冒険の途中、カイリューの郵便屋さんがリコの元に降り立ち、手紙と小さな包みを渡して飛び去っていった。差出人にはアレックスと書かれている。
「お父さんからだ…なんだろう?」
「とりあえず開けてみようよ」
ロイの言葉を受けてリコが封を開けて手紙を取り出すと、中にはパピモッチのような形の模様がところどころに入った便箋が二枚入っていた。一枚目を早速リコは読み始める。
愛しい娘リコへ。
先日、私がデザインしたレターセットを販売することになりました。
せっかくなのでリコにも見てもらいたいと思って送ることにしたよ。
手紙と一緒に届く包みに入っているから、よかったら使ってみて
「レターセットか…どんなのだろう」
「この手紙もそうなのかな?」
「お父さんっぽい感じするしそうだと思う。こっちに他のも入ってるってことかな…?」
リコは包みの封を切り、中身を取り出した。すると、五種類の便箋と封筒がセットで入っている。先ほどのパピモッチ模様のものに加え、ニャオハ模様にホゲータ模様、クワッス模様、そしてカジッチュ模様のものが入っている。
「スゴい!アレックスさんさすがだね!」
「うん。どれもかわいいな…そうえば手紙の二枚目には何が…」
後ろの手紙を前に出して読むと、リコはすっかり口を閉じた。
「リコ?何が書いてあったの?」
「え、ああ…ロイにもよかったらって」
「それだけ?なんか顔赤いけど…」
「そ、それだけだよ!!あ、私お父さんに電話するからちょっと待ってて!!」
「?分かった」
そそくさと走り去ってリコは木陰にしゃがみこむ。そしてもう一度アレックスからの手紙を読む。レターセットの説明が順番に書かれているが、問題は最後の部分だ。
カジッチュ模様はラブレター向けにデザインしたんだ。ガラルではカジッチュを送って気持ちを伝えることもあるらしいからね、手紙を送るのと合わせてみたんだ。
ps.リコも、好きな子…ロイくんに渡してみてはどうかな。
大きなお世話だ…とリコは恥ずかしさと少々の怒りを抱いていた。ロイが人の手紙を覗いて読む子じゃなくてよかったと安堵しつつ、もらった便箋に目をやる。父親から提案されてしまったのは恥ずかしいが、実際カジッチュの話は有名で、手紙のデザインもとてもいい。これでロイに告白したら上手くいくかもしれない。ものは試しだとリコは手紙を書くことに決めた。
数日後、リコはロイへの気持ちを書き上げ、しっかりと封をして後は渡すだけの状態となっていた。しかし、一番の問題はその渡すという行為だった。いつどこで渡せばいいか分からず、そもそもラブレターを渡すなんて恥ずかしい。歩きながらちらちらロイの顔を見る。もし振られたらもう顔を合わせられないかもしれない。そう思う度に渡すための勇気が失われていく。
「あー!潮風が気持ちいいね」
「そ、そうだね…」
「せっかくだしちょっと浜辺に降りてみない?」
「う、うん。いいと思う」
二人は坂を降りてビーチに足をつける。すっかり夕陽に照らされた海は赤く煌めいている。告白するなら今が一番かもしれない。でも、渡すのは恥ずかしくて、怖い。どうすればいいだろうとリコが悩む中、ロイが海の方を指差してリコを呼んだ。
「見てリコ!ラブカスがいっぱい泳いでる!」
「ほんとだ…こんなに…」
よく見ると海が少しピンク色に見えるくらいに集まっている。リコはラブカスの逸話を思い出した。ラブカスを見た男女は永遠の愛が約束されるというものだ。今、ロイと二人でラブカスを見ている。だったら、渡すしかない。
「ロイ」
「なに?」
「これ、受け取ってほしい」
「…これってこの間の手紙?」
「うん…ロイに、読んでほしくて書いたの」
「そっか…ありがとう、リコ」
リコが差し出した手紙をロイは受け取った。封についたラブカスのシールを見てロイは口角を上げる。
「今読んでもいい?」
「うん。むしろ…今読んでほしい」
「じゃあ、開けるね」
ロイがシールを剥がして中の手紙を取り出す。赤と黄色のカジッチュの模様が彩られた便箋に綴られたリコの想いと言葉。ロイが黙々と読む中、リコは下を向いた。揺れる波と潮風の音が響く中、リコの耳に届くのは自分の心臓の音だけだ。振られたらどうしよう。そんな不安がより鼓動を重くする。
しばらくして、ロイが手紙を畳んだ。まだ俯いたままのリコにロイが声をかける。
「リコ」
顔を上げると、夕陽を背に顔に影がかかったロイが見える。それでも見えた口元は緩んでいる。
「ありがとう。リコの気持ち…聞かせてもらえて嬉しいよ」
「ほんと…?」
「ああ。だからリコ、僕の気持ちも知ってほしい」
ロイがポケットから手紙を取り出してリコに差し出した。それはリコと同じカジッチュ模様で、シールもラブカスだ。リコがおそるおそる開けると、中から出てきたのもカジッチュ模様の便箋。そこに書かれているのはロイの想い。文章の一言一句をリコはじっくりと読み込んでいく。そして読み終える頃にはぽろぽろと涙をこぼしていた。
「ロイ…ほんとに…ほんとに…」
「ああ。リコ、僕は君が好きだ」
「ロイ…!」
リコはロイの胸に飛び込んだ。彼の上着をぎゅっと掴みながらリコは泣く。涙と共に嬉しさが溢れ出していた。そして、想いを声に出した。
「ロイ…!私も…ロイのこと大好き…!」
「ありがとう、ほんとに嬉しいよ。手紙…渡すの緊張したよね」
「うん…渡そうと思っても渡せなくて…」
「僕も同じだよ…だから、口にするのは先にできてよかった」
ロイがにっこりと微笑み、リコも涙を拭いて笑顔を向けた。そこに強い潮風が吹いてリコとロイの鼻をツンと刺す。風が来た海へ二人は向き直した。夕陽を眺めていると、しばらくしてロイが口を開いた。
「ねえリコ、知ってる?」
「なに?」
「この海で、ラブカスが飛び跳ねるのに合わせてキスをすると、ずっとずっと愛が続いて、もっともっと深い愛が生まれるんだって」
「え?」
その瞬間、ラブカスが跳ねた。リコの視線が海へ向いたかと思えば、顔ごとロイの方へ引っ張られて二人の唇が重なった。ラブカスが水面に落ちてなお、輝く夕陽と重なったままの二人の唇が、途切れることのないリコとロイの想いを強めていた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.