ぎんちき
2025-05-22 19:47:48
2207文字
Public ブン木手
 

Sleeping in the sky

10年後くらいのふたりのつもりです。
お付き合いをしている!

「ただいま……
 特段望んでいないのに強制される人付き合いというのは、中々に厄介だ。いつもなら躱すなどして上手く抜け出すか、そもそも断れるのだが今日はついていなかった。何が三次会だ。まぁ、終電で帰ることができただけ良しとしておきましょう。
 ジャケットを脱ぎ、手洗いを済ませる。これだけで大分『帰宅した』ということを自覚できた。
「あれ……
 リビングの電気がついていた。それに、音は小さいが人の声が聞こえる。
「ブン太くん?」
 ドアを開け、入ってみる。テレビがつけっぱなしになっている。……が、それを見ていたであろう人物の姿は見えない。ということは、だ。
「ああ」
 どうやらソファで横になっている内に寝てしまったのだろう。見てみれば、何とも安らかな寝息を立てている。しかし何も掛けずにというのは、感心しない。
「ブン太くん、風邪引きますよ」
「んー……
 声をかけてみても瞼は開かれず。むしろ、口元はより柔らかな弧を描いた。
……
 先日、彼と昔の写真を見返したことを思い出す。出逢った頃から比べたら、お互い随分と大人になったなどと言い合ったものだが、こうして穏やかに眠っている姿を見てみると、まるで子どものようにも見えた。可愛らしい。
 慎重にソファの空きスペースへ腰掛ける。まだ、目は覚まさない。
 こうなると起こすのも悪いような気がしてきた。寝室からタオルケットなりを持ってきてあげましょうかね。……その前に、もう少しだけこの時間を楽しみたい、と、思う。
 ブン太くんの頬に、指先で触れてみる。少し赤みがさしていて、滑らかな触り心地。以前似たようなものに触れた記憶がある。何でしたっけ。
 ——そうか。彼の弟だ。どういう流れだったかは忘れたが、高校生の時に会ったときにそんなことがあった。この前久しぶりに挨拶した時は、下の弟さんがそれこそ昔のブン太くんにそっくりで驚いたものだ。その記憶もあって思い出したのかもしれませんね。

 中学三年生のあの時から、私はブン太くんに惹かれていた。当時は気づきもしなかったそのことを、今更になって改めて自覚させられる……そんな出来事だった。それと、あの瞬間だけは、私も「比嘉中テニス部主将」の木手永四郎に戻ったような錯覚すらした。
 でも、やっぱり、私は今のアナタが一番好きですけどね。いつだって、その時その時のブン太くんが、一番可愛らしくて、一番格好よくて、一番人として尊敬し得て、……。この気持ちを表すなら、最もしっくりくるのはこれだ。
「いっぺーかなさん……

 酔っているのだろうか。
 いやそうだ。そうに違いない。さっさとかけるものを用意しましょうね。





 今晩、キテレツは飲み会に行くらしい。じゃあ飯は作んなくていい? って聞いたら、『食べる』って。たまには思いっきり羽を伸ばしてきてもいいのにな。それともあれか、俺の飯がそんなに好きなのか? ……いや〜、俺じゃねぇんだし、違うだろ。まー、なんだ。ノリ気じゃねぇから早く帰るぞって気合い入れのつもりでもあんだろうな。
 ん〜、でももしかしたらなんだかんだで遅くなるかもだよな〜。なら最悪、明日とかでもチンして食えるもの作るか。何にすっかなー。そもそも冷蔵庫に何あったっけ。
 ——決めた。オム焼きそばにしよ! あー! 想像したら腹減ってきた。早く帰って作らねぇとな。

   *

 ん。あれ。寝てた……飯食って、ゴロゴロしてたところまでは記憶があんだけどな。キテレツは帰ってき——てるな。目を瞑ったままでもわかる。すぐそこに気配を感じるからな。ソファに座ってんのか。
 そうだ! せっかくだから驚かしてやろ。子どもみたいなことすんなとかなんだって言ってくる気もするけど、ま〜、こんな時くらい、いいだろい。そうとなればどうやってやるかな。いきなり目を思いっきり開けるとか、声出すとか。後はキテレツが離れた隙に起き上がって後ろから、とかか。どれにすっかなー……あ?
 くすぐったい。何だ? ほっぺ触られてる? 何でだ?
……

 完全にタイミング失った。いや、今目を開けてもいいんだろうけどそういう雰囲気じゃねぇっつーか……
 えっ。あっ!?
 今の、聞き間違いじゃねぇよな。お、おいおい! な、な……照れる。絶対顔赤くなってるだろ俺おいキテレツもういっそ気づいてくれよ俺が起きてるって! それとも、わざとか? ドッキリ!? キテレツも知ってるはずだもんな、いくら俺が未だに沖縄のことばに詳しくないっていってもそれくらいはわかるってことはさ! ……あ。どっか行った。
 起き上がって、顔に触ってみる。あっちぃ。何なんだよマジで! 昔より割とちゃんとあっちから好意を口にしてくれることは増えたから耐性ついてたつもりなのに。
 んで、何より、恥ずかしい、訳じゃなくて。キテレツが、大切にしていることばで、ハッキリと言ってくれた、ってのが……嬉しい。できたら俺が『起きてる』時に言ってほしかったけど……それは妥協してやろう。
 で、え〜っと。今、俺がやんなきゃならねぇこと……。とりあえず、さっきのは聞いてなかったことにしよう。深呼吸だけする。そう、俺は、今起きた……。大丈夫。昔から、ポーカーフェイスは得意だ。
「おや。起こしてしまいましたか」
「ああ……。キテレツ、おかえり」