傘道
2025-05-20 20:50:59
2384文字
Public ビリイト
 

歌詞のないラブソング

#billighter1w
【お題投稿〈第2回〉】
お題①: ラブソング
から書きました。

貴方だけに届けたいラブソング。


もう何度目かわからない。
そのくらい紙を握りしめてはゴミ箱に捨てていた。
書いても書いても納得いかない歌詞。
照れ屋な恋人に届けたい想いをしたためても、ありきたりの言葉しか出てこない。
書いては消して、書いては消して。
ぐちゃぐちゃになった譜面に余白がなくなるまで書いて、書いて。
そしてくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てる。
ゴミ箱に溜まった紙屑を見て、同僚のアンビーや猫又に怒られるかもなとビリーはどこか他人事のように思っていた。
シンプルに愛してると言えばいいかもしれない。
でも何度愛してると言っても論理コアは満たされない。
ならば愛の言葉をこれでもかと込めたラブソングでも贈ろう。
そう決意してもう数日間格闘したのに、全然ラブソングは完成しない。
歌詞が完成せず、リズムもわからない。
いつになったら恋人にライトに贈るラブソングが完成するんだろう。
そもそもどんな曲調のラブソングを贈りたいのだろう?
ビリーは思考の海に漂う。
情熱的な激しい曲調なのか?
夜空が似合うしっとりとした曲調なのか?
甘酸っぱさがあるポップな曲調なのか?
それとも
「俺がライトと一緒に居る時ってどんな音が似合うんだろうな?」
くしゃくしゃに丸めた譜面をゴミ箱に投げ捨てながら呟いた機械人の問いに答える者は居なかった。


「ライト。」
黄昏の郊外でビリーは恋人の名前を呼ぶ。
「なんすか?パイセン。」
「ちょっと手を出してくれないか?贈りたいものがあるんだ。」
贈りたいもの?
そう言いたげに眉をひそめたライトは黄色のアイライトを見つめる。
そしてガントレットを付けていない腕を手のひらを上にしてビリーの前に差し出した。
おそらく飴玉かスターライトナイトのキーホルダーだろうとライトは思っていた。
ビリーは何も持たずに差し出されたライトの手を握りしめた。
「パイセン?何も持ってないじゃないっすか?」
ただ手を握っただけ。
ライトの頭に疑問符が浮かぶ。
ビリーはどこか緊張しているのか吸気モジュールから酸素を取り込んだ。
そしてライトに贈り物をあげた。
……?なんだ、この振動?」
ビリーの手から共鳴するかのようにライトに振動が贈られる。
早鐘を打つ心臓のような振動。
そして心安らぐような落ち着いた振動。
それらが何かの曲のようにライトの身体の中に流れ込んでくる。
3分も経たなかったかもしれない。
最後の振動が伝わるとビリーの手が離れた。
「どうだった?」
「どうって言われてもその、よくわからなくて
単調と言われてしまうような曲調だったかもしれない。
それでも懐かしさと優しさを感じるのは何故であろう?
この感情を上手く言葉にできず、ライトは戸惑う。
「そっか。実はこれラブソングなんだ。」
「は!?ラブソング!?」
「どんな曲調にすればいいのか、どんな歌詞がいいのかずっと悩んでいたんだ。」
ビリーは夕日に目を向ける。
「俺はさ、ライトと一緒に居る時が楽しくて、ドキドキして好きなんだ。だからその想いを伝えようと思った。そしたら楽しくてドキドキしている俺の音をお前に渡したら、それはラブソングじゃないかと思ってな。」
恋人と一緒に居る時に感じる音を届ける。
それは歌詞のないラブソングのようなものかもしれない。
「でもその反応だとこれはラブソングじゃないかもな。悪かった、次はちゃんと歌詞を
……てください。」
しょんぼりと垂れた黄色のアイライトが一瞬で驚きに代わり、恋人の方を見た。
「もう一回聴かせてください、パイセンのラブソング。」
「へ?」
ライトの顔が赤いのは夕日の光を浴びているだけではなかった。
「さっき聴いた時はどうしてこんなに嬉しいって気持ちになるのかわからなかった。パイセンの話を聞いてわかったんです。これは俺にくれたラブソングだから、パイセンの歌だから、嬉しいんだって。」
「ライト
「だから、ちゃんとラブソングってわかった上でもう一回聴きたいっす。」
ライトの手が鋼鉄の手を握る。
「何度だって聴かせてやるよ、だってこれはライトに贈るとびっきりのラブソングだからな!」
再びビリーはライトに歌詞のないラブソングを贈った。


「パイセン、アレ聴きたいです。」
月光が照らすベッドの上でライトはビリーにお願いをする。
ビリーは両手を伸ばし、ライトの両手を握る。
ライトはビリーのラブソングがお気に入りになっていた。
今日のデートだって、ルミナスクエアの人混みの中で聴きたいとおねだりをした。
ラブソングが聴こえるのはビリーに触れているライトだけ。
二人だけの秘密の歌はビリーとライト以外は聴くことができない。
そんな昼間のことを思い出しながら、ビリーはラブソングを贈った。
大好きな曲が終わると、名残惜しそうに二人の手が離れる。
「パイセン、俺のラブソングも聴いてくれます?」
「ライトの?」
「そうです、ほら。」
ライトはビリーの手をとり、スウェット越しに自分の心臓へと誘導する。
早鐘を打つ心臓。
「アンタと一緒に居て、ラブソングも聴けてドキドキしてるんすよ。」
感じます?
大好きな恋人の鼓動。
自分と一緒に居て、どれだけ幸せなのか?
それは歌詞のないラブソングでちゃんと伝わった。
「ライト、素敵なラブソングをありがとうな。」
ビリーはフェイスガードをライトの顔に近づけて、キスをする。
お互いに贈るラブソング。
これから愛し合う二人が贈りあう素敵なプレゼントだった。



歌詞のないラブソング。
機械人の愛する鼓動を聴くことができるのは恋人だけ。
チャンピオンの心臓の音を聴くことができるのは恋人だけ。
二人だけの歌詞のないラブソング。
貴方だけに贈ります。