夜中にふと目が覚めたと思ったら、シスネの啜り泣く声がした。正確には目が覚めたらではなく、俺はシスネの泣き声で目を覚ましたのだろう。ベッドの中、俺に背を向けてぐすぐすと泣くその肩は酷く小さくて、どうしようもなく胸が締め付けられた。考えてみれば、シスネの泣くところを見るのは初めてだった。
「シスネ」
後ろから強く抱き締めると、急に嗚咽が引っ込んでしまい何故だか少し勿体ない事をした気分になった。腕に馴染むか細い身体は冷たく、少しだけ震えている。
「どうした、怖い夢でも見たか?」
振り返らない背中に、自分でも寒気のしそうな声で優しく訊ねる。するとシスネは再び泣き出してしまった。
「どうしたんだよ、と。……ほら、こっち向けよ」
「……っ」
「どっか痛いのか? それとも誰かに虐められたか?」
まるで子供を慰めるように、ひたすら馬鹿な質問を重ねていると、シスネはついにこちらを向いた。濡れた睫毛の奥の大きな瞳がどこか不安そうに俺を捕える。頬に伝う涙の雫が、宵闇の中できらりと光って見えた。
「……レノ、が」
「は? 俺かよ」
「レノが、死ぬ夢を見たの」
一瞬だけ、呼吸を忘れた。理由は解らない。
「みんな、みんな死んじゃうのね」
夢と現実の境がよく解らなくなったように、シスネは絶望的にそう呟いた。皆、というのが誰を指すものなのかは解らなかったが、先立った家族だとか友人だとか、はたまたその手で命を奪ってきた沢山の人間の顔だとかが、数知れずシスネの脳裏には蘇っているのかも知れなかった。その中に仲間入りを果たす自分を想像して、俺はぞっとした。
心配すんな。俺は絶対死なないぞ、と。恐らくこの状況で返すべき軽口が、あまりにも無責任な気がして音には出来なかった。代わりに俺はその小さな頭を自分の胸に押し付け、そっと撫でてやった。
「俺は生きてる。それにお前も」
「でも明日には死んじゃうかも知れないわ」
「……死ぬのが怖いか?」
くだらない問答だと思った。全てには終わりがある。死は避けようのない自然の事象。いつか来るその日に今から恐怖したって仕様のない事なのだ。そんなごく当り前のこと、シスネだって当然解っているはずだった。けれどもシスネは死ぬことが怖いのではなく、消えることが恐ろしいのだと言った。
「……レノは、きえないでね」
それこそ自分が消えてしまいそうな、小さく擦れた声でシスネはそう囁いた。
「レノだけは、私より先に死んだら駄目よ」
縋るように言うシスネの言葉を、俺はただじっと聞いていた。返す言葉は何も持たなかった。果たせるかどうかも解らない約束など初めからしない方がいい。それでもシスネが望むなら、俺はシスネを置いて死んだりしないと誓いたいと思った。返事の代わりにもう一度強く抱き締めてキスをしながら、腕の中の女がいつか死ぬ日のことを考える。
温もりが消え、存在が消え、記憶が消え去り、やがては電力として消費される。全てがなくなり過去形となって、独り取り残される自分。どこまでも残酷なことを命じるこの女が、ただ愛おしかった。
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