雪成はす子
2025-05-23 00:03:29
2343文字
Public 🐧🐬
 

プリーズキスミー!!

🐧🐬with距離感バグハートの海賊団
キスの日に因んでフリーキスを敢行するシャチとそれを取り巻くハートちゃんのドタバタ劇
🐬愛されな感じで距離感バグってますが🐧以外の💛→🐬はライクです
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 深海を行くポーラータング号に朝は訪れないが、陸上と同じように生活するために三度の食事の時間には決まって艦全体に号令が入る。全員が集まる事はないが、それでも時報代わりに食事の合図をするのがポーラータング号の慣例であった。
 ぱらぱらと食堂にクルーが集まる中、「おはよう!」と元気に挨拶しながらやってきたのはシャチだ。朝だというのに随分とご機嫌な様子のシャチの胸元には、一枚のプレートが掲げられている。
……シャチ、何それ」
「これ? 見ての通り『FREE KISS』の看板。今日はキスの日らしいからさ」
「という事はシャチにキスしろって事なの?」
「そういう事。あ、直接が嫌なら投げてくれてもいいぜ!」
 なんてサムズアップするシャチに、クルーたちの何人かは呆れながらもシャチに投げキッスをした。ありがと! と投げキッスを返すシャチに、クルーたちがどっと笑う。何日も潜航していて娯楽も限られてくるポーラータング号において、クルーの何人かがこういった突発的なイベントを行うのはよくある事だ。だから誰も何も気にしないし、むしろノリノリでこういう行事に参加する。それが彼らハートの海賊団なのだ。
「シャチ」
 不意に頭上から呼びかけられ、仰のいたシャチのキャスケットを取ってシャチの額にキスを落としたのは長身のウニだ。これでいい? とシャチにキャスケットを返すと、シャチはありがと! と返しながら背伸びしてウニの額にキスを返す。おれもおれも! と元気よくシャチに駆け寄ってきたベポは、シャチにすりすりとガルチューをした。ベポに引き摺られるようにしてやってきたローもやれやれと肩を竦めながらもベポとは反対側の頬に唇を寄せる。キャプテンがキスしてくれた! とシャチははしゃぎながらローにキスを返した。
「おはよ……って、ナニコレ」
「あ、イッカクおはよー! 見ての通りキスの日記念のフリーキス! あ、直接が嫌なら投げキッスでもいいぜ!」
 欠伸をしながら食堂の扉を開けたイッカクは、食堂で繰り広げられる光景にうわ、と形の良い眉を顰めた。シャチがぶんぶんと手を振るのを見て、あー、としばし考え込むように米神に手を当て、それからシャチに近づく。きょとんとするシャチの手を取り、イッカクは跪いてシャチの手の甲に口づけた。
「これでどうかしら? オヒメサマ……なーんちゃって!」
 と茶目っ気たっぷりにウインクしながらイッカクが言うと、周囲からキャー! と野太い歓声が上がる。まるで騎士のように恭しくキスされたシャチは、まるで乙女のように両手で顔を覆った。
「やだ……イッカクがイケメン……!!」
「流石だぜ姐さん!! おれ一生ついてくわ!」
「ありがと。でもむさ苦しいからついてくるのは勘弁して頂戴。ところで今日はパンある? 無けりゃ無いでいいんだけどさ」
 とイッカクが食堂の保管庫を漁る。それからもシャチはクルーにキスを投げられ、同じように投げ返していた。寝ぼけまなこのクリオネに絡んでキスを迫り、ふざけんなとシャチを張り倒しつつも手のひらにキスを落とし――

「おはよ、シャチ」

 そこに音もなく現れたペンギンに、その場にいた全員がひゅっと静まり返った。いつの間に現れたのか、ペンギンはあっという間にシャチの背後に音もなく回り込んでクリオネからシャチを奪い取る。その手際の鮮やかさたるや目を見張るばかりだ。
 ペンギンはシャチの首にぶら下がっていた『FREE KISS』の看板を剥ぎ取り、そのまま二人の顔を覆った。逃げようとしたシャチの体をがしっと掴み、そのままぐいと引き寄せる。
「ん⁉ うむぅ、んむ――――ッ!!」
 シャチの抗議の声が聞こえたが、構わずペンギンはシャチの体を強く拘束した。ペンギンの体を引き剥がそうと藻掻いていたシャチの腕が、次第に力を無くして逆に縋るようにペンギンの体にしがみつく。しんと静まり返った食堂で、ぴちゃ、くちゅ、と唾液がかき混ぜられる音がいやに大きく響いていた。
 間近で見てしまったクリオネが、あわわと顔を青ざめさせながら震えている。遠ざかりたいのに足が言う事を聞いてくれなくて、悲しいかなクリオネは見たくもない仲間のディープキスシーンを嫌と言うほどじっくりと見せつけられていた。
 シャチの口内を貪るペンギンの瞳が、まるで飢えた獣がご馳走を貪るようにうっとりと細められているのも。
 ペンギンに貪られるシャチが、やがて立てなくなってかくんと足の力が抜けてペンギンに支えられるその瞬間までを。
 ――それはもうまざまざと、ペンギンの気が済むまでたっぷり見せつけられていたのだった。


「それじゃ、シャチは俺が回収しておくから。お騒がせして悪かったな」
 シャチをキスで沈めたペンギンが、さも何事もなかったかのようにシャチを担いで食堂を後にする。
 後には何とも言えない空気に取り残されたクルーたちが呆然と立ち尽くしていた。青ざめたままがっくりと項垂れたクリオネの元に、ウニが駆け寄る。
「大丈夫か? クリオネ」
「大丈夫じゃねえ……くっそ、こんなの完全に流れ弾じゃねえか」
 はあああ、とクリオネが大きなため息を吐く。気付かぬうちに背後に回られていたのもそうだが、その時に背中に刺さった殺気と言ったら。
「まあ、タイミングが悪かったよなぁ。とはいえペンギンの事だし最初から見てたとしても不思議じゃないとは思うけどね」
「おっそろしい事言うなよウニ……ああもう腹減った! こうなったらさっさと飯食ってメンテだメンテ!」
「だな。あの様子じゃ、あの二人は今日一日使い物にはならないだろうしな」
 やれやれと肩を竦め、ウニは冷めかけたコーヒーを啜った。