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ねぶくろ
2025-05-25 17:37:37
1199文字
Public
一次創作
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特別な人
12月19日にTwitter(現X)に投稿したSSです。
君は特別な人
「月並みな言葉ってあるじゃないっすか。『人は一人じゃ生きていけない』とか、『あなたの代わりはどこにもいない』とか」
ファミレスのテーブル席で相対した男は、コーラで喉を湿してそんなことを言った。
ヤマグチと名乗った彼は、見るからに軽薄そうな男だった。年は二十代前半だろう。店内にも拘らず被ったままの白いニット帽からは、茶色く染めた髪の毛がはみ出ている。着ている服はストリート系と言うのか、オーバーサイズだった。とてもじゃないが、真っ当な職に就いているとは思えない。
僕は肩を縮めて、俯きがちにドリンクバーの烏龍茶を嚥下した。真っ当に見えないヤマグチは、真っ当さとはかけ離れた軽薄な声で言葉を続ける。
「オレ、ラッパーなんすよ。んで、リリック
……
歌詞とか考えるわけ。そういう時に、大勢に届けようとすると、すげぇ月並みな言葉しか思いつかねぇの。『自分を信じろ』とか、『前向きに生きろ』とか」
僕は特に反応しない。烏龍茶を飲んで、ただ俯いている。それでも構わず、ヤマグチは言った。
「月並みな言葉って、それだけ言い古されてるわけじゃないっすか。同じこと思う奴ってこれまでもこれからも山ほどいて、別にオレが言う必要もないし、オレが思いついたわけじゃない。ヤマグチ・オリジナルな言葉って一つもねぇの。でもそれってすごくね?」
相槌を待つような間をおいてから、ヤマグチは続けた。
「それだけ色んな奴が同じこと考えたわけじゃん。大勢の奴らが、同じこと思って、同じこと言ったわけっしょ? 月並みな言葉って、それだけ人から求められてるってことじゃん。すげぇよ」
彼はコーラを飲んで、僕の反応に構わず続ける。
「難しい言葉って、同じ周波数の奴にしか伝わらねぇの。知名度あれば他の奴らにも届くけど、そいつらは自分の周波数で解釈すっから、結局『伝えよう』と思ったら月並みな言葉が一番強ぇなって思ってさ、やっぱ人の思いの蓄積って重ぇじゃん。オレが言う必要ない言葉でも、誰かが言わなきゃいけないことってあるからさ、だから今はオレがそれ言う番かなって」
僕は今日、川に飛び込んで死のうとした。それには様々な理由があった。学校に馴染めていないとか、両親の期待に応えられていないとか、年の離れた兄と比較されているだとか。
そんな月並みな理由で死のうとした僕を、僕が目指し、理想としているような真っ当で立派な大人たちは引き留めなかった。僕に目を留め、声をかけてファミレスにまで連れてきて、ドリンクバーを奢ったのは、軽薄で、真っ当でない、ヤマグチという男だけだった。
彼は続ける。
「オレ、まじで月並みなことしか言わねぇけどさ。でもやっぱ思うわけ」
烏龍茶を飲み干して、僕は初めて彼を見た。ヤマグチは、少し照れ臭そうに、こう言った。
「アンタの代わりはどこにもいねぇし、死んだらみんな悲しむ。だから、やめようぜ」
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