🐼🎋
2025-05-25 11:14:11
4302文字
Public 村荒
 

きらきらひかる

村荒ワンライ。お題「また明日」
※村と荒の出会いを捏造
※友情出演来先輩
初出:2021/04/19 本垢べったーより一部修正済みでの再掲

「荒船君、ちょっといいかな」
 本部のランク戦室で個人ランク戦を終えてロビーで一休みしていた時、後ろから声を掛けられた荒船は顔を上げて振り返る。
……え、と」
 そこに立っていたのは荒船より年上だろうか、優しい顔立ちをした、どこか見覚えのある青年だった。荒船は戸惑いながら掛けていたソファから立ち上がると「あ、ゆっくりしてるところごめんね」とその青年は申し訳なさそうに頭を下げた。
「ぼくは鈴鳴支部の来馬辰也って言います」
「すずなり……
 鈴鳴支部。聞いたことがない支部名だと思ったところで、風の噂で新しい支部ができるというのを思い出した。来馬、という名前は、確か高校の先輩にいたはずだ。しかし何故その新しい支部の人間が声を掛けてきたのだろうか、とやはり困惑しながら「荒船哲次です」と名乗り返すと、来馬の後ろにもう一人立っているのに気が付いた。
「そして、こっちが鈴鳴支部に配属になった、村上鋼」
 紹介された青年は名乗られると同時に「よろしく」と一礼をする。それに荒船も礼で返すと、村上と呼ばれた青年をまじまじと見つめた。
 灰緑色の髪は前髪を後ろに撫で付け、少し太めの眉に少し重たそうな褐色の瞳は全体的に呑気な印象を受けるが、今は緊張しているのか、その褐色の瞳を真摯に荒船に向けている。歳は同じ頃か、或いは年下か。
 そして隊服はよく見る白――C級。新人か。少し前に入隊式があったかと思い出した。
 ともかく、荒船は村上も見覚えがなかった。そもそも荒船もまだ攻撃手でマスターランクまであと少し、のところだ。新人指導を任されるような立場ではないし、接点のない支部の新人と顔を合わす機会なんてものは無いと言ってもいい。
「鋼は本部に来るのが二回目で、詳しい案内も兼ねて紹介して回っていてね」
 鋼と荒船君、同い年だから仲良くできるんじゃないかって思って、と言う来馬に、荒船は成程、と頷いた。
 新人の村上の紹介もそうだが、新しく設立された支部の紹介の意味合いのが強いのかもしれない。C級を連れて紹介して回っているということは、村上とやらはスカウトか何かで入隊した、所謂『期待の新人』といったところか。支部所属ということは、村上がB級に上がったら鈴鳴支部で新しく隊が立ち上がり、そして、この来馬が隊長、ということなのだろう。
 支部所属のチームがランク戦に出てくることは珍しいが、こうして紹介して回っているということは、ランク戦に参加する予定なのかもしれない。――いずれは戦う相手。
「お前、ポジションは決まってるのか?」
「攻撃手、らしい」
 攻撃手か、と荒船は声に出さずに呟く。入隊前後ということはまだトリガーの勉強をしているところか。
 使用トリガーは決まっているのか、と荒船が聞けば、「弧月だ」と村上が答えた。
 入隊当初は、ボーダー側が適性を見て初期に使用するポジションとトリガーを決定する。確かに影浦の様にスコーピオンを使用して身軽に動くようには見えない。かと言って狙撃手よりは前線に出る方が合っているようにも見える。確かに弧月は合っているように見えた。
「なるほどな」
 うん、と一つ頷く。弧月使いの期待の新人、村上鋼と言ったか。名前を憶えていて損はなさそうだ。
「その、記録で見たんだが、荒船、君、も弧月使い、なんだよな?」
 少し緊張気味の村上の問いかけに荒船は「ああ」と頷くと、村上は目を瞑り、一度深呼吸をした後に改めて荒船に向き直った。褐色の瞳を、荒船に向ける。
「お願いが、あるんだ」
 そう言った村上は、そのまま姿勢を正し、頭を下げた。
「オレに、攻撃手としての戦い方を教えてくれ」
「は?」
 荒船は下げられた頭をぽかんと見つめる。今、何と言われたのだろう。
「オレに、攻撃手としての戦い方を教えてくれ」
 村上は律義に同じ台詞をもう一度言う。荒船は一つ息を吐くと、とりあえず頭を下げたままの村上に顔を上げる様に言った。
「荒船君、混乱させてごめんね」
 横で様子を伺っていた来馬が荒船に声を掛ける。顔を上げた村上と共に、荒船は来馬を見た。
「鈴鳴は出来たばかりの支部で、今いる隊員もぼくと鋼と、あと二人しかいないんだ。あとの二人も、一人は鋼と同じ新人で、もう一人はオペレーターでね。ぼくが教えてあげられたら良かったんだけど、ぼくのポジションは銃手だから、攻撃手の戦い方は教えてあげられなくて」
 だから、出来れば鋼に指導してほしい。
 そう告げる来馬に荒船は戸惑いの表情を向ける。そして、来馬が村上を伴って荒船に声を掛けた本当の意味を漸く知った。
 しかし、何故自分に師事したいのか。そこがわからない。
 ボーダーには強い弧月使いは沢山いる。戦闘の記録を見ているなら尚更わかるだろう。そもそも、荒船はまだマスタークラスになっていない。なのに、何故。
「あのね、荒船君。一つ提案があるんだ」
 困惑している荒船に、来馬は、今時間大丈夫? と声を掛ける。荒船は戸惑いながらも頷く。それに来馬も頷くと、個人ランク戦のブースへと荒船を誘った。





 ルールは、サブトリガー無しで弧月一本のみの五本先取。ポイント移動は無し。
 ただし、どちらかが三本先取した時点で、休憩を十五分取る。

 このルールで村上と対戦をした荒船は、三本連続で先取し、今は休憩をしているところである。
 村上は、やはりというか初心者だった。弧月の握り方もなってないし、動きもどう動けばいいのかわかっていない。それでも、荒船の動きを読んで動こうとする場面はそこかしこで見られた。
(記録を見てたってのは、嘘じゃねえってことか)
 ちゃんと鍛えれば強くなりそうだ。ぼんやりとそんなことを思う。
 荒船に決まった師匠はいない。自分で考え、自分で動き、失敗した所はどこがいけなかったのかを考え改善し、良かったところは更に上へ行ける様に考える。それでもどうにもならなかった所だけ、教えを乞いに行っていた。
 どうすれば上手く捌けるか、どうすれば素早く躱せるか。どうすればもっと強くなれるのか。
 荒船の考えた理論はそれらを肯定するかのように、荒船のポイントとして反映されていった。そしてそれはもうすぐマスタークラスのところまで来ている。
(あとは、この理論が俺だけじゃなく、他にも通用するかってところか)
 まだマスタークラスになっていないし、考えもしていなかったが、弟子を取るのも悪くないのかもしれない。
 そう思いながら時計を見る。もうそろそろ休憩が終わる時間だ。





「荒船君、お疲れ様」
 荒船が個人ブースから外に出たところで、来馬が声を掛ける。そこへ、村上も近寄ってきた。
 結果として、その後も荒船が二本先取し、一本も取られることなく荒船が勝利した。しかし、休憩前とは明らかに村上の動きが変わっていた。荒船の攻撃を避ける場面も多く、また反撃する素振りも見せたのだ。休憩を挟んだといって、こんなに早く順応できるものなのだろうか。疑問に思い、個別ブースの通信で問うと、そういうサイドエフェクトを持っていると告げられた。
 寝れば、学んだことを経験として反映されるサイドエフェクト。そんな強力なものを持つこの男は、確実に強くなる。――荒船に頼らなくても、強くなれる。
 そんな男が、荒船に教えを乞うている。
 まだ、基礎も知らないこの男に、自分で考えた理論を叩き込んで、強くする。
 真っ白なキャンバスに、自分の色を染め上げる様に。
 ぞくりと、背中から湧き上がる感覚。快感にも似たそれは。


「荒船、君、付き合ってくれて有難う」
 村上が荒船に一礼をする。その顔は楽しかったと言わんばかりににこやかだった。荒船はその顔を見て、口角を上げる。
「荒船、でいい」
「荒船」
「また明日、来れるか」
 村上はきょとんとした顔を向ける。荒船は来馬に向き直ると、「来馬先輩、さっきの話、お受けします」と応えた。
「本当かい!?」
「はい。俺でよければ、しっかりと鍛えてみせます」
 来馬が村上に「よかったね、鋼」と自分の事の様に嬉しそうな声で言うと、村上は来馬を見た後に荒船に顔を戻した。
「鋼、また明日、この時間に来い」
 完璧な攻撃手に鍛えてやるよ。言外に含ませてニヤリと笑む。村上はその顔に喜色を浮かべると、力強く頷いた。
「村上、了解」





「来馬先輩、有難うございました」
 鈴鳴支部への帰り道。村上は隣にいる来馬へと頭を下げた。
「どういたしまして。でも、よかったね」
 荒船君、快諾してくれて。その言葉に村上は「はい」と頷いた。

 トリガーの説明を受けていた時に見た戦闘の記録。その中でとても惹かれる人物がいた。
 弧月という剣のような武器を使い相手と打ち合う彼は、斬撃を避けると狙撃の援護を受け、相手に切りかかる。その動きがまるで舞うように華麗で、目が離せなかった。
 その試合は彼が勝ち残り、アップで映るその顔にもとても惹かれた。意志の強そうなアーモンドアイには勝った嬉しさで目が細められていたが、その満ち足りた様子の笑顔に、綺麗だ、とそう思った。
 同じ男に向ける言葉ではないのかもしれない。だが、彼は本当に綺麗で、それでいて格好いい。村上の彼に対する第一印象はそれだった。
 それから村上は数々の戦闘の記録を見ていく中で、彼が映っている記録を見ていると、自然と目が彼を追っているのに気が付いた。目に焼き付ける様に彼の動きを追い、彼が勝てば自分の事の様に嬉しく、負けてしまえば悲しかった。
 その時に、自分はこの人の様に強くなれるのかと、ふと思った。強化睡眠記憶というサイドエフェクトがあるため、それを生かせば強くなれるだろうとは思っていた。しかし、それならば学ばなければならない。自分は、戦ったこともない初心者だ。
 それについて来馬に問えば、「本部で攻撃手の方に戦闘を学ぶ方法があるよ」と教えてくれた。ランクの高い人の弟子になって教えてもらう人も沢山いる、と。村上は、学ぶなら彼がいいと、彼の映る記録を見ながら思った。彼から教えてもらう知識で、強くなりたい、と。
 村上は、その為に来馬に手伝ってもらい、彼の事を調べ、今日こうして彼――荒船に弟子入りすることが出来た。

――また明日、この時間に来い。

(また明日、会える)
 そう思うだけで心があたたかくなる。
 明日から始まる荒船との日々を想い、早く帰って今日は早く寝ようと村上は歩く速度を上げた。