しゃどやま
2025-05-20 19:28:01
1787文字
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【雨戴】Contact

雨竜くん眼鏡か……かわいいな……という雨戴

 僕と兄さんは、恋人関係にある。
 たぶん。
 きっと。
 いや、おそらく。
 そうモヤモヤした言い方になってしまうのは、僕たちがしていることが、兄弟なのか恋人なのか、わかっていないからだ。
 時々手を繋ぐ。これは、まちなかでも小さい兄弟姉妹がしているのを見かける。大人では珍しい……のか?
 たまに、ハグをする。兄さんのほうが僕をぎゅっと抱きしめる。ドラマでは家族でもよく見かける表現だ。これだけで恋人同士と判定するには、難しいのか?
 毎晩、おやすみのキスをする。頬に。これは兄さんから言い出したことだから当然のように受け入れていたが、兄弟というより赤ちゃん相手じゃないか? 僕は疑問に思っている。
 僕としてはもう少し、進んだことをしたい。その、未成年だから、もちろん規律を守ったことではあるんだけど、添い寝をしたり、デートをしたり……ふたりっきりでキス、したりなんか、したい。
 僕は風呂上がりに、眼鏡をかけて髪を乾かす。パジャマを着て自室に戻り、何故か周囲を伺った後、スマートフォンを取り出した。
 呼吸を整えて、検索フォームに単語を入力する。
 キス メガネ 外す
 質問サイトや、マナーのまとめサイト、恋人の意見のアンケートなどが一気に表示された。僕は慌てながら、真面目そうなサイトを探す。できれば教科書のようなサイトがあればいいんだけど、どれも「意見をまとめてみました!」みたいなものだった。渋々開いたサイトは「人による」との意見で結論。そんなの困るじゃないか。次に開いたサイトでは「本気のキスなら外したほうがいい」とも。本気のキスって、舌を入れるやつだよな……
 僕は考える。兄さんと、舌を入れるキスをする。僕の背中に兄さんがしがみつく。たぶん、そういうキスは気持ちいい。大好きな兄さんとだから、受け入れてもらった喜びもあると思う。こんな時に眼鏡がぶつかったら? きっと興ざめしてしまう。兄さんは「まだまだ少年ですね」みたいに僕を撫でるだろうが、そんなのはスマートじゃない。僕は、そういうキスのときは外そうと思った。

 僕の部屋の扉がノックされる。慌ててスマホを置き、僕は扉を開いた。
「雨竜くん。寝る支度はできていますか?」
 兄さんが、おやすみのキスのためにやってきていた。僕は背筋を伸ばして返事をする。
「はい!」
……どうしました? 元気がいいですね」
 兄さんは目を丸くする。僕は赤面しながら、首を左右に振った。
「なんでもありません!」
 やってしまった。スマートじゃない。こんな体たらくでは、兄さんをリードできない。僕は深呼吸をし、兄さんを見上げた。
「あの、ちょっとまってください」
 眼鏡を外し、パジャマの胸ポケットにしまう。改めて兄さんに、おずおずと抱きつく。ぎくしゃくした僕の動きに、兄さんは首を傾げた。
「雨竜くん?」
「準備できました」
 しまった。胸ポケットだと、兄さんを強く抱きしめたら打つかってしまうかもしれない。次は絶対、ズボンのポケットにしよう。僕は改善点を考えながら、兄さんに言う。
「おやすみのキスを……その、口で」
 兄さんは「おや」と驚くけれど、僕を拒まない。僕が見上げると、兄さんは顔を近づけた。僕は目を閉じる。兄さんの肌が近づく。シャンプーと混ざった兄さんの香り。僕は薄く唇を開いた。
 ふに。僕は思わず目を開けた。
 ――兄さんの人差し指が、僕の唇を押さえていた。
「ふふ。雨竜くん、それは大人になってからですよ」
 兄さんは愉快そうに笑う。僕が唖然としているのを見て、優しく頬にキスをした。僕は兄さんにしがみつきながら、顔を真赤にして反論する。
「ぼ、僕はもう社員ですよ? それに、口でのキスぐらい高校生もしてます! ドラマのCMでも……!」
「よそはよそ、高塔には高塔の掟。そのようにはしたない行為はいけませんよ?」
「何故ですかっ? 唇のキスがどうしてだめなんですか?」
 僕が早口で言うと、兄さんはうっと言葉に詰まる。そして、目を逸らした。目元を微かに赤くして、小声で言う。
……え、えっちなこと、だからです」
 兄さんの可愛さに、僕は負けた。
 石像のように硬直した僕を一度ぎゅうと抱きしめて、兄さんは「おやすみなさい」と去っていく。僕は扉を開けたまま、しばらく一人で佇んでいた。