ねぶくろ
2025-05-25 17:53:36
971文字
Public 一次創作
 

僕の右腕

12月13日にTwitter(現X)に投稿したSSです。

 兄が開発した新型デバイスは、頭に装着した謎のベルトが脳波を読み取り、利き手に装備した義肢が利用者の想い描く通りに絵を描いてくれるという代物だった。――画家の弟を持つ身で何というものを生み出してくれたのか、と製品の発表を記念する会で恨み言を零せば、兄は「だからだよ」と苦く笑った。
「お前の才能をずっと傍で見てきたんだ、だからこそこういうものを作ろうと思った」
「兄さんみたいな輩がいるから芸術家の居場所が減っていくんだぞ」
 とんでもない技術を生み出しやがって、と会を早々に立ち去ってから数年。兄の発明したお絵かきデバイスは国内外で広く活用されていた。社会に貢献した例で言えば、高齢者のリハビリテーションに活用することで指先の細かな動きが回復したとの報告があったらしい。兄が鼻高々に電話をかけてきたが、僕はすぐにガチャ切りした。
 僕とて、お絵かきデバイスに負けじと踏ん張っている本職の画家である。どれだけデバイスが世に広く浸透しようとも、食いはぐれるほど落ちぶれてはいない。グループ展に誘われているので、打ち合わせのためにと外に出た。

 相手は、飲酒運転をしていたらしい。目が覚めた時にはすべてが終わっていて、半分欠けた視界は世界の左側しか映さなかった。横断歩道にトラックが突っ込み、重軽傷者が数名、死者が一名。僕は重症の内の一人で、右半身に甚大なダメージを受けていた。
 視力こそ回復したものの、右腕はもう元通りに動かないと聞かされて、変な笑いがこみ上げた。グループ展のメンバーは見舞いの時に、気まずそうな顔で言葉を押し付け合い、「既存の作品だけでも展示しよう」と励ましの言葉をかけてくれた。頷いて、一人になってから少しだけ泣いた。
 兄が見舞いに来たのは、退院してしばらく経った後のことだった。例のお絵かきデバイスを持ち込んで、彼は笑い損ねたような顔で僕を窺った。
「お前の才能をずっと傍で見てきたんだ。……だからこそ、こういうものを作ろうと思った」
 かけられた言葉と差し出された機械を前にして、苦い笑みを浮かべた。
「兄さんみたいな輩がいるから、芸術家の居場所が減っていくんだぞ」
 僕が引退していれば、日の目を見れた若手がいたかもしれないのに。とんでもない技術を生み出しやがって、と僕は忌々しいその機械に絵筆を握らせた。