moto
2025-05-25 19:42:10
1077文字
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いい薬です

さまささワンドロワンライお題「キス」「クエスト」


スケジュールを調整してどうにか一週間の休みを取ったというのに、簓は初日から高熱を出して寝込んでいる。喉の痛みと咳の症状もあり、即病院に駆け込んで風邪という診断を受けた。あとは薬を飲みただひたすら寝るしかない。一週間の休みのうち最後の三日間で左馬刻と旅行に行く予定だったが、キャンセルすることにした。寝室からのビデオ通話で、冷えピタを額に貼りつけマスクをした簓は、高熱と咳と鼻水と左馬刻への申し訳なさでべしょべしょになっていた。
「休みん時で良かっただろ。仕事の穴あけねえですむしよ」
「俺がこんなプロ意識高いばっかりに……ってあかん全然おもんない冗談やあ」
 完全なるべしょべしょである。その後もべしょべしょは続いたが、咳と鼻水とで何を言っているのかわからなかった。左馬刻としては抱きしめて甘やかして黙らせてやりたかったが、簓は左馬刻へ風邪を移すまいと徹底していた。同じ家に住んでいるというのに簓が寝室を拠点としてからは一度も実際に顔を合わせていない。トイレや風呂、顔を洗ったり洗濯をしたりそれなりに部屋を出る機会はあるし、二人住まいのそこまで広くない家だというのに、ゲームのミッションのように気配を消し、左馬刻とは出会わない。そこまでしなくても俺様の体はヤワじゃねえよと言ってみたが、俺の風邪舐めんなと謎の脅しを受けてしまった。
「うう、卵粥うまい〜。天才や〜ありがとお〜。左馬刻は何食うてる?」
「天才の俺様はハンバーグ食ってる。チーズ入りな」
「鬼やあああ悪魔やあああ。俺もハンバーグ食いたいいい」
「食いたかったら早く治せ」
「治ったら俺もハンバーグ絶対食べる。チーズ入っとるやつと煮込みハンバーグ」
「おーおー何個でも作ってやる」
 画面に映る簓は、卵粥を完食して、おかわりも要求した。喉の痛みもひいてきたようだし咳も最初の頃よりひどくない。
 簓と出会わないまま四日目の夜、ビデオ通話をするためにスマホを手に取ったその時、すぐ背後から「左馬刻」と呼ばれて、日頃の行いから表面には出なかったが内心ぎょっとする。
「そのまんまな、左馬刻」
 ソファに座りスマホを握りしめた左馬刻の背後から、簓の腕が伸びてきて、髪に顔を埋めた。大きく深呼吸をしたあと、離れる。
「おい、簓」
「左馬刻チャージしたから明日には治ってるわ」
 すでにリビングのドアのところまで離れていた簓は晴れやかに笑っていて、その言葉通り、次の日の朝には「治った〜!」と元気に左馬刻の前に現れたのだから、左馬刻は簓にとって自分の効力というものを本気で考えてしまったのだった。