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花と面白きとめづらしきと

ハーマンと兄さん。PX再掲。
お着替え騒動。

 理由もなく喧嘩を売られたんだ。買わないで済ませる道理がどこにある?
 
 そう、必要な品物を買っただけ、と同じ様な調子であっさりと言う男を前に、ハーマンは手のひらに額を埋めて深々と嘆息した。
 全くどこの戦闘民族の言い種だとは思ったが、今回ばかりは共和国軍(こちら)側にも非があると明白なだけに余り強くも言い返せない。
大人の対応ってものがあるだろう、シュバルツ大佐。よもや、自分より格下の者たちを傷めつけて楽しむ様な趣味の悪さなど大佐殿は持ち合わせてはいまい?」
「ほう?その言い分だと、私を共和国軍の『格下』と判じて練兵場に連れ出した彼らこそが、そう言った趣味の悪さを好む類の者と言う事になるが?」
 オブラートに包んでそっと差し出した言葉は、然し全力の一振りであっさりと打ち返された。綺麗に放物線を描く場外弾に両肩を重たく落として、球の行方を追う事はもう諦めたハーマンに向かい、見慣れない服装をしたシュバルツは「もう終わりか?」とばかりに目を細めてみせる。
 否、服装そのものには見慣れはあり過ぎる程にある。共和国軍兵士の一般的な野戦服で、灰色を基調にしたゆったりとした上衣に、戦意高揚と互いの判別を目的とした赤いインナーの組み合わせは、軍におらずとも共和国内では至る所で一日に幾度も目にするものだ。
 見慣れないのは服装そのものではなく、それを帝国軍人であるシュバルツが身に纏っていると言う事の方である。
 なんでまた。そうハーマンが問えば、見学をするだけなのに帝国軍の将校の格好では兵士たちも気が休まらないだろうが。と、シュバルツはこれもまた当然の様にあっさりと答えて寄越した。つまり適当に拝借したと言う事だろう。恐らくは勝手な自己判断で。
 正直、兵士たちにとってはドッキリ企画でしか無かっただろう。見慣れない弱そうな顔が居たから──荒っぽい軍人たちの悪癖で──、少しシメてもとい鍛えてやろうぐらいの軽い暇つぶし程度の行動だったに違いない。
 そうして気付いた時には死屍累々。だが、一見して童顔の優男にしか見えない『それ』を何とかシメてもとい倒して示しをつけて見せなければ、共和国軍人の矜持に傷がつくと、腕に憶えのある連中まで集まって、ギャラリーの間にはタバコや嗜好品が賭けの対象として飛び交う始末(金銭の賭博は軍規で禁じられているのだ)。
 全く、軍隊としては情けのない話としか言い様がないのだが。
 結果、誰一人としてその謎の新入りをシメて、もとい。懲らしめる事が出来ない侭に今に至る。
(どう言い繕った所で、客観的な事実には問題しかないから困ったもんだ)
 軍人の気概としては少しぐらい好戦的である方が良いので、互いに納得の上でならば多少の荒っぽさには目が瞑られる事も多い。
 だが、限度や節度の問題と言うよりも、ひとりを囲んで騒ぎ立てる羽目になった今回のケースは、明らかに見た侭の光景として宜しくなさすぎた。
 思い起こせば頭の痛くなる話でしかない経緯に、失意とは少々趣の異なる溜息を混ぜて、ハーマンはシュバルツに向けて再び口を開いた。
……喧嘩をそもそも買わんでくれ、と言う話だ」
「売る方が悪いとは思わないのか?」
「そこは、当事者たちには後で厳重に注意をしておく。何なら何かしらの罰を与えよう」
 変わらないあっさりとした打ち返し調子に手心の気配はない。已む無しかと白旗を振る心地で両手を上げたハーマンがそう言えば、シュバルツはそこで漸く妥協点を得たのか、滲み出ていた棘に似た気配を引っ込めて呉れた。パイプ椅子に背を預ける耳障りな軋み音と共に鋭い息を吐く。
「そうすると良い。軍規の乱れは統率の乱れにも繋がる。常に下には目は向けておく事を勧める」
……貴重なご意見痛み入るよ」
 口にする言葉は、紡いだ調子は、言い放つ態度は、常の将校らしい──上に立つ事に慣れた者のそれであったが、生憎と今のシュバルツの見てくれはと言えば、共和国の一般的な兵士のそれだ。
 アンバランスな違和感と共に憶えた感覚の侭に、ほんの少しばかり浮かんで仕舞った笑みを、敏いシュバルツが見逃して呉れる事は無かった。
「似合わないか?」
 ハーマンの笑みの矛先を正しく拾ったシュバルツが、戯ける様に両手を軽く広げてみせる。パイプ椅子が二脚に机が一つと言う、狭い聴取室へと上官に連行されて来た兵士の態度とは大凡思えぬ様な、堂々とした所作に表情であった。
「似合うと言ったらそれはそれで怒るだろうに」
「まあ、な。だが、実際袖を通してみないと、内部に混じってみないと解らない事はある」
 それが『見学』とやらの言い訳らしい。抜き打ち検査でもあるまいし、何をやらかしてくれているのだと正直を言えば思わざるを得ない所だが、互いに妥協点を提示しているのだ、ここいらが退き所だろうと決めて、ハーマンは座り心地の決して良いとは言えないパイプ椅子から立ち上がった。
「『見学』は中断して貰うが、その代わりに昼飯でも奢ろう。まずはとっとと着替えてくれ。落ち着かん」
「私はこの侭でも一向に構わんのだが。ああ、何なら上官扱いをすれば宜しいでしょうか?ハーマン大佐」
「勘弁してくれ。窮屈でならん」
 口調まで器用に変えてそんな碌でもない提案を寄越すシュバルツの額を指の背で軽く小突いてやると、彼は自らの纏う装束を軽くつまんで、「折角着慣れて来たのに」などと唇を尖らせて笑った。
 
 
 なお。
 格納庫に隠してあった、シュバルツの着ていた帝国軍服を偶然にも発見したトーマが、兄さんが行方不明になったと慌てて各所に連絡を取ろうとしていたのは何とか未然に防げたそうだ。
 

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兄さんにオコ服着せた落書きの時に書いたやつだったのですが、色々あってどうしたものか悩んだのと、普通に再掲忘れていたな、と気付いたもので


これ三つは同じ心なり。