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a_msu
2025-05-25 15:42:41
5718文字
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タイトルはまだない楽紫
当然未完!先はまだない(笑)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24404352
↑こちらを見てからじゃないと意味わかりません!
以前見かけた時程力がない。
そう思ったのはこの乱世における巨星を落とし、天下の流れが変わった頃の事だった。
彼との関りは立場上その殆どが戦場での事であった。見かけた姿は常に力強いもので不利な陣地に居れば颯爽と現れて場を整え、敵陣に突っ込めば先陣を切って敵を討つ。
風のようだ。
そう思ったのは恐らく楽進のみの話ではなかっただろう。軍の中には彼、無名に助けられた、救われたと語るものは本当に多く、片手でも両手でも足りないほどであった。中にはその存在感や、無官の強者である事、或いは自分達の仕える主に鸞と評された事から真に神仙の類ではないかと囁くものもあった。
当たり前にそれは本気ではなく、ただ、そう思えるほどに不可思議な存在として映っていたのだ。
出身は不明、これといって定められた主もなく、なによりもその武人としての強さ。
憧れを抱く人間は掃いて捨てるほどに居た。実際楽進もその一人で彼のように強くありたいと心から思っていた。興味を抱いて、その本質がどうしても知りたくて図々しくも声をかけりもしたのだ。
しかしそうして声をかけてみて驚いたのは、近くに寄ると遠くから見ていた時の印象から彼が全くかけ離れているという事だった。
無口であるという事は想像通りだったが、意外にその言動は幼く己の出身についても記憶にないと言った。自身についてはある日突然目覚めたような感覚であり、その時目の前にあった集落らしき場所は焼かれていたとか。恐らく乱世故に戦に巻き込まれた等の理由からとは思うがそこで命からがら助かって、しかし、自分が何者なのかという事について全く頭から消えていたのだという。
何故ここで倒れているのか。
何故一人なのか。
一体何が起こったのか。
訳も分からない最中今まで生きてきたと。
武芸に己が明るいのだという事も、なにかわからないかと焼け果てた集落を彷徨っていて偶然手に取った剣が手になじみ、振るった事で自覚した事らしかった。他人よりもそれに優れていると気が付いたのは生きる為、金を稼ぐ為に仕事をし始めた故だったとか。
幸い世は乱れており、そのような力を求める仕事は山のようにあった。
だからこそ飢える民を横目にしながら食うには困らなかったらしい。妙な罪悪感を抱きながらどうにも出来ずに広大な大地を彷徨っていたと。
たどたどしい言葉で丁寧に伝えられる事実を聞きながら楽進はその彼のどこか幼い様子の理由を理解した心地だった。恐らくだが彷徨い果てる中で親身になってくれる人に恵まれなかったのだろう。いや、その言い方はおかしいかもしれない。聞けば困り果てる彼に仕事を紹介する様な手間を取ってくれた他人は十分にいたようだった。
ただ、所謂家族のように心を傾けてくれる相手には出会わなかった、といえばいいのか。
記憶がない弊害から無名は己の正確な年齢を知らないと言う。それでもその見た目から逆算すればその彷徨い果てていた頃まだ十代前半の少年だったことは伺えた。幼子ではないかもしれないがまだ一人で生きるには早すぎるともいえる。普通なら親の加護の元成長を見守られる段階だったのだろう。
その機を彼は失ってしまった。
故にどこか純真で、どこか惑うような、不安定な様子なのだ。
無口なのは何を言っていいのかわからないのだろう。いつも誰に話しかけるでもなくぼんやりとしているのはそれ以外どうして良いかわからないからだ。
そこに拍車をかけるのが生来彼が持つ神秘的な雰囲気のせいなのだ。
誰も彼もが力を持つ無名に憧れてそれ故に距離を取る。人としてというよりは、なにかそれ以上の存在のようにして悪い意味ではなく敬遠される。面倒を見てやろうというのではなく、その神の使いかのような力を求めるように接されてしまうのだろう。
食べる事が好き。剣を振るう事も嫌いじゃない。でもそれ以外の事はよくわからない。
それが正直なところだとあまりにも幼げに彼は言った。
しかしそれでも戦に参加している事には信念があるのも見え隠れしていた。なんというのだろうか、だた生きる為、金を稼ぐ為というのではなくこの乱世をどうにかせねばという真っ直ぐな気持ちがそこにはあった。生き方を決められる力を持つ中で、それは唯一自分がそうしなければと思う部分だと。
太平の世。
この国で、皆が安寧に生きられる、そんな世を望んでいるしそれが成せる人の力になりたいと思っていると。
そうせねば、そうしなければ。
切実で悲しい目がそうと言った。まるでそれは力を持つ者の義務であると言うように。
きっと近々でまたなにか辛い事があったのだろうと察せないはずはなかった。
何があったのか、などはわからなかったが気落ちしているのはよくわかった。そうなると当然の流れで力になりたいと思ったのだ。もちろん当たり前に何ができるわけでもない。楽進自身は一介の、それこそなったばかりのただの一将でありまだまだ未熟な若輩者だった。
ただ、同じ若輩者だからこそ出来る事もあるだろうとも思った。
惑った時自分はどうしたいだろう。どんな手を差し伸べて欲しいだろう。近い感覚でそう想像することはできた。だからこそどこか俯き気味の無名を見かけた時にはなるべく声をかけて手合わせでもどうだと誘いをかけた。
気分が晴れない時、悩みがある時、それをどうして良いかわからない時、そしてそれを言葉に出来ない時に求めるものはそれだろうと思ったからだ。
何も考えずに剣を振るう時間。
それがほんの少しでも救いになると。
実際そうしているときの無名は戦場で見たままの力強い様子だった。鍛錬用の木剣を振るい、あらゆる角度から斬撃を振り落とす。一撃一撃が非常に重く気を抜けばあっという間にやられてしまうだろうと想像がついた。だからこそ本気で相手をして、するとほんの少しだけ気持ちが晴れたという顔をしてくれるのだ。
その日、沐浴の誘いをかけたのは本当に偶然の事であった。
元々そういう予定で楽進自身出仕の仕事自体は休みであった。それが偶々無名を見かけて手合わせに興じたのであって仕事に戻るという必要もなかった。だから何気なく善意で声をかけたのだ。疲れているだろうし、汚れをどうせ落とすのなら、と。断られても仕方ないような無遠慮な誘いであったが意外にも応じてもらえ、あの、まさかの事になったのだ。
恐らく誰にも打ち明けた事ができなかったのであろう彼の弱さ。
それが正直、本当にそこらにいる人たちと変わらないものだった。この乱世で大切な人を亡くした人は沢山いる。それは家族だったり、恋人だったり、友人だったり。しかし多くある事だからと言ってそれが軽んじられるわけではないだろう。その、誰しもが持ち得る苦しさを彼も持っていた。
好きな人がいた。けれどいなくなってしまった。それが、とても、寂しいと。
その人間味に溢れた苦しみが、どう表現していいのか、とてもいじらしくて、場違いな事だが可愛らしいと感じた。もしも叶うのならばその寂しさを自分が埋めてやりたいと。けれど当たり前にそうとは言いだせずにいるとまるでそれを察したように手を伸ばされた。
自分が、嫌いか。
そう言った時の必死で、縋るような目。助けてくれ、なんとかしてくれという弱さにまみれた瞳を自分に向けられたという事実は真実気が狂いそうなほどの熱を生み出した。その時の彼にあったのはある意味では誰でもいいというものだったと思う。いや、少し違うのか。自分を大事に思ってくれる相手なら誰でも、これが本音だったのだろう。そこに恋や愛という甘い感情はなく、ただ、誰かの優しさに縋りたいと言う必死な想いだけだったに違いない。
それを責める事はない。
人は誰しも一人では生きられない。誰かが傍にいて、言葉を交わして、時には寄り添って生きる事が普通だ。それを求める事は罪悪でも何でもない。
ただ、その時それに応じる楽進の方に下心があっただけだ。
無名は強さもさることながら、容姿にも非常に優れていた。だからこそ余計に人目を引いていて、助けられた誰しもが一度は彼に恋心を抱いただろう。前述したとおりそれは楽進とて例外ではない。親しくなればなるほどに、新しい一面を知れば知る程にそれは淡いものでも無くなっていた。
側に居たい、認められたい、自分を見て欲しい。良く思って欲しい。
そういう下心がある意味成就したかのような行為はそれこそ夢のようだった。褥を共にし、肌の温もりを分け合う。行為そのものが目的であって心の通い合うようなものではなかったが、寂しさを埋めたいという心のままにそうとは思えない温かなものだった。
甘える様な仕草は可愛らしく、求める様なそれは厭らしく、
翻弄されながらも精一杯務めを果たせば満足いく結果を出せたのか以降、幾度となくそれを求められた。
決して、決して好かれているわけではない。
そういう言い聞かせは何度も何度も頭の中で繰り返した。自分はただ、彼にとって触れられても嫌悪感の無い相手であるというそれだけなのだと。だからこそ、境界線は定めていた。一つは己からは求めない事、もう一つは口づけはしない事。それは心から想い合っているもの同士がする事だと思ったからだ。
しかしそう言い聞かせていても彼は振り向いて、手を差し伸べて、目が合えば嬉しそうに駆け寄ってくれる。
決してそうでないように努めたつもりではあったがその特別感にかなり舞い上がっていたのだろう。周囲が変化に気付いて厳しい目を向けてくるのには時間はかからなかった。もちろん全員というわけではない。中には何も言わず見守ってくれている人も居たが主に歳の近しい将や兵となると隠す事なく嫉妬を向けてくる者もあった。中にははっきりと色香に惑わされた腑抜けだと罵ってくる者も。
それに関しては己だけではなく無名に対する侮辱でもあったので言い返しはしたし、事実そうならないように努めた。口では何と言われようと事実は伴わなければいずれそういうものは消えゆくものだと分かっていたからだ。中にはそれよりも趣味の悪い者も居て褥での無名の様子を聞かせろと下碑たからかいをしてくるものもあった。
もちろん当たり前にそれに馬鹿正直に答える筈もない。ただ、その事を否定もしなかった。
そういう関係にある事が事実である事を。
噓がつけなかった、と言えば聞こえはいい。ただ、下心は確実にあった。自分が彼の許可を得て触れている事、そう、ある意味で今ここに居る誰よりも特別である事。優越感に浸りたかったわけじゃあない。ただ、無名が今自分の手を取っているのだと周囲に示したかった。
そうした理由は本当に下らない事だ。彼が本当に、多くの人の目を引く存在だったから。その目を少しでも減らしたかった。特にそういう下品な連中を彼の視界に入れたくなかった。
事実は決してそうではないが、もう自分のものだから触るな、と。
本人の許可も得ずに楽進が勝手にした事だったがその代償は早々に返ってきた。
本当に突然、無名に避けられるようになったのだ。まるでその思い上がりを咎めるように。最初は偶然かと思っていた。彼はその存在の性質上そもそも全くの別勢力に足を延ばす事もある。そういう事かと思っていた。
しかし蓋を開けてみれば彼の存在自体は近くにあった。
今まで多くの時間を過ごす中で彼の選ぶ道については幾度となく聞かされていた。曹操だけではなく、元義勇軍の馴染みである劉備、そして孫家の勢力にも顔を出しており気にはなっていると。しかし時間が経つにつれて曹操麾下を選ぶ決意が固まってきているのもわかっていた。だからそれ自体は当然ではあるのだがそうなると距離の都合ではなく、明確に、自分が避けられているのだと言う理解にたどり着くのは難しくはなかった。
最初はかなり戸惑いを感じ、何かまずい事をしたのかと心当たりを探ったが特に変わった事をした覚えは全くなかった。不愉快な顔を見せられたこともない。
ならば、何故。
そう思った時にぶつかった心当たりがその思いあがった行動の事だった。決してそういう風に手を取り合った間柄ではなかったというのにまるでそうであるかのようにふるまった事。それが彼の逆鱗に触れたのではないだろうかと。
冷や水をかけられた心地がしたが自身の性格上それを確認もせずに引き下がる事は出来なかった。もし、そうならそうで本人の口から聞きたかった。怒っているのではない、咎めているのでもなく、引導を渡して欲しいと言う感情に近い。
好きな相手に嫌がられたかもしれないと言う悲しさや悔しさの感情に振り回されて殆ど勢いで言葉をかけて、結果、無名はそんな事は一切思っておらず、ただ関係を深める事で楽進が周囲に貶められる事を憂いていただけであった。
その心根は本当に美しく、優しく、むしろそう思われたかもしれないと考えていた己の浅ましさや低俗さが浮き彫りになる形となった。そこからして、元々自分は釣り合うような相手ではなかったのだ、と。
だから、もう諦めようと心から思えた。おかしな執着をして困らせまい。それが自分に出来る唯一の事なのだろうと。
故に自分の中に燻ぶっていた恋心と同じくらいにあった卑しい心根を正直に打ち明けて頭を下げた。申し訳なかったと。
それでしまいだとそう思ったが、意外だったのは無名に引き留められ感情の片鱗を見せられた事だった。苦しそうな、悲しそうな、置いて行かないで欲しいという迷い子のような。最初の時に見せられたものと類似していながら確かにそこに本当に自分に向けられた情を見た。それを、それでもと突き放せるほど楽進も人間が出来ていなかった。
それから無名は楽進に向けてはっきりと好意を口にしてくれた。
好きだと言って、境界線を越えて口付けを交わして。
その日、確かに互いに大事な、特別な人になった。
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