消えたカケラ

賽殺し伝子さんパロの猫箱。何ベルンなんでしょうね、彼は。

消えたカケラ


 おやまあ、この結末を選ぶなんて。

 ――そうだよ? あの世界は結局は夢。
 全ては山田利吉が見た幻の出来事で、山田伝子も不幸な平滝夜叉丸も、はじめから存在しないのさ。

 だからあの話は文句なしのハッピーエンド。この箱の中身は空っぽ、ってわけさ。
 ……満足できたかい?

 君が少しがっかりしてるのがわかるよ。
 だって、もし別の箱を選んでいたら、ちゃあんと中身が入っていた訳だもの。
 そりゃそうさ。中身が入ってない箱なんて、どう考えたって、ハズレっぽいよね。他の箱には、ひょっとしたらとびきり素敵なエンディングが入っていたのかもしれないし。
 いや、とびきり不幸で救いのない話だったかもしれない。君じゃ考えつかないようなすごい話かもしれない。

 ……でも、他の箱の中身は永遠に確かめられない。だから、どんな話か確かめようがない。
 ………………なんて、そんなわけないじゃないか。
 だってこれは所詮ゲームだもの。君は知っている。君は指先ひとつで、戻って別の選択をやり直すことができる。だから他の箱の中身を見て、それから箱を選びなおそうなんて安易なことを考える。――ああ、或いは既に考えて実行したあとかもね?
 ――でも、これが例えば落とし穴だったら? この穴は空っぽでも、別の穴には馬糞が入っているかもしれない。小銭が落ちてるかもしれない。あるいは、竹槍でグサリ!――で命を落としちゃうこともあるかもね。
 そう考えたら、迂闊に選び直したりなんかできないでしょう?

 これはお遊びだから他の箱の中身を確認出来るけど……でも、現実だとそうはいかない。
 それに、君が最初に選んだ箱が何だったかという事実は、絶対に消せない。
 他の箱がいいと分かっても、次からは選び直したいと思っても、君に次のチャンスなんて永遠に訪れないんだ。結局、人生ってそういうものさ。おやまあ、人生の選択は慎重にって、学校で習わなかったの?

 そういう意味では、山田利吉は正解だよ。本当は夢じゃなくても、選んだ以上は現実は室町の世界で、もうひとつの世界は夢でしかない。どの箱の中身か得か悩むのは、箱に干渉出来る人より上位の存在だけ。だって、人間が選べる未来はたったひとつだけなんだもの。

 ――さて。君はどう? 自分の選択に満足してる? 後悔ない選択をできてる?
 君は、今の君自身の選択に、ちゃんと誇りを持って生きていけているのかな? 山田利吉や、消えたカケラの世界の平滝夜叉丸のように、胸を張れる生き方が出来ていると自信を持って言えるかい?

 ――まあそんなこと、どっちでも良いや。君がどうだろうと、僕には全く関係ないんだし。
 おっと、久しぶりに喋りすぎたかもしれないね。じゃ、僕はそろそろ穴見に戻ろうかな。
 ……カケラでも落とし穴でも、形容はなんでもいいや。今の僕は、無数にあるあれらを覗くのが一番好きなんだから。
 ――でも、本音を言えば誰かを落とすのも好きなんだよね。
 …………ふふっ、そうだね。もしかしたら、次に穴に落ちるのは、――――君かもね?