Maisie_Lyju
2025-05-24 14:18:49
3913文字
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異世界転生ヒカセンは逆ハーを目指さない③

乙女ゲームの世界に転生しちゃった光の戦士(脳筋ララフェル)は逆ハーなんて興味ないので全力でアゼム(悪役令嬢)とエメトセルク(王子ってか魔王)をくっつけます!

2:光の戦士、世界の真実(というか設定)に気付く


 そんなわけで、私は懐かしくも愛おしい人達に囲まれて学園生活をスタートすることになったのだ。
 ビバ! 異世界転生!
 この人生では、エメトセルクをはじめとした古代人たちと私は敵対することはないのだ。だって同じ学園の生徒なのだから。
 こんな素晴らしいことがあるだろうか。
 エメトセルクとも、エリディブスとも、ミトロンとも出会った時は敵同士で、ガイアはそうじゃなかったのに、やっぱり戦うことになって。でも、どちらが正義でどちらが悪というものでもなかったのだと、今の私は知っている。
 ただ守りたいものが違った。それだけのことで、私たちは敵対し、戦うしかなかった。
 でも、この世界ではそうはならない。
 私たちは世界の命運を背負うことなく、共に面白おかしく学生生活を謳歌するのだ!
 もっかい言わせてくれ! ビバ! 異世界転生!

 そう思っていたのに……
 一瞬前までは確かに、そう思っていたのに……
 Oh! Nooooooooooooooooooooooooooo!
 まさか! まさか! あんたがそう来るなんてーーーーーー!
 
 は、いかん、五分前に話を戻そう。
 何故私が頭を抱えて天を仰がなくてはならなくなったのか。
 それまで私は、エメトセルクとヒュトロダエウス、ガイアとミトロンとエリディブスに囲まれて、そうれはもうスーパーハッピーな気分だった。
 これからはじまる学園生活に期待しかなくて。
 しかも、エメトセルクもエリディブスも超強だし、これから鍛錬と称して、ハーデス零式、ウォーリアーオブライト零式ごっこをさせていだこう。いひひひひひひ! とほくそ笑んでさえいた。
 そこへ、現れたのが、「あの人」だ…………
 そう、「あの人」。
 察しのいい諸君ならわかるよね。「あの人」って言ったら「あの人」なんだと!!
 登場は、空から降ってくるという奇想天外なものだった。
「遅刻遅刻遅刻ーーーー!」
 突然頭上からそんな声が聞こえて、見上げたら空から女の子が!
 親方! 空から女の子が!
 は! 驚きすぎて意味わからん。親方ってなんだ。とにかく、空から女の子が降って来た。モモンガのように両手を広げて、不敵な笑みで風を切って金色の髪をたなびかせて。
 そして、女の子は地上付近でくるりと一回転し、シュタリと着地した。
 そうして、すくりと立ち上がる。
 その姿は───
 え??? ええ??? な、なにこれ……こ、この既視感……
 だ、だって、そ、その髪は…………
 その髪型は……
「アゼム、お前、何故空から降って来る」
 あ、あ、アゼム………?!
 これがアゼム?! 
「登校方法に指定などないだろう。エメトセルク」
 アゼムと呼ばれた女の子が飄々と答える。この堂々ととんでもないことを言う感じ……。エルピスで聞いた言葉を思い出す。
 ───あなたの後任が、大変、とても、ヤンチャなもので。
 ─── 前アゼムと現アゼムの師弟は、いろいろとすごいんだ。エメトセルクは始終苦いものを食べてるような顔をするし、ワタシは大抵、手を叩いて笑うことになる。
 ─── それがまあ、なんというか面白い人でね。やらなくてもいいことにイチイチ首を突っ込んで、あわや大惨事! みたいなことが常で……
「新入生に示しがつかないわよ。アゼム」
 ガイアがダメ押しのように言う。
 て、ことは、やっぱりこれが……
 これが………アゼム……なのか……
 で、でも、その、そ、その髪は………
 その髪はなんだーーーーーー!
 アゼム、あんた、その髪は……! 異世界学園ものにおいてその髪型は………
「ところで、アゼム、その髪はどうしたの?」
 ヒュトロダエウスが絶妙なタイミングで言って、アゼムは「ふむ」と息を吐くように相槌をうつ。
 そして、片手を腰に、腰に当てたのだ! うわーーー!
 それどころか、もう片方の手で、もう片方の手で、肩下に流れたその長い髪を、長い髪を、
 払ったのだーーーーー!
 このポーズ、もう、もう、それにし見えない!!!
「いや、ちょっとさっき毛先が爆発に巻き込まれてね」
「いやちょっとじゃないわよ。どうしたら登校中に爆発に巻き込まれて髪型が変わるのよ」
「あるだろ、そんなことくらい」
「ないわよ!」
「ないな」
「ないね」
「ないと思うな」
 古代人sはやんややんやと言っているが、私はワナワナと震えながらそれを聞き流していた。
 だって、そうでしょ?!
 アゼムちゃん、いや、もはやこれはアゼム様。アゼム様は……金髪……
 その髪が、なんで……
「なんで縦ロール…………!」
 そう、アゼムの髪は見事な縦ロールだった。まるで、アドネール占星台の螺旋階段のごとく巻き上がった、縦ロール。
 縦ロールっていえば、あれだよ……あれしかない……
 数多のアラガントームストーン同人に描かれた縦ロール、それは……
 そ、れ、は……悪・役・令・嬢!
「嘘だーーー!」
 思わず叫び声を上げた私にアゼムは眉をひそめる。
「誰だ? お前は」
 そう言って、少しこちらを警戒して睨み付けるような視線をよこすアゼム。
 アゼムは古代人sが皆そうであるように、大変麗しい造形のお顔の造りをなさっている。さっきエリディブスが私のことアゼムに雰囲気が似てるだの言ったけど、お世辞が過ぎるやろ! こんな美女、オリヴィアなんて足元にも及ばんて。そのご尊顔を金髪縦ロールで彩られると、もう、凄みしか感じない。
 金髪縦ロール美女に睨まれる私。
 そこへエメトセルクが割って入ろうとした。
「アゼム、こいつは特別編入生の」
「黙っていろエメトセルク。私はこいつに聞いている」
 アゼムはエメトセルクを手で制止しながら、私を凝視して言う。
 思わずぶるりと体が震える。いや、もちろんアゼム自身にビビっているのではないよ。
 この現実に、震える。
 でも、ガクブルの私をエリディブスやヒュトロダエウスはアゼムに怯えていると思ったようだ。
「アゼム、彼女は今日はじめてこの学園にやって来たんだ。そんなふうに威圧するものではないよ」
「そうだよ、アゼム。キミは珍獣として世に知れ渡っているんだから。本物見て怯えちゃうのも仕方がない」
 二人が私とアゼムの間に割って入る。
「私はこいつに名を尋ねているにすぎない。それを無視しているこの礼儀知らずを庇い立てするとはどういうことだ」
 アゼムが低い声で言う。
「この子は田舎から出て来たばかりなのよ。それに空から降って来たあんたが礼儀とか言える立場なわけ?」
 ガイアが更に加勢して、アゼムvs私と古代人sという図式が出来上がる。
 おい待て……、これではか弱い新入生が、庇われて……
 ん? え……待て待て待て! まさか! そうなのか?! アゼムだけでなくもしや私も……
 縦ロールの女子に、礼儀を諭される私……
「そんなバカなーーーーー!!」
 
 こうして私は頭を抱えて天を仰いだ。というわけだ。
 そう、つまり、この世界では、私がヒロインで、アゼムが悪役令嬢なのだと、そう悟って───。

幕間:泡ヒュはかくかたりき


 私の名はヒュトロダエウス。
 そう認識している。
 だけど、本物ではない。
 この身は本物のヒュトロダエウスから伸びた影のようなもので、そこにあってない存在ということだ。
 私はエメトセルクの思考に泡によって産み出された、まぁいわば見て触れられる幻影だと理解してくれればいい。
 寝ぼけたエメトセルクが欠伸とともに創り出してしまったのだ。ほんとうに、聞きしに勝るとんでもない魔力だ。
 大方、微睡の中で見た夢で酷い目にあったのだろう。
 その時エメトセルクはこう考えていた。
 ヒュトロダエウスのやつは、案外にアゼムより厄介だ。考えていることがわからんからな。
 そうして私は、ヒュトロダエウスの影でありながら、自立思考するものとして存在を定義されてしまった。その為に本来なら虚ろであるべき幻影なのに意識を嵌め込まれてしまった、というわけだ。
 ただ、幻影にこの自我が宿ってしまったという状況は、世界にとってイレギュラーだったらしい。
 私はこの世界にほとんど干渉できない。
 私がヒュトロダエウスらしからぬ言動をしても、他の人にはヒュトロダエウスらしいものに自動変換されて知覚される。その原理のせいだろう。私は行動範囲がとても制限されている。ヒュトロダエウスがいるはずのない場所には存在できない。行こうとしても行けないし、乗り物なんかで強制的に移動しても、瞬く間に元の位置に戻ってしまう。
 つくづく、できた魔法(システム)だ。
 私が泡であることを知っているのは、エメトセルクとヒュトロダエウスだけ。
 時々ヒュトロダエウスっぽい助言を与えて人と会話する以外は、この世界で日々繰り広げられる面白おかしい出来ごとを笑いながら見守るのみだ。
 つまらないだろうって? そんなことはないよ。 
 だって私は気付いているのさ。
 ここが、あるJi£€<>?}{[§だってことを。
 おやおや、世界の真実については話せない仕組みらしい。
 仕方がないね。
 所詮この身は泡のようなもの。不確かで脆いものだからね。
 
 そう、ヒュトロダエウスらしく考える。
 けれど……
 ……私の中の少年が叫ぶ。
 それでも、と。
 それでも、守りたい◾️◾️世界があるんだ!