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wawan78
2025-05-23 20:57:35
2689文字
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鱗の中身
ドルネド 💉主誘拐√
初めて名前変換使った
先生
先生
熱にうなされていた患者はゆっくりと安らかな寝息をたてている。このまま薬をきちんと飲めば問題ないと告げると、患者の家族は喜んで涙ぐみながら何度も頭を下げた。患者の鱗は本来ならば透明感のある美しい青であるのに、病のせいで白く濁り生気がない。生え変わって元の鮮やかさを取り戻すには、時間が必要だろう。嫁入り前の娘が色褪せていくのは見るに耐えなかった、と父親は泣いて喜んでいる。この地域特有の、この種族の天敵ともいえる病だった。
魚の骨でできた家を出ると、湿った海風が顔に触れて、密室で蒸された体温を奪う。ほんのり涼しくて心地よい。若干生臭い村の中、夕日を眺めながら歩いていると、ドルネドが貝塚の上で当然のようにゆったりと腰掛けているのが目に入った。
「
先生
」
隙の無く抑揚のない、しかしどこか柔らかい声が名を呼ぶので、今回の「往診」はこれでおしまいだとわかった。ひょいと一瞬で距離を詰めてくるが逃げることもない。ドルネドは魚の村に顔を向けて、黄昏色の建物を眺めた。
「疫病の流行もこれで止まるだろう。元は断った」
「村長
……
いえ、次期村長は何と?」
「しばらくは元の通り暮らすそうだ。まあ
……
その辺りは興味がない。仕事自体はなかなか楽しめたのでな」
生贄を求める邪神の討伐、そんな仕事を「なかなか楽しめた」で済ませるのも大概である。それほど強い個体ではなかったらしいが、自然現象を引き起こすのが厄介だったそうな。
最近は怪我を見かけることもなく、誘拐されてすぐの頃に八つ当たりも兼ねて小言をぶつけたのが不快だったのか反省したのか。とりあえず連れ戻されたあとの処置はなさそうで、薬箱の入ったポーチを握る手が緩んだ。
「ここから南に海産物の店がある。そこの貝料理がなかなか良いらしい」
「こちらの村の方にお誘いされているのですけど
……
」
「やつらの料理は味がしない。仕事終わりの祝いには向かないだろう」
「ああ
……
シンプルですものね」
焼いただけの魚は悪くはないが、ドルネドでなくても味付けがなければ物足りない。彼らは塩も振らないのだ。
今日の移動は車のようだ。タイヤがついたレトロな逸品、これでいて大概の弾丸は防いでしまうのが驚き。再び当然のように助手席のドアを開けるので、大人しく乗り込んだ。
誘拐された当初は抵抗しなかった訳でもない。敵うことはないのだとわかってはいたが、どうにも好きにさせるのが癪だった。しかし元々悪く思っていなかった、否、惹かれてはいたものの医者としての仕事と天秤にかけて、僅かに傾いた方を選んだだけで拒否したわけではないその人物、こうも好まれては何も言えなくなるのは当たり前。せめてとほんのりした反抗で、移動先の町や村をまわって勝手に治療を行い、最近巷ではどうやら神出鬼没の救世主と呼ばれているらしい。
「お前は満足したか?」
「感染源が絶たれ、拡大も止まり症状も落ち着きました。もう心配ないでしょう」
「そうか」
夕焼けはやがて夜に塗り替わる。明るい星と月、星辰の正しき夜が来るが、もう二度と都市は浮上せず神もいない。貝の煮込みとなんの酒を合わせるか思案中の人が、昼間のうちにすべて海の底に沈めたからだ。
「だが、楽しんではいないな」
「医者の仕事を楽しむわけが
……
」
「珍しい症例があると嬉しそうに見えるが?」
「そ、そんなことは」
ドルネドの視覚センサーがどこにあるのかはわからないが、こうなるとあまり顔を直視できなくなる。愉快そうに笑うのが腹立たしい。そう、見透かされている。
ずっと良い子のつもりだったのだ。人の役に立つことがよろこび、正しいことをするのがほこり、けれども差し出された手に一瞬でも魅力を感じてしまったのは、そこに刺激的な毎日への誘惑があったから。悪い子の部分を見つけて引き出そうとしているのがよくわかって、流されたくなくて、無理やり窓ガラスを走る夜の始まりを眺める。それがまたかえってドルネドを楽しませている。ああ堂々巡り。
しばらく無言が続いた。お迎えのときはいつもこうだ。迎えに来てもらって嬉しくなんてないんですからね、抵抗できないから仕方なくなんですから、ね、というポーズをとらないと自分が許せない。
夜景が海から街に変わる頃、電子ノイズが混じる声が「抵抗ごっこ」を終わらせた。
「もし私が熱でも出したら、お前はどうする?」
「
……
え?」
思わずそっちを向いてしまう。思惑通りだったのだろう、まんまとしてやられた。
「解熱剤の類いは効かないだろうな。冷却水にでも浸かるか、そうなるとお前の分野でもなくなるか
……
」
「出るんですか? お熱」
「この体になってからは無いな」
「なら、どうしてそんな質問を」
「そら、答えは? どうする、私が、病に倒れたら」
そんなの。
顔なんて見てやらないことにした。どうせ見せなくてもわかっているのだろうから。
「病気にならないでください」
「
……
ハハハ!」
たいそう楽しそうでなにより。
またしばらく無言が続いた。今度は「抵抗ごっこ」ではない。想像した。怪我ではなく、病気で伏せるドルネド。薬が効かず、対症療法しかできない状態。そうなったら。
「
先生
」
お目当ての店についたのだろう。車は減速する。ドルネドの、グローブを被った指がハンドルをぐるりとまわす。
「安心しろ。未知の呪いでもない限り、この体は病になどならん。不安にさせてすまなかった」
「な、っ
……
てません!」
「ほう?」
「
……
もう! ほら、お待ちかねのお食事ですよ!」
海辺のダイナーはそれなりに人で賑わっていたが、確かに揃っているのは一般市民からアウトロー寄りの様子で、ドルネドが入っても違和感はない。むしろ自分が目立つだろう。車を降りようとしたら白衣の襟を引っ張られた。
「トランクにジャケットを入れてある。『先生』は店じまいだ」
ああそうやって私の殻をまた一枚剥いでいく。素直にするりと脱ぎ捨てる自分も自分だ。トランクに入っていたのは、ダイナーにぴったりのくたびれた革ジャケットだった。サイズもぴったりだ。まるで元々自分のクローゼットに入っていたかのような。
わざわざ用意したのだろう。彼の目なら服のサイズなんて簡単に測定できる。
お医者さんは「お店」ではありません、また屁理屈でつんとしながら、それでも側に並んで立ったのは、そう、お腹が空いているんです。そんな顔で一緒に店に入った。
(膝枕でもしてもらうか)
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