運に笑いながらも助けてくれたり。
─らんたろう。と少し甘い声で自分の名前を呼んで手を繋いだり抱き締めたりしてくれた彼を思い出す。彼に告白されて、半年後に白旗を上げて付き合ってから早三年。長いようで短い期間だった。
来春に綾部は忍術学園を巣立ってゆく。城勤めになるのか、フリーになるのか、それとも忍では無い生活を送るのか。それは卒業後でないとわからない。進路に関する話を六年生にするのはタブーとされているからだ。
だけど、この前、乱太郎は綾部に“乱太郎が卒業したら、必ず迎えに行くから待っててくれる?”と言われたばかりだった。彼は、これからの未来に自分を組み込んでくれているのかと嬉しくなったばかりなのに。その未来に自分はいることは無いのか。と少しだけ悲しくなった。
いやだ、いやだっ!乱太郎!目を開けてくれ!と癇癪を起こした子どものように乱太郎に呼びかけ続ける綾部のおかげで乱太郎はまだ、その瞳を開けている。でももう、そんなに力もない。徐々に閉じられていくだろう。
本当は、いつも表情が変わらない綾部の泣いている顔を見たかったし、彼に大丈夫ですよ。と言って雨のようにぽたぽたと自分の顔に落ちる涙を拭ってあげたかった。
でも乱太郎にはもう体を動かせるような気力も無かったし、目を開けるのが精一杯だった。自分の体から流れ出てしまった血からもう自分がここで死んでしまうことは分かりきっていた。
ああ、泣かないで。先輩。そう伝えたいのに、口から溢れ出るのは言葉にならない母音ばかり。
最期に私からあなたに何を伝えられるだろう。そう考えて出たのは、あの言葉だった。
「せぇ、んぱ、い。」
…
しあわ、せ、にな、って。
本当はずっと一緒に隣で笑っていたかったし、貴方と一緒に幸せになりたかった。でも、それが叶わないから私はただ、貴方が幸せに生きてくれればいいという願いを込めて言った。ちゃんと言えたかどうかすら分からないけれど。先輩の泣き顔を目に焼き付けながら、私は目を閉じた。
そう告げたあとから、私には記憶が無い。きっと私は生涯を終えたのだろうと思う。ああ、もう私は目を覚ますこともないんだな。と思ったら、次の瞬間には目を覚ましていて、尚且つ次の人生を歩んでいるものだから驚いた。
乱太郎が次に驚いたのは、一回目の人生から約数百年後の時代に生を受けたことも驚いたが、何より戦乱のない平和な世の中であることに酷く驚いたものだ。
一回目の人生の時は常に世は戦で満ち溢れていた。常に死が隣り合わせだったし、明日、自分がちゃんと生きているという保証などない時代だったのに。
平和な世の中であることはいい事だが、戦乱の世の中を生きてきた乱太郎にとって少しだけ違和感がありつつも、少しずつ歳を重ねて乱太郎は大学に進学した。
一回目の人生の記憶を保持して生まれた乱太郎は、保育園から高校に至るまでかつて恋人だった綾部や、一年は組の級友たちや上級生、そして教師たちがどこかに居ないか無意識に探していたのだが、全く見つけることが出来ず、自分のように二回目の人生を歩んでいることすら分からないと知って落ち込んでしまったけれど、自分の死後にどのように時代が移り変ったか授業では教えられなかったことを知りたい!と思うようになり、歴史学のある大学に行こうと決心したのだ。
勉強は一回目の人生と同じくあまり好きではなかったが、死に物狂いで勉強した。死に物狂いで勉強している自分を土井先生が見たら、大泣きするんだろうなあ。というか今頃天の上で見ているのかなあ。とちょっぴり現実逃避しつつも、両親の声援を受けて難関大学の歴史学科に一発合格したのだ。
実家から大学が遠方のため、現在乱太郎はアルバイトをしながら一人暮らしをしている。
両親にはアルバイトなどしなくても援助は出来ると言われたのだが、自分が行きたいと言ったし、 奨学金も出してもらうことも無く進学出来たので流石にそれぐらいはしないといけないだろうと思い、社会勉強になるかもしれないと両親のことを説得して頑張っているところだ。
結局アルバイトをしたかったのも社会勉強もあるが、アルバイトをしていた方が誰かしらは見つかるんじゃないかという淡い期待を持っているからだった。大学に進学して早半年、アルバイト始めて早三ヶ月だが、まだ誰も見つかっていない。まあ、そんな簡単に見つかるはずないよなあ。と少し途方に暮れている所だった。
「お疲れ様〜。明日もよろしくね。」
「はい、お疲れ様でした。お先に失礼します〜。」
今日は一限から四限までぎっしり授業で、しかもそこからバイトという最悪な一日に加えて、バイト先の先輩に会釈をして事務所から出ると雨がポツポツと降り始めていた。
雨の日になると、何だか一度目の人生の死に際を思い出す。あの日は別に天気も悪くなくて雨も降っていなかったけれど、綾部の涙が雨のようで、雨が頬に当たると思い出してしまうのだ。
「
…
久しぶりに不運だなあ。」
一度目の人生の時はあんなに不運だったのに、今の人生は人並みの運の持ち主になった乱太郎。歩けば落とし穴に、イノシシに追いかけられたりしていたのにだ。
久しぶりの不運だなんて一回目の人生では言うこと無かったんだろうなあ。と思いながら、本降りになる前に早く家に帰るぞ〜。と意気込む。
「
…
よしっ!」
バイト先から自分が住んでいるアパートまでは走れば十分ぐらいの距離だ。韋駄天と言われていた一回目の人生の時と同じく、今の乱太郎も足が早いから頑張れば十分を切るかもしれない。
事務所の軒下で背伸びをして走る体制を整えて走り出そうとした瞬間、乱太郎の手を誰かが掴む。
「
…
ら、んたろう?」
「
…
っえ?」
乱太郎の事を掴んだのは、一回目の人生で乱太郎の恋人だった綾部喜八郎だった。
「あ、やべせんぱい
…
?」
そう思わず呟いた途端、強く抱き締められた。その瞬間、乱太郎と同じく綾部にも一度目の人生の記憶があるのだと悟る。乱太郎より少し背の高い彼にすっぽり抱きしめられている乱太郎は、自分の肩が雨じゃなくて綾部の涙で濡れていることに気付かないふりをした。
あれから、流石に事務所の軒下で居ると誰かが来てしまうかもしれないと思った乱太郎は、綾部に先輩、行きましょう。と声を掛けるもいやだ、離れたくない。と涙ながらに言われてしまったので乱太郎の家に案内することになった。
乱太郎の家に行く最中も綾部はずっと乱太郎にべったりで、離れないようにと繋ぐ手は痛いほどだった。
…
乱太郎も自分の死に際が少なからず彼に影響していると思っているし、こうして会って分かっているので、なんにも言わないでいる。
「好きなところ座っててください。今、お茶淹れます。」
「
……
うん。」
綾部は小さな子どものようにこくん。と頷いた後、ソファに座ったかと思えばそのまま乱太郎を手招きする。
そうしてソファに隣同士で座ったのも束の間、また強い力で抱き締められ、こう言った。
「あのね、僕は優しいキミが好きだったけれど、その優しさでキミが死んだことはゆるせないんだよ。」
と。そう言ってきつく乱太郎のことを抱きしめた綾部に酷く驚いたが、これは相当堪えたのだろうとまるで母親に泣きつく子どもように縋る彼の背中を優しく擦りながら口を開く。
「
…
先輩、私はあの時の選択を後悔したことはありません。」
あの時、死ぬのが一年生の子じゃなくて私でよかったと今でも思っています。と続けて喋った。
乱太郎は、綾部の腕の中で彼の体温を感じながらもあの選択を後悔していないとはっきり告げる。あのとき、山賊に出くわした時、上級生は自分だけだったから。
乱太郎が居た一年は組ならまだしも、普通の一年生など実戦経験など無に等しいし、いくら実戦経験があるは組で三年生になったら乱太郎と言えど、下級生を庇いながら山賊と戦うのは最高学年でも厳しいだろう。
乱太郎でなくとも上級生ならば自分と同じ選択をしただろう。ただそれだけの事だ。
「でも、」
「でも?」
「私は、先輩と一緒に生きたかった。
…
一緒に生きて歳を重ねていきたかった。」
忍として生きるからには死がいつも間近にあることを乱太郎はよく理解していた。家系代々がヒラ忍者の家系だったからだ。
でも、綾部に乱太郎が卒業したら、必ず迎えに行くから待っててくれる?と言われた時からずっと乱太郎だって綾部とずっと一緒に居たかったし、もっと言えば一回目の人生は彼と添い遂げるつもりだったのだ。
でも、それは叶わなかった。あの日、乱太郎は死んだ。綾部の腕の中で。
だけど、ふたりとも同じ世界で、同じ時代でこうして記憶を持ったまま会えた。これを奇跡と呼ばないわけが無い。
「乱太郎、」
「はい。」
「
…
今度こそ、ずっと僕のそばに居てくれる?」
「もちろんです。」
ずっとあなたのそばに居させてください。そう乱太郎が告げた後、ふたりはどちらがともなく顔を近づけて触れるだけキスをした。二度目のファーストキスはひどくしょっぱかったけど、甘くて幸せの味がした気がしたのだった。
(いい加減、僕のこと名前で呼んでよ?)
(
…
恥ずかしいんですってば)
(次、名前呼ばなかったらちゅーするからね)
(エッ、それははやいですあやべせんぱ
…
アッ、)
(おやまぁ、言ったそばからだねぇ?)
ああ、慣れるまで何回僕にちゅーされるのかな、と笑う貴方はもう泣いてなくて、私は甘んじてまた彼のキスを受け入れるのだった。
了
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