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夢篠
2025-05-24 19:01:13
1952文字
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性癖パネルトラップ④
名前を呼ばれる雑渡昆奈門
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
は私の事を、名で呼ばない。組頭、組頭と、私は
ナマエ
の何者でもないのに、名前で呼んではくれない。何度も何度も名前で呼んで欲しいとお願いしたのに。
ナマエ
は里では微妙な立ち位置の娘だった。所謂抜け忍びの娘だ。母親を早い内に亡くした
ナマエ
を育てた彼女の父親は、その妻を喪って気でも触れたかのように偏執的になった。まるで妻に似せるかのように娘を飾り、そして妻と娘の違いに耐え切れなくなり自ら最期の道を選んだ。
幸いにして
ナマエ
は巻き込まれなかった。というか捨て置かれた。全てを知った
ナマエ
は困ったように眉を寄せて「そうですか」と微笑んだ。解放されたような笑顔だった。
ナマエ
は忍びにはなれない。女だから。その父が
ナマエ
を彼の妻のように育てたから。かといって里にも馴染めない。最早
ナマエ
を顧みる者はいないから。だから
ナマエ
はタソガレドキの忍びにも里の人間にも成り切れない。中途半端な立ち位置だった。
「組頭」
「
ナマエ
、何度も言っているけれど、私の事は」
「組頭は組頭ですもの」
綺麗な顔で微笑む
ナマエ
は今、私の屋敷で女中として働いていた。後ろ盾の無い彼女を殊更に引き立てたのは私情以外の何物でもない。ずっと彼女を見ていたから。
「ねえ、でもさあ、私はお前の組頭ではないよ」
意地悪かとも思うけれど、纏わり付くように顔を覗き込む。
ナマエ
が困ったように笑うのが腹立たしかった。
「私は、里の人間ですもの。組頭の事は組頭と呼ばなければ」
ナマエ
はきっと、自分の出自を支えるために私を殊更にそう呼ぶのだと知っている。私を「組頭」と呼ぶ事で、里の一員であると証明したいのだ。でもそれならば。
「
ナマエ
、ねえ、私の事を名前で呼んでご覧」
「
…………
?雑渡さま、?」
「そうではなくて、昆奈門、と」
ナマエ
がひゅうと息を吸ったのが聞こえた。
ナマエ
は表情を殺すのが上手い。それでも僅かに動揺が見て取れた。
「畏れ多い事です」
首を振る
ナマエ
の無造作に置かれた手を取る。逃げようとする手を確りと握る。何のためにこの存在を手に入れたのか。憐れむためではない事だけは確かだ。指を絡めるように纏わり付くように小さな手を握る。
ナマエ
が困ったように控えめに手を引こうとした。
「どうして?お前はタソガレドキの忍びではないし、言うなれば私はお前の主人だよ」
「それでも、私があなた様をそう呼ぶ訳には参りません。だって私は」
「裏切り者の娘だから?」
ナマエ
が小さく頷くのが見えた。迷った挙句手を伸ばす。
ナマエ
は拒絶しなかった。出来る立場に無い、と言った所だろう。
「
……
本当に。私は恵まれているのです。こうやって、組頭に引き立てて頂いて。裏切り者の血は絶やされてもおかしくないというのに」
「私がそんな事をすると思う?」
「いいえ、いいえ。でも、組頭が許しても、他の方が許さないでしょう」
穏やかな凪いだ目だ、全てを諦めた。でも私は。
ナマエ
を引き寄せる。抵抗は無い。腕の中に収まった
ナマエ
はとても小さかった。
「他の人間とか、どうでも良い。ねえ、私を見て。私がどうしてお前を、
ナマエ
をここに置いているのか気付いて」
「くみが、」
「もう、止めてよ。私を、ただの雑渡昆奈門を見てよ」
腕の中で小さく、
ナマエ
が呼吸をしている。俯いているからその表情の程は見えない。雰囲気もいつもと変わらない。覗き込むのも憚られた。
「
……
私は、裏切り者の娘なので、何かを望むのは許されぬのだと思っています」
「
……
そうだね。きっとそういう声が多いだろうね。特にウチは、そういう結束が強いから」
それは勿論良い事だ。でもこんな風になる事もある。俯く
ナマエ
が小さく笑った。
「私は、本当は、
……
本当は、」
もどかしそうに言葉を紡ぐ
ナマエ
を囲うように抱き締める。この世の何者からも囲うように。
「何も言わないで。ただ、私の名を呼んでくれるだけで良いから」
囁いた言葉は
ナマエ
に聞こえたのだろうか。とても小さくて、私にも聞こえなかったのに。
ナマエ
がゆるりと微笑んだ気がした。
「それは許されますか」
「誰が許さなくとも、私が許す。ねえ、呼んで」
声を待つ。願うように。それはただ、私が私である事を示す札のような物だけれど、それを
ナマエ
に呼ばれる事はもしかすると、祝福になり得るのではないかと思ったのだ。私がこの世に堕ちて来た事への。
ナマエ
が口を開く音がした。私は待ち侘びている。その祝福を。
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