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whityyokko_hkg
2025-05-24 02:47:55
2442文字
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キスするmrgr
血飛沫がクー・フーリン・キャスターの頬に飛び跳ねた。
吹き上がった血潮は赤い霧と化し、周囲一帯を血腥く彩る。
セイバー千子村正の心臓を射抜いた弓矢は体躯を貫通し、勢いのまま地面に突き刺さった。シャドウサーヴァントとはいえ、授かりの英雄の弓威は凄まじい。霰のように降る大量の矢を切り払っていた村正の意表を突き、神の矢は過たず胸の中心を穿った。威力のま心臓を吹き飛ばしたのだ。
ぽっかり開いた肉の穴からあらかたの血液が流出し、地に倒れ伏す前に全身が光に包まれ、村正はカルデアへと退去する。
一瞬の出来事だった。
血塗れの頬を手の甲で拭う。血臭が鼻孔を擽った。
後方支援のキャスター達を尻目に、前衛組のカルナがシャドウサーヴァントを苅り取って戦闘は終了した。クラス相性どおりの結果だった。
「キャスターさん」
「おう、どうした嬢ちゃん?」
帰還の準備中に、眉をハの字に下げたマシュが気遣わしげに声をかけてきた。
「あの、これ」
両手で差し出されたのはピンクのハンドタオルだ。
「お顔拭くのに使ってください」
頬に付着した血液が気になるのだろう。乾きかけた大小の赤い点は、既にいくつか剥がれ落ちて首にこびりついていた。
「ありがとよ、と言いてぇところだが気持ちだけもらっとくわ」
見上げてくる淡い桃色の頭を撫でる。
娘がいたら、こんな感じだったのかもしれない。生前は一人としておらず、唯一の息子は知らぬとはいえこの手にかけた訳だが。
霊基を編み直し戦闘の跡を一切合切掻き消すと、ほっとしたようにマシュの口が綻んだ。
「それより早いところ戻ろうぜ。昼飯食い損ねたマスターの腹と背中がくっついちまうぞ」
「それは困りますね」
昼時に突然発覚した微小特異点のせいで、ランチを目前にレイシフトに駆り出されたマスターはギリギリまでトレーの叉焼麺から目を離さなかった。赤いアーチャー特製の極厚叉焼が六枚乗った人気の品はすぐに売り切れるので、イの一番に食堂に並んでゲットしたというのだから執念が違う。優先順位を理解しているとはいえ、若者が好物をよく我慢できたものだと、年長者目線で微笑ましく見ていた男は、少女の頭を撫で目を細めた。
「エミヤのことだ。あんたの分もちゃんと用意してるだろうさ」
「早く戻らないとのびちゃいます!」
「旨いうちに食えってお小言もらう前にな」
非日常が続く中での食事は、心を日常に戻すための基点でもある。キャスターの出鱈目な予想に、マシュがくすりと笑みをこぼす。
少し奥からマスターの呼び声がする。帰還の目処がついたのだろう。ふたりは顔を見合わせると、即座にマスターのもとへ駆け出した。
「でオレは何でここに呼ばれてるんだ?」
「バイタルチェック以外の何があるとでも?」
アスクレピオスはすげなく返し、キャスターのチェック表に目を通している。
「今回の戦闘じゃ後衛は何もしてねぇ。もっと雑でもかまやしねぇよ」
「アセスメント評価が雑で医療ができるか馬鹿者めが」
「へーへーすみませんねぇ」
フードの奥からぎろりと睨まれたが、あっという間に観察記録を終わらせたアスクレピオスは、顎をしゃくり奥の個室病室を示した。
「セイバーの村正翁はあそこだ、寝ているがせっかくだ見舞ってやれ」
「オレが? 何だって奴を?」
「下らん問答に時間をかける気はない。さっさと行け」
蹴り出される勢いで追いたてられたキャスターは、しぶしぶと病室に入る。
ベッドに横たわる村正は既に元の体を取り戻していた。盛大に空けられた胸の風穴は跡形もなく、小柄な体躯にしては硬く厚い胸板が規則的に上下している。
首から下の正中を指で辿り、胸の中心でピタリと止めた。触れるか触れないかの瀬戸際で指先が静止する。
「あんたは傷ひとつねぇんだな」
いつぞや喚ばれた聖杯戦争で、外道の主に従い目撃者の高校生を殺したことがある。後味の悪い仕事だった。
ゲイボルグで心臓をひと突きして終わった筈が、何の因果か聖杯を巡る一角に息を吹き返した姿で現れて、最後まで横紙破りにがむしゃらに戦い抜いた青二才。いやあれは坊主だ坊主。
その坊主が自分を目にする度嫌そうに居心地悪そうにしていたのを覚えている。
村正と初めて面通ししたときはキャスターの方が反りがあわない気分になったが、あのときの村正はどんな顔していただろうか。少なくとも坊主のように生理的な苦手意識を押し殺してはいなかったと思うが。
あの少年の胸を貫いた槍を持っていない方のクー・フーリンが、槍跡を探して気を落とすとは片腹痛かった。
「さっさと起きろよー」
この魂は老境まで職人を貫いた刀工だ。未熟を可能性としたその先の先の境地を知る先達だ。臨時採用とはいえ、導きのドルイドが依代に引き摺られてはならない。
「起きねぇとキスしてやらんぞー」
強い力で床に引きずり込まれる。上下が回転し、握り締められた腕を枕横に縫い止められた。
「狸寝入りとは恐れ入る」
精一杯の虚勢に見えたかもしれない。
村正は病みあがりの寝起きとは思えぬぎらついた目をして笑っていた。
「なぁに、千載一遇のチャンスをものにしたくて飛び起きちまった」
視線が絡むより早く唇が重なる。
触れ合わせた先には確かな温度と肉の柔らかさがあった。
「っふ」
「あんた、余所見はなしにしな」
ついばむ口接が口腔に進むまでもう数秒。
「んっ、誰と間違うって?」
下唇を含み軽く歯を立てる。はくと開いた口内に舌を入れ、舌先を擦り付けあった。
「隙があんなら全部儂に寄越しゃいい」
涎まみれの口先を舐めて拭いた村正は、深さを増す前に宣戦布告する。
「あんたの中までみっちり埋めてやらぁ」
宣言直後に舌が喉奥まで突っ込まれる。
舌を絡ませ吸い上げねぶる長さに、婦長に怒鳴り込まれるまであと数分。
それまでの束の間を二騎は余すことなく味わった。
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