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バラ肉
2025-05-22 20:14:15
4799文字
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いかないで 🐺ブロ
みそさんのリクエスト
『キン肉マンの兄と知ってもアタル兄さんを牽制する🐺ブロを是非お願いします!』
だいぶ自己解釈した結果、嫉妬する🐺さんなりました…すみません。
キスありで、友人以上恋人未満の🐺ブロです。
🐺さんの片想い度強めなので注意!
「うちのブロッケンは
……
」
そう語る男に、ウルフマンは自慢のポーカーフェイスが崩れるのを感じた。
(何が“ウチの”、だ)
不機嫌のまま歪む口元にいつもの不適さはなく。
そこに居たのは、超人相撲界の偉大な横綱
…
その顔を忘れた、嫉妬と不信感に満ちた一人の男だった。
***
アイドル超人として日本に来訪する際、ブロッケンJr.は高確率でウルフマンを飲み屋街へと誘った。
『力士は美味いもんをいっぱい知ってるんだろ!』
そんな勝手な思い込みもあるが、やはり元パートナーという気やすさがあるのだろう。返事も聞かず相手の肩を組む美丈夫は、断られるなんて微塵も思っていない。
事実、飲むから絡まれてしまった横綱は、渋い顔をしつつも決して嫌そうではなかった。
(コイツの場合、放って置いたら酒ばかり飲むから
……
)
心の中で呟く言い訳は、僅かとはいえ年上の矜持だ。いつもは隠れている新緑色の瞳を見ながら、やれやれと肩を竦める。
このやりとりは、もはや二人にとって恒例行事であった。
そうして、超人力士が馴染みにしている料亭で散々楽しんだ後。
千鳥足のブロッケンをやや後ろから眺めるウルフマンという形で、二人は帰路に着いていた。
「ハーッ、夜風が気持ちいいな〜」
緩んだ襟元から伝う風の涼しさが、熱った体に心地よい。鼻歌まで奏でそうなご機嫌っぷりには、さしもの相方も肩をすくめた。
「随分と楽しそうなこって」
店で一番高い酒を奢った甲斐があった。
相槌にそんな嫌味が込められてるなんて露知らず。ブロッケンは満面の笑みでうんうんと頷く。
「ああ! やっぱりウルフマンの見通しにハズレはねぇな! ソルジャー隊長も、「あの力士がスグルのライバルでよかった」って言ってたぜ!」
そう、かつて聞いた褒め言葉を紡ぐ。彼にとっては自分たちの隊長のリサーチ能力の高さと、元相方への賛辞が純粋に嬉しく、そのお裾分けのつもりなのだろう。決しては他意はない筈だ。
しかし、聞いた男は次の瞬間にはピタッと歩みを止めていた。
「キン肉、ソルジャーが
…
?」
呟く言葉は固かった。先程までの明るい調子が嘘のようだ。だが、それも仕方ない。ウルフマンがキン肉アタルをよく思っていないのは周知の事実なのだ。
「あっ
……
いや、その。あの人は
……
お前が思うような奴じゃねーから、そんなに不審がるなよ!」
「ぐぬぅ
……
ッ」
なので、慌ててフォローに入るブロッケンJr.に、ウルフマンは心底嫌そうに顔を歪めた。
こうして彼に、キン肉ソルジャーことキン肉アタルについて拒絶の態度を見せるのは初めてではない。
やれ、あの男はどこか信用できない。
やれ、あの男は胡散臭くて敵わない。
いつかきっと、信じ続けた末に痛い目に遭う。
二人きりで会う度にウルフマンはその懸念を訴えてきた。だが、当の本人にはのれんに腕押し。
「何より、ソルジャー隊長はキン肉マンの兄貴だぜ。まあ、確かに最初は怪しさ全開だったけど
……
今は、あの人ほどすげえ奴はいねえと思ってる」
人の心配もどこ吹く風で、むしろ相手のことを褒める始末だ。
もちろん、ブロッケンとしても些か過剰評価なのは分かっている。分かった上で、自分は自分達の元隊長を心から尊敬している。そう胸を張る姿は余りにも無垢で、真っ直ぐで。
だからこそ、ウルフマンの胸に底知れぬ不安が湧き起こる。
「そこまでの、男なのか
……
?」
呟いた声は妙に掠れていた。グッと握った拳が震える。
苦々しい表情からして、本当は口に出すのも嫌なのだろう。しかし、湧き起こる気持ちが相手の本意を探ろうとする。
そんな相棒の変化など知る由もなく、ブロッケンは元気に大きく頷いた。
「ああ!」
返す声はどこか誇らし気だ。
「でなけりゃ、命なんて賭けないっての!」
かつて行われた知性チームとの大立ち回りを思い出してか。照れくさそうに鼻を擦る態度は、目の前の男の心なんて何も伝わっていない。
それが悔しくして、ウルフマンは奥歯を噛んだ。同時に、ブロッケンの腕を前振りもなしに掴む。
「えっ、おい
……
!」
グイッと引き寄せられるまま、二人の距離が0になる。ほんの少し高いブロッケンの目を見上げれば、驚きに揺れるペリドットが煌めいていた。
(綺麗なもんだ)
そう思うと同時に、ウルフマンは彼の後頭部に両手を添えた。
瞳をよく見るためにではなく、これ以上のあの男への賛辞を聞きたくなくて。
得意の合掌捻りさながらに目の前の美しい顔を固定すると、彼は自分の厚い唇を歪めた。
「黙っとらんと舌を噛むぞ」
敢えて強気に宣言し、踵を上げる。
ぬるり。
「っ、ぅんンッ!」
突如、口内に侵入した舌に戸惑いの声が漏れた。
いくら西洋人とは言え、マウストゥマウスでのコミュニケーションは滅多な事ではしない。何より、絡んでくるそれは挨拶なんて生優しいものではなかった。
最初から攻める気なのか。入り込むなり、舌を擦り合わせ、下唇を喰み、歯列をなぞる。
「ンッ、ふぁ、
…
んんぅッ」
それは激しい恋人同士のキスそのものだった。
だからか、いつの間にかウルフマンの背中に回った腕は完全に相手へ縋り付いていて。
「ウルフ
……
ッ」
合間を見て呟く名前は、心地よさに蕩けきっているのが丸わかりだ。恐る恐る伸びてくる舌と大きく開けられた口に、仕掛けた男は「よく出来ました」と褒めるよう、後頭部に回した指を下にずらし、頸を撫でた。
ビクンッ。
微かに震える動きは、さながら生娘よりウブで。
“恋人”でもない相手とのキスを甘受するギャップとに、ウルフマンは思わず眩暈がしそうになった。
(こんな簡単に受け入れるくせに)
自分達は決して恋人なんて仲ではない。
元タッグパートナー。アイドル超人の仲間。正義超人の友。二人の間柄に色っぽい名前はない。
なのに、この男は一度懐に受け入れた相手をどこまでも受け入れるから、ウルフマンもつい、こんな真似をしてしまう。
(危うい奴だ。俺が言うのも何だが
……
)
初めてキスした日のことを、ウルフマンは昨日のことのように思い出せる。
タッグパートナーとしての親睦を深めるため。
ウルフマンの行きつけの居酒屋へ訪れた二人は、共に出てくる美酒と料理を楽しみつつ、合間合間で、今回の大会に対する決意。他の出場者たちへの見解。そして最後はキン肉マンを始めとする正義超人たちの極秘ネタ等々。思いつくままに散々語り合ったものだ。
結果、思った以上に意気投合した彼らが互いに酒を注ぎあったのは自然の流れで。
『うぃー
……
もう飲めん』
酒好きを公言する男が机に突っ伏す様に、ウルフマンは盛大に笑った。
『なんだ! もっとゲルマン魂を見せんか』
バンバンッと乱暴に背中を叩けば、衿元を緩めた男は、しかし恨みぶかそうに見上げてくるばかり。
『なんだよ、オレより酒癖がわりぃぞ』
憎まれ口を叩き唇を尖らす様は、妙にあざとく。ウルフマンの意識を引き寄せるには十分だった。
青白い皮膚がアルコールで淡く色付き、赤い舌が唇に残るビールの泡をゆっくりと舐める。黒い手袋に包まれた指先をグラスの水滴が濡らし、長い睫毛が溶ける氷に合わせたように震える。
その様子に、自身の頭も酒に浸かっていたウルフマンは正直目が離せなかった。
口内に溜まった唾を大袈裟に嚥下した、次の瞬間
——
彼は大きな手を伸ばし、目の前の男の唇にむしゃぶりついていた。
堅物な見た目の割に柔らかな感触に夢中になり、個室で二人きりだと言う状況がモラルを壊す。
(口付けだけ。それ以上は絶対に踏み越えはしない)
そんな言い訳にもならない独り言を心で繰り返しながら、彼は若い時分から女に教え込まれた舌技を惜しげなく使い、ブロッケンの唇を味わった。
それほどまでに、酒臭い口付けは怖いほどに熱く、心地よく。
結果、息も絶え絶えに腰を抜かしたブロッケンを介抱した後、ウルフマンは頭を抱えたい思いだった。
(なんてことを)
折角のパートナーになんて無体を。サァァッと血の引いた頭が、大和男子である自分の見境ない行為に絶望する。
だから慌てて謝ろうと体を離した途端、ブロッケンJr.はこともなげに言うのだ。
『アンタとのキスって、すげえ気持ちいいな』
怒るでもなく責めるでもなく。
逆に「満更でもない」と笑う相手に、ウルフマンは己のストッパーがどこか壊れた気がした。
クラリ。酔いとは違う眩暈に、自分の常識が崩れていく感覚。このままだと、単なる好奇心を冗談だと笑い飛ばせなくなる。えもいえぬ恐怖が頭に過ぎった。
いや、これは何かの間違いで!そう言い繕うと口を開けかけたところで、
『うーん。嫌いじゃないかも、ウルフマンとのキス』
なんて、濡れた唇を拭いながら微笑む男に、彼は己の中の倫理観が覆させられた気がした。
(嗚呼、堕ちてしまう)
現実から目を逸らす事を決めた。
一時の、若かりし頃の過ちと割り切り。
それからというもの、二人の間ではキスは会えない時間の穴を埋める道具となった。
「ふぁッ
……
ハァ、ハアッ
……
何だよ、いやに唐突じゃねえか?」
今日も単なるキスだと思ったのか。濡れた唇を親指で拭いながら、ブロッケンはウルフマンの胸を小突いた。嫌ではないが、急すぎる。ほんの少し寄せられた眉間が軽い非難を訴える。
「俺の前で他の男をそんなに褒めるな。妬くだろう?」
「ハア!? お、お前! そ、そんなタマかよ
……
ったく!」
帽子の鍔を下げて照れる姿は相変わらず青二才丸出しで、揶揄われていると思い込んでいる。込められた思いの半分も理解していないことだろう。
こんなにそばに居るのに、こんなに長く同じ時間を共にしたのに、だ。
(いつか、頭の先から爪先まで喰われかねない)
気持ちいいから、受け入れる。
相手を信頼しているから、拒否する理由がない。
ブロッケンのその心理を利用したウルフマンだからこそ、彼のキン肉アタルへの思いが、危うくてならない。
「それに、比較するのがおかしいだろ?お前はパートナーで、あっちは上司。日本で言うところの比べる“土俵が違う”ってもんだよ」
「ッ
……
」
『本当に?』
そう言い掛けて、ウルフマンは出掛けた言葉を寸前で飲み込んだ。
言ったことで、逆に意識されては元も子もない。
『立場が違う』という言葉の脆さに奥歯が鳴る。
ただでさえブロッケンを見つめるあの碧眼の熱さには既視感があるのだ。眩しいと細めながらも、確実に彼に惹かれていく眼差しは、いやと言うほど身に覚えがある。
(もしも自分と同じ轍を踏めば、きっと、戯れで終われない)
「ブロッケン」
(あの男もまた、自分のように)
「アイツを信用しすぎるな」
(いや、自分よりももっと、激しく)
「キン肉アタルは、必ずお前を
……
」
「オレを? なんだ、ウルフマン?」
「グッ
……
」
忠告してやりたい反面、何もなければいいと嘯く自分にウルフマンは頭を振った。
(必ずだ。だってあの目は、捕食者の目だ。狼(じぶん)よりも遥かに飢えた、獅子(おうじゃ)の目)
思い出すだけで体が身震いする。
捕まったら最後。
この男はきっと自分の元に返ってはこない。
ウルフマンはそんな弱気になる自分を誤魔化す代わりに、ブロッケンの胴体を改めて抱き寄せた。
決してやるものか、と。
あんな底の見えぬ相手の元になど行かせるものかと。
居ない筈の相手をきつく睨みながら、腕にギュウッと力を込めながら。
「ブロッケンJr.
……
お前を、渡したくないんだ」
栄光ある横綱は、いつか辿り着く未来に怯えた。
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