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ゆたか
2025-05-22 17:24:52
1390文字
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SS
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無題SS④
笛に脳を焼かれた
「やあ曲者だよ」
久々に医務室に顔を出せば伊作くんが一人薬研を碾いていた。
今日、他の学年は実習や座学でまだ来ていないらしく珍しく一人なようだ。
「伏木蔵ももうそろそろ来るとは思うのですが
…
」
申し訳なさそうな顔でいう伊作くんに「君がいるからいいよ」と伝えても腑に落ちない顔をされる。
確かに伏木蔵くんを気に入ってはいるが、それよりも保健委員長に会いに来ていることをこの鈍感な少年は未だに気づいていないようだ。
人生経験の浅い少年にそんな心の機微を感じ取れるわけはないとわかっていても少々さみしい思いもあるのは事実だ。
「そうだ!雑渡さんお時間ありますか?」
申し出にうなづくと伊作くんはばたばたと外に出ていき、部屋から何やら持ってきた。細長い袋に入ったそれは使い込まれた小さな横笛だった。
「笛
…
?」
「はい。この前、楽の授業がありまして、それで聞いていただきたいなと」
忍術学園というのは授業も多岐に及ぶらしい。確かに芸事を身に着けておくことは忍者にとってはとても有意義な事。タソガレドキ忍軍でも個々人でそれを身に着けているものはいるが全体に教育するほどの余裕はない。使い込まれた笛もきっと学園の備品なのだろう。扱いに不慣れな様子が見て取れる。
「とは言ってもほんの数節ですが
…
。聞いていただけますか?」
以前伏木蔵くんが実技の授業で覚えたことを私に見せたがった事があったが、そういった意味合いのものだろう。伊作くんもまだ忍たま。まだまだ子供らしいところがあると微笑ましく思いながらこくりとうなづく。
「ありがとうございます!」
嬉しそうに、どこか誇らしげな笑顔で答えると慣れない手つきで笛を構える。
「ちょ
…
ちょっと待ってくださいね」
笛に息を吹き込むと幾度目かで張りのある音が出た。
授業でやったとはいえ短い時間での練習だろうがさすが最上級生。色々と器用なのか初心者とは思えない力強い音が医務室に響く。
「い
…
行きます
…
!」
そういうとふうと息を吸って集中するためかこちらに向けられていた視線がふっと外れ、伏し目がちになる。長いまつげに隠れているその瞳が憂いを帯びたように見えて心の臓が高鳴る。
「
…
どうですか?」
短い時間ではあったが緊張もしていたのだろう。額にじわりと汗を浮かべながら伊作くんが問いかけてきた。
「すごいね。授業でやっただけとは思えないほどしっかりとした笛だったよ」
そう言うと伊作くんの表情が一気に輝く。
「ありがとうございます!
…
じつはこれ、練習のための一節なのですが
…
この旋律が雑渡さんっぽいなと思ってて
…
」
「私の?」
突然の申し出に思わず首をかしげる。先ほど演奏された音色が自分ぽいと言われてもどうにもそれが頭の中で繋がらない。
「そ
…
そう
…
かな?伊作くんの私のイメージって笛
…
?」
「いえ!そうではなく。この旋律
…
力強くて
…
でも柔らかいところが雑渡さんだな
…
って
…
。僕は
…
好きです」
少しだけ顔を赤らめて伊作くんがぽつりと呟く。
「
…
もう一回吹いてもらえるかな?」
「え?でもこれだけしか吹けませんし、同じのを何回もじゃ飽きてしまうでしょう?」
「構わないよ。
…
聴かせてくれる?」
「は
…
はい
…
」
そういうと伊作くんはまた口元に笛を添える。
先ほどと同じ旋律なのにそれはどこか温かく、心の奥をくすぐるようなそんな音色がした。
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