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3i2su
2025-05-22 09:21:49
3278文字
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トークッキング
全年齢┊バキサム┊料理動画を録る二人の話
ヴァレンティーナがアベンジャーズ不在を公言したおかげで、サムは散々な目に遭っている。名前の商標争いなんてのは始まりにすぎない。キャプテン・アメリカこそがリーダーとなってアベンジャーズを率いるべきだと考える人々が、次から次へと宣伝やキャンペーンの依頼をしてくるのだ。最初こそ役に立つならと交通安全を呼びかけるキャンペーンに参加したり、キャプテン・アメリカが空から降ってくるという演出込みの宣伝で観衆を湧かせたりしたが、こんなことをする羽目になった元凶に対して苛立ちが募るばかりで、当然いい気分とはいえなかった。キャンペーンに参加するにしても、大人の事情が絡んだ今回のようなやり方は気が進まない。もしこれがスティーブだったら、と考えて気が重くなった。
そんなある日、バッキーから着信がきた。男とは今回の件があってから何度も話し合いを重ねたが、いまだに解決へは至っていない。
「なんだよ、バッキー」
「今夜、話せないかと思って」
「どうせまた喧嘩になる。同じことを繰り返すだけだ」
「逃げるのか?」
「おまえマジか。分かった。今日の夜、俺の部屋に来い」
「サ
……
」
バッキーがこれ以上苛つくことを言う前に電話を切った。画面に表示される名前にさえ苛々して、テーブルに勢いよく滑らせる。最後はグラスに当たって画面が暗転した。
「入れ」
モニターに映った男を招き入れ、ソファーにどかっと腰掛ける。飲み物を入れてやるつもりはなかった。そうせずともまるで自分の家かのように冷蔵庫から水を取り出し、家主の了承も得ずに飲み干す男、それがバッキーだ。
「最近は忙しいのか?」
「お陰様で」
この忙しさは目の前でさも俺のせいじゃありません、という顔をしている男のせいでもある。ニューアベンジャーズと名乗っている彼らを、咎めるつもりはないのだ。名前くらい、新しく付けたっていい。アベンジャーズに拘る必要はないと思っている。しかし、サムが許せないのは、いくら監視下とはいえ名目上ヴァレンティーナの直属であるという点だ。むしろその一点しかない。それさえクリアできれば名前くらいくれてやる。というのをサムは何度もバッキーに話したが、証拠を見つけるのに時間がかかるだの、近くに置いておくのがいいだの、なんだかんだ理由をつけて現状維持という姿勢を曲げない。苛立ちは募る一方で、今夜の話もどうせ上手くはいかないと溜め息を吐いた時、不意に名案が浮かんだ。
「仕事を手伝ってほしい」
「仕事?」
急だな、と驚いた顔をしたバッキーは向かいにあるソファーに腰を下ろした。その顔はどこか嬉しそうで、精々勘違いしてろよと内心ほくそ笑む。
「そうだ。ちょうどこれから撮影するところだったんだ。おまえは俺の隣に立って言うことを聞いて動いてくれればいい。余計なことはするな。オーケー?」
「ああ、それはいいけど撮影って」
「準備に取り掛かろう」
「おい、サム!」
立ち上がってキッチンに向かうと冷蔵庫から食材を取り出し、並べていく。並べ終えたらエプロンを洗い替えの分と二枚取り出し、一枚をバッキーに渡した。
「つけろ」
「今から料理でもするのか?」
「おまえを捌いてやろうか?」
「笑えないぞ」
「本気だからな」
包丁とまな板をセットしてキッチンテーブルにスマホを立て掛けた。広報曰く、料理に関する映像は視聴されやすいらしい。キャプテン・アメリカが料理をする、という親しみやすさに国民は安心するはず、だそうだ。そんなものなのか? と疑問に思わないでもないが、ちょうどいい。バッキーにとってこれは耐え難いはずだ。気晴らしになる。
「それじゃあ録るぞ」
「待て、なにをすればいい」
「見て分からないか? 料理だ」
まだなにか聞きたげなバッキーから視線を逸らし、画面をタップした。真顔から緩い微笑みに変えて画面に向かって手を二、三度振る。
「やあ、みんな。キャップだ。こちらは、」
「バッキー・バーンズ」
「今日はこの料理とは縁のなさそうな相棒とボロネーゼを作っていく」
「サム、こんなのは時間の無駄だ。二人で話そう」
「ここで注意。お家の人が料理をしてくれる時にくれぐれもこんな駄々を捏ねないように」
人差し指を立ててウインクをした。広報から聞いた子どもにも優しい料理番組、というテーマに沿った演出だ。
「どうしてこんなことをしなくちゃいけないんだ。俺たちはこんなことをしてる場合じゃない」
今夜おまえをボロネーゼにしてやろうか、と喉元まで出かかったが、なんとか堪えて蛇口を捻った。
「まずは手を洗う。石鹸を使ってしっかり汚れを落とすんだ」
タオルで手を拭き、並べておいた野菜を順番に指差しながら紹介していく。
「材料はここに。まずはにんじん、それから玉ねぎ、セロリ。これらはすべてみじん切りだ」
「悪かった、サム。頼むからなにか言ってくれ」
録っていることなど忘れてしまっているような、あるいは気にもしていない様子で詰め寄ってくるバッキーを睨みつけ、紹介した野菜を手渡した。
「いいか、バーンズ。俺と対等に話がしたいなら口じゃなくて手を動かせ」
表情を変えないまま告げる。「わかった」と静かになったので気を取り直して画面を見た。
「それじゃあバーンズ、洗った野菜をこっちにくれ」
玉ねぎがまな板に置かれて、皮を剥き、細かく切っていく。セロリも同様に細かく切り、残りはにんじんだけになった。視線だけで寄越せと伝えるとメタルアームが視界を遮り、グシャ、と潰れる音がする。覗き込むと潰れたにんじんがまな板の上で粉々になっていた。
小さく舌打ちをして、しかし、画面には笑顔を向けて手を打つ。
「ちょうどいい。みじん切りがしやすくなった。皮が混ざって口に残るだろうが、食うのは相棒だからこのままいこう」
皮をそのままににんじんをみじん切りにして、切った材料を鍋に入れて火をかけた。
「切った野菜に火を通している間にひき肉も焼く」
用意しておいたひき肉をフライパンに入れる。あとは染み出た脂を取り除きながら強火で焼く。火にかけているものはバッキーに任せて、サムはパスタを茹でることにした。
味付けを済ませてパスタと絡めたボロネーゼの匂いは食欲を誘い、それが画面の向こうには伝わらないのが少し悔しい。盛り付けた皿を画面に向けながら勢いよく息を吸い込む。
「うん、いい匂い。これで完成だ。みんなも今日はボロネーゼパスタにしよう。材料はここに載せておくし、作り方は見たからもう分かるよな。もし不安ならお家の人と一緒に作ってみて。それじゃあキャップと」
あと一言で終わるのになにも言わないバッキーの足を思い切り踏む。小さく唸って、かち合った視線に怒りを込めればボソボソと呟いた。
「
…………
バーンズでした」
「サム、こんな茶番もういい。話をしよう」
気が付いた時にはもう背後を取られていて、振り向いたらそのままキッチンに押さえつけられた。身動き取れない状態だが、バッキーの姿を見て思わず吹き出してしまう。
「はっ、エプロンほんと似合わないな」
「お前は似合ってるよ」
「そりゃどうも」
褒められて嫌な気分ではなかったから素直に受け止めたら油断したのかバッキーの力が抜けた。その隙を見て腕から抜け出し、エプロンを外す。
「サム!」
「やるならカメラの外でだ、バッキー」
そう言って録っていた画面をタップし、撮影を終了する。まあ、これはただの仕返しに過ぎないし、こんなぐだぐだな料理動画を広報に送るわけにはいかない。
「やる?」
エプロンを付けたまま間抜けな顔をする男を見つめて、どうしてこんな奴を好きになったのか、と考える。答えは簡単だった。こんな奴だから、好きなのだ。
「いつも話し合いだって言ってセックスすることになるだろ。だから今日は初めからセックスしよう。どうだ、いい提案だろ」
「
……
」
「さっさとしろ、それと、エプロンはつけたままだ」
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