紫輝
2025-05-21 20:33:51
1921文字
Public リとヌと御仔の話
 

ここ数日鳴き声が「レヴィ」だった

リとヌと御仔とカクークの話の続き…続き?二幕の噴水前のやり取りと「帰るか!」の間の話です。数日お泊まりしてたら絶対ご挨拶行っちゃうよなって思って。仔育てしてるリオヌヴィは大抵の竜を籠絡(言い方)できるという夢を見ている

「俺たちは巻き込まれただけで、この件とは元々無関係だ。旅人に迷惑がかからないよう、黙っとく」
 そう、自分たちは偶然噴水の傍を散策していただけ。何も見てないし聞いてない。ちょっと、うっかり、事件性のある何かに巻き込まれたけれども、何も見てないし聞いてない。ご協力感謝する、と瞳を細めた男と「ご苦労様です」と別れればそれで終わり。の、はずだった。
 カクークが『パレ・メルモニアの職員さん』に向かってパタタと飛んで行かなければ。
「レヴィ! レヴィ!」
 カクークはつい最近この国でできたばかりだと話してくれた(のだと思う。多分)友達の名前を連呼しながら男の周りを飛び回っている。彼の背中や足下を気にしているところを見ると、彼はどうも友達本人ではなさそうだ。男の傍にいるときの友達がよくその辺りにいるのだろう。
「ごめんな。今日はあの仔は一緒じゃないんだ」
 留守番だよ、と男が言う。その声はさっきまでとは全く違う優しいものだ。
「会いたくなったか、きょうだい?」
「そうだなぁ。あの仔もそう思ってるだろうから、俺が今日カクークと会ったことは内緒にしておかないとな」
 楽しげに男は笑う。“友達”もカクークに会いたがってくれているんだろうか。彼と“友達”の関係性がまだわからないが、自分もカクークの友達に挨拶くらいはしておきたい。叶うなら紹介してもらいたいものだが、この『職員さん』にホイホイと素性を尋ねてもいいものだろうか。少なくともこの国に来てからたった一週間ほどで向こう一年分ほど観た映影に高確率で登場したギャング達とは違う場所に立っていそうだが、どう見ても堅気には見えない。失礼ながら。
「違う!」
「意地悪してるわけじゃないさ。俺だけ君に会ったって聞いたら、レヴィは寂しくなっちまうだろうからな。あの仔に悲しい顔になって欲しくないんだ」
 ぷんすこと怒っているカクークに、男は眉を下げて小首を傾げてみせる。一理ある。自分のいないところで友達と保護者(仮)が会って話をしたと聞いたら、きっとその子? カクークの友達は多種族に渡るからひとまず“子”にしておこう。その子も残念がるだろう。『職員さん』は随分その子を可愛がっているようだ。
「もちろんだ!」
「わかってもらえてよかったよ」
「急げよ、きょうだい!」
「うん? 早めに帰れって? 勿論さ。家族が待っててくれてるからな」
 ところでこの『職員さん』、やけにカクークと意思の疎通ができている。数日で――自分たちがフォンテーヌに来てからカクークと離れていたのはそれくらいの期間なので――ここまで彼とコミュニケーションができる人間はナタにもいなかった。逸材だ。個人的にも友人になっておきたいが、了承してもらえるだろうか。
 君は優しい仔だなぁ、ありがとう家族を気にかけてくれてと男がカクークを撫でたのと、それを受け容れた上くるるるると満悦の鳴き声まで上げるカクークにぎょっとする。同時に呆然とした声が隣で聞こえた。
「嘘だろう? カクーク、僕が撫でようとするとすごく怒るのに
「子ども扱いされるのあんまり好きじゃないからな」
「あれは」
「あれは
 多分“親”の手つきで、“子ども扱い”とはまた違うという説明が、五歳児のきょうだいに伝わるとは思えない。し、だからと言ってあそこまでご機嫌になるのはそれはそれで意外で、不思議で、驚きだ。そもそもカクークが『ほぼ他人』に撫でさせること自体がレアケースでもある。あの『職員さん』、何者なんだろうか。ナタの外にも竜がいる(国外の竜は一般的には“龍”と呼ばれているらしい)という話は旅人から聞いたことがあるが、龍達と関わりのある人間なんだろうか。
「イファ」
「んー、お前に兄貴面はさせないぞって気持ちなんじゃないか? はっきりしたことはカクークに聞いてくれ」
 適当にはぐらかすと、オロルンは真面目くさった顔で「そうする」とうなずいた。失敗したかもしれない。今夜辺りまた騒がしくなりそうだ。
「君たちがナタに帰る前にもう一回くらい会わせてやりたいと思ってるんだ。その辺はまあ君の『きょうだい』と相談してからになるだろうが黙って帰るなんてつれないことはしないでくれよ?」
「まかせろ、きょうだい!」
 もう行きな、と促されたカクークが、すり、と男に親愛を示してから揚々と戻ってくる。啄んだケネパベリーが三回連続で甘くて美味しかった時くらいのご機嫌っぷりだ。本当になんなんだろうかあの『職員さん』。
 それじゃあと、今度こそ別れた男から旅人づてに連絡が来たのは、何も見てないし聞いてないナントカ言う事件が解決を見た後だった。