「うーん、こんな感じかなー」
旅人はうんうん唸りながら難しい顔をしている。その傍らにいるヌヴィレットはそんな恋人の姿に目を細めていた。何をしても愛らしくて可愛い恋人の表情はくるくる変わって、それがまた愛おしくて仕方ないらしい。
「ふふ」
つい笑ってしまえば、旅人が今度は厳しい顔でヌヴィレットを見る。
「んもう、ちゃんと髪の毛もって、まっすぐ向いていて! 今俺は真剣に悩んでいるんだから!」
ぷぅっと頬を膨らます子供っぽい表情にヌヴィレットの相好が崩れる。
そう、旅人は今、真剣に悩んでいる。実は以前ひょんなことで出会った花屋の少女のデイジーからあるお願いをされたのだ。
『お兄ちゃん、あのね、デイジーお願いがあるの』
パレ・メルモニアまでやってきたデイジーが頼んできたのはこんな内容だった。
フォンテーヌで行われるささやかなお祭りでデイジーが小さな劇に出るというのだ。そこで、その劇では可愛らしい妖精を演じることになったデイジーは旅人に髪を可愛く仕上げてほしいらしい。
赤ちゃんが生まれたばかりの両親にはこの劇に出ることはサプライズにしたいとのことで、大好きな母にも内緒なのだという。衣装についてはフリーナが用意してくれるということだが、髪型は大好きな旅人にしてもらいたいと言ってきた。どうやらデイジーは旅人の長いおさげがおしゃれに見えたらしく、ぜひ自分の髪にもかわいい編み込みをしてほしいと思ったようだ。
そんな可愛らしいお願いを、お兄ちゃん気質の旅人が快諾したのは言うまでもない。
こうして今、ヌヴィレットを実験台にして髪型を研究している。
「ちょっとそっち持っていて
……、あ! もうーじっとしてて!」
「ふふ」
先程から二人はそんなやりとりを繰り返しているのだ。
「ここはこう編み込んで、妖精だから花を髪に差して、リボンはここかな?」
一人百面相をしながらあーだこーだ言う旅人にヌヴィレットはまた小さく微笑んだ。
そして試行錯誤の末、演劇当日には可愛らしいヘアメイクを施されたデイジーが立派に妖精役を務めあげ、彼女の両親も旅人とヌヴィレットも彼女に盛大な拍手喝采を送った。そんなある日の出来事。
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