えすずか / 遊園地
2025-05-24 15:48:11
1554文字
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明日にはきっと、笑っているだろう。

dnkb

 彼氏と一ヶ月記念を迎えたその日の夜に、別れようと連絡が入った。
 どうしてなのか分からなくて、何で?どうして?というメッセージを送ってみたり、電話したりした。でも、全く反応がないから連絡先はブロックされたのだろう。プライベート用のポケスタにもおらず、彼の存在はまるごと消えてしまった。
 手持ちに抱き着いて泣きじゃくっている内に夜が明けて、眩しい太陽の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
「あー……
 今日、休みでよかった。こんな腫れた目で出勤したら、リョウタ達に心配されてしまう。それに彼はナックルジムの運営に携わっている人だから、職場で会ったら気まずいどころじゃ済まないだろう。
 気怠い体を起き上がらせて、時間を確認する。朝の八時半。いつもなら起きている時間なのに、泣きじゃくりながら眠ってしまったから遅く起きてしまった。一晩中付き合ってくれた手持ち達も今はボールの中でぐっすり夢の中だ。ご飯もきっと、自分たちでフードを出して食べてくれたのだろう。ベッドルームのところどころにきのみやフードがこぼれ落ちていた。
 今日はもう何もする気力はないから、一日中寝てしまおう。そう決意して布団の中に潜り込んだのに、寝室の窓からコンコンとノック音が聞こえた。
 こんな時に来やがって。今、誰とも会いたくないのに。
 仏頂面でカーテンを開けば、そこにはダンデが立っていた。その笑顔は、空のてっぺんで輝く太陽に負けないくらい眩しい。対するオレさまの気分は大荒れで、真逆だなぁと笑ってしまいそうだ。
 帰れって言ってもどうせ居座るだろうから、乱雑に窓を開けてベッドに舞い戻る。
「キバナ? もう朝だぜ? 休みなら、バトルをしないか?」
 せっかくのお誘いだが、今日はダメなんだ。何にもやる気がないし、心も痛い。
「最高の誘いだな。だが悪いな、ダンデ。今日は何もしない」
「何もしないってキミが? 珍しいな、何かあったのか?」
……失恋したんだよ」
「えっ」
「だから振られたんだよ。別れようって言われた。理由もなんも分かんないのに。何でだろうな」
 また目の奥が熱くなって、ダメになる。ダンデに泣いているところを見られたくないから毛布に包まり、枕に顔を埋めた。
「明日になったら元に戻るから、今日はもう帰れ」
……キバナ」
「なに」
「キミ、失恋で落ち込むのか」
「ふふっ。失礼なやつだな。オレさまだって、人間なんだよ。好きだった人に振られたら落ち込むだろ」
 ダンデのバカみたいな発言に、思わず笑い声をこぼしてしまう。それと同時に、枯れたと思っていた涙が溢れて枕が湿ってしまった。
「はやく、帰れ」
 突き放すように伝えてやれば分かるだろう。そう思ったのに。
「失礼するぜ」
 ベッドがギシリと音を立て、布団越しからぬくもりを感じた。
「ふっ……はやく、かえれって……
 そう言えば、オレさまの体を抱きしめる力が強くなる。ゴツゴツした大きな手は、彼のものより遥かに逞しく感じた。
 耳のすぐそばで、ダンデの吐息を感じる。
「オマエに釣り合う男なら、すぐそばにいるぜ。だから落ち込むな、キバナ」
 囁かれた声はひどく優しくて、また大粒の涙がこぼれ落ちてしまった。

 ダンデに話を聞いてもらって慰めてもらった次の日、一緒にナックルジムへ行くとデスクに退職届が置いてあった。そこには彼の名前と退職理由が震えながら書いたような字で記されていて、日付は別れを告げられた次の日になっていた。
……何も、退職しなくても」
 ポツリと呟けば、ダンデの逞しい手が背中に触れる。
「どうしようもなかったんだ。大丈夫だぜ、キバナ。明日にはきっと笑っているだろうから」
 その声はひどく穏やかで、どこか残酷に感じた。