西浦
2025-05-24 16:48:05
4038文字
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夢見る丘で会いましょう

夢見る丘で会いましょう カルマ・ルデルマ×夢主(容姿名前有り)
逆噴射檸檬太郎さん宅の「カルマ・ルデルマ」さんの夢小説です。束の間の幸せ。揺籠の慰め。そんな話。
誤字脱字がありましたらすみません。解釈違いがあったら笑って忘れてください。ブラバも一つの手段です。よろしくお願いします。

 
 夢を見る。母と共に、安寧と暮らす夢を。
 
 夢を見る。憎いはずの仇と、共に眠る夢を。
 
 夢を見る。赤い景色、雨の匂い。軍靴と銃撃。
 
 夢を見る。曇り空、甘いミルク。笑う私と黄金の獅子。

 薄れていく母の面影があまりにも悲しくて、色濃くなっていく獅子との逢瀬があまりにも可笑しくて!
 
 マリアは夢を見る。悲しくって、幸せな夢を。
 マリアは夢を見る。幸せすぎて、死にたくなる夢を。

 夢を見る。夢を見る。夢を。夢を見ている…………

   ☆
 
 麗らかな陽気の午後、小鳥の鳴く平和な日。
 マリアはカルマのサインがされた数枚の書類を丁寧にまとめると、然るべき場へ届くようにこれ一つでパンが買えてしまうだろう手触りをしたなめらかな封筒に、カリ、リと宛先をしたため始めた。
 
 本来なら、こんな紙触ることも見ることだってなかっただろう。品のいいペンも、とっぷりとしたインクすら、あまりに高価すぎてマリアが手にして使っていることが不思議なくらいだ。
 雑用をしながら唇を噛んで練習した、美しい筆跡。ペンだこの出来た指先は、まさかマリアが村生まれだとは思わせない。
 
 それにしても……この屋敷の主人であるカルマのお気に入りとはいえ、書類上の立場的にはただの使用人にすぎないマリアに、この閉じた世界はあまりに優しい。
 
 家に押し入ってきた暴漢により身寄りをなくした哀れな女。屋敷にスムーズに潜り込むためのカバーストーリーに、穏やかな顔をした使用人を取りまとめる女性は、母の面影でマリアの肩を抱いて泣いてくれた。
 村にいた時よりも良い栄養状態のせいで肉付きが良くなったマリアが悍ましさに肌を引っ掻いた傷。マリアの白い肌の上に居座るその赤いみみず腫れに瞳を潤ませたカルマに引っ張られてきた医師も、その傷とも呼べない赤みに痛ましそうに眉を下げて優しく薬を塗ってくれた。
 シナモンが苦手なマリアに、特別なアップルパイを作ってくれる料理長。母を偲ぶための花をくれた庭師のお爺さん。ほつれた服を見兼ねて美しい服を仕立ててくれた服飾メイド。他にも、たくさんの人がマリアにあたたかい優しさを与えてくれる。その柔らかな親愛はあまりに、あまりにも…………マリアの心のやわい場所を引っ掻いた。
 
 何処まで、この静かな時間が続くのだろう。
 いつまで私は温もりを享受し続ける?
 
 辛い雑用をこなし、やがてカルマのお気に入りになり、四六時中側にいるようになって……マリアは、その必死で手繰り寄せた幸運にしがみついて生きていた。マリアは、……私は、仇をとりにきた。母の、家族の、あの眩い日々を過ごした村のみんなの仇を。
 
 簡単なことではないにしろ、チャンスは沢山あったはずだった。だってマリアはカルマのお気に入り。
 
 ——私は、何故今になっても仇を取れないの?
 
 そんなこと、マリアはとっくに分かっていた。

   ☆
 
 きらりと光る星があった。
 澄んだ空気に木の葉が揺れる。心地の良い静けさにどこかでフクロウの声がして、カルマはぱちりと目を覚ました。
 
 カーテンが閉められ、灯りも落とされたカルマの寝室はあまりにも暗い。僅かも差し込まない月明かりは気配だけをカルマに届け、それは微かな恐怖の匂いがする。
 カルマは特別暗闇が苦手なわけではない。夜目はきくほうだし、夜の帷は戦場の味方だ。だから怖がるほどのものではない。ないのだが…………ちら、とカルマは枕元の紐を見る。使用人を呼び出す鈴のついたそれを、目の冴えたまあるい瞳でじっと見つめていたカルマは、やがて唇をもに、と尖らせるとぐ、と握って引っ張った。
 
 程なく、カルマの寝室のドアが特別なリズムでノックされる。カルマは「あ!」と、扉の向こうのノックの主がすぐにわかった。このリズムは己とマリアで決めた、特別で秘密の、大切なリズムだったから。
 
「お呼びですか、カルマさま」
 
 くぐもったマリアの声にぱっと顔を喜色に綻ばせたカルマが「入っていいよ!」と許可を出す。そんなお決まりの時間すらもどかしくて、カルマは目を爛々とさせ毛布の端を枕元のクッションごとぎゅうと抱き込む。
 哀れなクッションが事切れる前に、扉は開き向こうに星の髪が見えた。マリアだ。ゆらりとしたほのかな灯りをした燭台を手にお仕着せをきたマリアがそこにいた。
 
「え、?」
 
 夜も遅いが、わざわざ着替えてきたのか? それとも、まだ仕事をしていたのか……カルマは、数いる使用人の中でも、きらきらと綺麗でなよ竹の輪郭をしたマリアが来てくれたことに本気で喜んでいた。が、無味乾燥なお仕着せという仕事の服を着て己の元へきたマリアにほんの……ほんのちょっぴり悲しくなった。
 
「ン〜〜……
「カルマさま? どうしました?」
「まりあちゃん、あのね…………ぇと、そのお、」
「はい。大丈夫ですよ、ゆっくりお話しください」
 
「うん……」なんて、眉を下げたカルマはちくちく、きゅうきゅう、と痛む胸をそっと撫でる。不思議な痛みだった。刺されたのでも、撃たれたのでもなく、火傷や凍傷の痛みでもない。ただ切なく、ただ悲しい。そんな痛み。
 
 マリアはカルマのお気に入りだ。離れがたい揺籠の微睡み、幼子が握り込む毛布の端。それがカルマにとってのマリア。
 聖母の笑みをした雛芥子の声音の女。カルマのマリアはどこもかしこも小さく華奢で、触るとふにふに柔らかい。飴玉のような香りのする、可愛いかわいいカルマのマリア。銃もナイフも持てやしない、細い指先が好きだった。
 
「まりあちゃん、」
「はい、カルマさま」
「いっしょに寝て、……?」
…………ふふ、まあカルマさまったら」
 
 やわらかな拒絶。カルマは泣いてしまいそうだった。
 
「ね、マリアちゃん、まりあちゃん……おねがい、こわい夢を見たんだ。ひとりぼっちじゃ、ねれないよ…………だから、ね? いっしょに寝よ? ルマのとなりで絵本を読んでよ、それで、子守唄も歌って……それで、」
「カルマさま、私は使用人です」
「で、も」
「私のようなものとのそのような振る舞いは、屋敷に混乱を招きかねません」
 
「お控えください」と、優しいやさしいミルクの声でカルマのマリアは酷いことを言う。
 カルマは、とうとうほろりと涙をこぼしてしまった。
 
 ひとつ涙が溢れ、ふたつ、みっつ……我慢もしないでしゃくり上げて「ぅ、ゔ〜……」と泣き出したカルマに、流石のマリアも面食らったのかはく、と唇を震わせた。
 
「か、るまさま、」
「ゔ、ひ、ひどい……ひどいっ! るまが、ルマが言ってるんだよ? いっしょに寝てって、ルマが、マリアちゃんに! なんで叶えてっ、ひぐ、く、くれないの? シャツのボタンも、か、髪を梳かすのもしてくれるっ、の、に、どう、っ、どうして、どぅし、て、ぇ……
「っ、……それは、」
 
 くぐもったマリアの頼りない声は、カルマの涙を勢い付かせる薪になる。
 
「ルマのこと嫌いなの⁉︎ だから、だ、だからいっしょが嫌なんだ!」
「ちが、! そ、……そんな、ことは」

 幼子の駄々だった。要求が通らないから、せめて困らせようと思ってもないことが口から出てくる。
 いつもは甘くマリアを見つめる蠱惑の目元は涙に濡れ、「ぁ゛あ〜……」と唸る口元からは鋭い犬歯が薄明かりに光る。逞しい身体は肌も露わにカルマの男の性を惜しげもなく表すが、肩を震わせ小さく丸まり枕に顔を埋めてしまうカルマは、小さな子供とまるで変わらない。
 これでは、マリアが悪者だ。
 
…………明日」
「すん、ぐす、……んえ、?」
「明日、早起きできますか?」
「な、なんで」
……屋敷の主人が使用人と寝ているところなんて、他の人に見られてしまったら大変でしょう?」
「た、たいへん……、? ……え、! そ、それって、それじゃあ!」
「ええ、一緒に寝ましょう。カルマさま」
「、! ……っ! うん!」
 
 現金なもので、すんすんと泣いていたカルマはころりと笑ってマリアの腕を引っ張った。
 ベッドのスプリングが軋み、カルマの肌がマリアの頬に触れる。目を丸くするマリアをよそにもぞもぞと寝る体制を整えるカルマは、コロンと横を向きマリアをぎゅうと抱きしめた。その拍子にタイツを履いたマリアの足と、カルマの獅子の足が絡まる。色のない触れ合い、情を交わすのではない穏やかさ。
 
「ね、まりあちゃん」
「はい、どうしました?」
「明日からその服、禁止! ね!」
…………ですが私、私服をあまり持っていなくて」
「む、う〜ん……むむ、……じゃあルマが服を贈るまでは、着てていいよ」
「はあ……分かりました。ご希望に添いましょう」
 
 マリアは淑やかに笑うと、雛芥子の声でカルマにうたう。
 
「おやすみなさいカルマさま。明日は私が……マリアが、一番におはようと言えますね」
「うん、! ……それって、すご、く、……しあわ、せ…………
 
 くう、と瞬きの間に寝息を立て始めたカルマに抱かれて、マリアは仕方なさげに微笑む。
 その笑みはあんまりにも悲しそうに、女の媚態に満ちていた。

   ☆
 
 夢を見る。マリアと共に、庭を駆ける夢を。
 
 夢を見る。大好きなマリアと、共に笑う夢を。
 
 夢を見る。曇り空、甘いミルク。やわさと唇。
 
 夢を見る。星月夜、フクロウの声。眠る自分と雛芥子のマリア。

 薄れていく戦場の面影があまりにも穏やかで、色濃くなっていくマリアとの逢瀬があまりにも甘くって!
 
 カルマは夢を見る。楽しくって、幸せな夢を。
 カルマは夢を見る。幸せすぎて、死んじゃいそうな夢を。

 夢を見る。夢を見る。夢を。夢を見ている…………