なかみゑ
2025-05-25 15:08:39
3505文字
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【伏木蔵SS】ふところのおもい

『懐から何巻きでも包帯が出てくるように見える六年ろ組保健委員の鶴町伏木蔵先輩が、胸に抱いている思いとは?』
六年生の伏木蔵が大切な人を思いつつ、とっても先輩をやっている話。

オリモブ後輩がいます。カプなしつよつよ好意あり、書き手はカプも書く人。3000文字弱。

【ふところのおもい】




「あっ、六年ろ組、保健委員の鶴町伏木蔵先輩!
 学園長の思いつき競技の途中で足をくじいてしまったんです、助けてください!」
「新入生の一年は組、火戸里目野裳舞(ひとりめの もぶ)くん、説明セリフありがと~」

 競技のため山道を走っていた伏木蔵は、座り込んでいた裳舞を見つけて足を止めた。
 手早く患部を診て、懐から包帯を一巻き取り出す。

……はい。これで救護所までは戻れると思うよ~。
 でも応急処置だから、無理はしな……
「あっ、鶴町先輩!」

 包帯を巻き終えて裳舞に動き方を言い含めていると、新たな怪我人がやってきた。伏木蔵はまた懐から包帯を一巻き取り出す。
 手当てが終わるころにまた一人、今度は二人と、なぜだか今日はやたらと怪我人が通りかかる。一年生がほとんどで、二年生三年生も少し。四年生以上が姿を見せないのは、そのくらいになると自力でどうにかして競技を続けるなり救護所まで戻るなりしているからだろう。

 うーん……ぼくが入賞するのは難しくなったかも~。

 これも不運委員会ゆえかと伏木蔵は苦笑しながら、懐から包帯を取り出しては後輩たちに処置をしていった。
 この人数の面倒を見ていたら競い合いに戻れる可能性は低いだろう。先頭集団を狙えたにも関わらず脱落が決まったようなもので少し悔しい。けれど落ち込むほどではない。

 このくらい保健委員のみんなと鍛えてきたぼくにとって大したことじゃないし。不運といっても悪いことばかりではないもの。

 伏木蔵には不運にもへこたれない仲間がいる。そして、つらい状況を乗り越えれば強くなれるのだと身をもって示している大切な人がいる。そんな宝物のような人たちがいるから、伏木蔵も笑っていられるのだ。

 むしろぼくは根っこは幸運な人間なんじゃないかと思ってる。忍術学園に入れてもらえて、みんなにも先輩にも……あの人にも出会えたんだから。

 大好きな仲間や大切な人の姿が心に浮かんで、思わず笑みが深くなる。
 伏木蔵はまた懐から包帯を取り出して、機嫌良く処置を続けていった。

 そうして、包帯を出しては巻き、出しては巻きと、手当てを続けてしばらく経ったころ。臨時救護所のようになったこの場にまだ残っていた裳舞が、不思議そうに問いかけてきた。

「あの……鶴町先輩」
「なーにぃ?」
「先輩はどれだけ包帯をお持ちなんですか?」

 言われてみれば今日は手持ちの包帯をそこそこ使った。新入生の裳舞の目には、懐からいくらでも包帯が出てくるミステリーでサスペンスな先輩に見えているのかも知れない。

 わかるなあ。ぼくも不思議だったもん。

 懐にナメクジ入りの巨大な壺を入れている同輩、恐ろしい量の焙烙火矢を出してくる先輩など、どうやって持ち運んでいるのかわからない物はけっこうある。伏木蔵は自分はまだまだだと思っているけれど、似たように見えるのなら嬉しいと思う。

「んー、そんなにたくさんは持ってないよ~?
 もしも身長が六尺ある人が全身を怪我したとしても隙間なく巻けて、それでもまだ余るくらいしか……
「めちゃくちゃ持ってるじゃないですか!」

 その場にいた後輩たちが全員ズッコケる。一年生はただただ包帯の量に驚いているが、二年生三年生は「ああ、あの人か」と察したような顔をしていた。

 あの人。一度見かけたことのある生徒ならば忘れるはずがないあの人に、出会ったころの伏木蔵はまだ一年生だった。

 あの時は、泣いちゃったんだよねぇ。
 
 六年生になった今でもよく覚えている。
 あの人がどれほど酷い状態から立ち直ったのか。それを深く思うようになったとき、伏木蔵は泣いてしまった。
 泣き出すなり、学園長と話をしていたはずのあの人が飛んできて「今はもう大丈夫だから」となぐさめてくれたけれど。
 あまりにも辛くて、当人になぐさめられてしまう罪悪感もあって。なぐさめられても涙を止められない自分がまた情けなくて、伏木蔵はさらにぼたぼたとこぼれてきた涙をあの人の忍び装束に受け止めさせてしまった。

 大丈夫なんかじゃなかったし。

 それから少しして、伏木蔵はあの人の体はやはり楽ではないのだと察することができるようになった。
 大丈夫だなんていうのは、優しい嘘。
 あのとき涙が止まらなかったのは、そんな優しい嘘に心のどこかで気づいていたからなのだろうと思った。

 あの人は怪我をした時は手当てをさせてくれるようになったけれど、過去に受けた傷をないもののようにふるまうのは変わらなかった。
 苦痛をさとらせないのも忍者としては褒め称えられることだが、痛みを隠されてしまうのは悔しい。
 心の痛みも同じように隠しているのかと思うと胸が苦しくなってしまう。
 あの人は手当てをされながらも助言をくれたりする。伏木蔵たちに助け舟を出しては目を細めて見守っている。
 慈しみを与えるばかりで本当の痛みには触れさせてもくれないのは、優しさであり拒絶だ。

 ぼくにも差し伸べられる手があったら良いのに。

 あの人を大切に思うほどに、伏木蔵はうつむくような気持ちにも襲われる。あの人になにかしてあげたいなんて、身の程知らずな願いなのかも知れない。

 それでもぼくは、泣くしかできない子供のままではいたくない。

 伏木蔵はぐっと心を押し上げて、自分にできることを探した。

 せめて、見せてくれる怪我だけでも。
 
 そして包帯や薬を持ち歩くようになって、少しずつ量を増やして……今がある。


 伏木蔵が持ち歩いている包帯を全部あの人に使う機会なんてきっと来ないだろう。いや、絶対に来ないで欲しいと思う。
 けれど、もしもあの人が危機に陥ってそこに駆けつけることができたなら、なんだってしたい。
 懐にした包帯や薬の数々はそんな意志の証。
 あの人に出会い、あの人に接しながら育たなければ存在しなかったであろう、今の伏木蔵の姿の一部分だ。


 ようやく途切れた怪我人にひと息ついていると、なんとなくあの人にそろそろ会えそうな気がした。

 ふふ。今年は何人の新入生の魂が抜けちゃうんだろうね。

 忍術学園でときどき見られる光景のひとつとなった、タソガレドキ忍者の来訪。まもなく裳舞たち新入生もそれを見ることになるだろう。
 ゆるく協力の姿勢を続けているけれど決して単なる味方にはならない忍術学園にとっての脅威。伏木蔵を腹の底から震わせるほど強大な存在でありながら気さくでおちゃめで時にはズッコケてくれる忍び組頭と、付き従うも誇り高い多様な忍者たちの姿を。

 出会いはスリルでサスペンス。君たちもびっくりするような人にいっぱい出会って、いっぱい見て、いっぱい考えて、いっぱい学ぶといいよ。びっくりしすぎて魂が飛び出しちゃったら、ぼくがつかまえてあげるから。

「どうやって持っていらっしゃるんですか?」
「そんなにあったら布でも重くないですか?」

 裳舞たちの無邪気な質問に囲まれながら、伏木蔵はかの忍び組頭のように妖しく目を細めた。







あとがき

まず、先日の伏木蔵学年アンケートにご協力いただいた皆様ありがとうございました。おかげさまで六年生になりました。しかし書き進めてみたら保健委員長は出てこなくなってしまって……委員長詐欺すみません……

タイトルは掛詞です。

「懐」と「ふと(思い出す)ころ」

「重い」と「想い」

あたりをかけています。

胸に想いを抱いているというか、腹に重いものを持っている鶴町先輩。


しかし、ギャグ風味の『懐からなんほでも包帯が出てくる鶴町先輩』が書きたかっただけでしたのに、どうしてこうなったのやら。シリアスめかした仕上げになったこと自体がギャグだと思ってください。

ちなみに当伏木蔵は頭巾から包帯をピロピロ出す芸もできます。昆奈門さんごっこならまかせろの構え。

ときに、「すがり」という地名があるんですね。オリモブくん、初期は「とおりすがりの」くんだったので、当て字を探していて見つけました。
実在地名と漢字が一致するような名前は避けようとしていますが、もしうっかりを見つけたら教えていただけると助かります。

ではでは、お読みいただきありがとうございました。
リアクションなどいただけますととても励みになります。よろしければ。


2025.8.30改稿:アニメ32期『嫌われる理由』を観て解釈が変わった部分を書き換えました。