隣のぬくもりが離れていったのに気づいて、ドゥリーヨダナの意識はぼんやりと浮上した。それでもまだまどろみの中で、まぶたは重くて開けられない。
夢うつつ、まぶたの向こう側が一瞬明るくなる。ベッドから出たビーマが霊基再臨したのだろう。きっと朝食当番のために白い霊衣を着ている。無造作に風になびく長い髪も好きだが、一つに括っている姿も格好いい。一目見たい誘惑に駆られる。
でもまだ目は開けない。
早朝、ドゥリーヨダナの部屋をビーマが出て行く、その間際。ギシッとベッドに腰掛けて。
「ドゥリーヨダナ」
そう囁く声が聞きたかったから。
いってきますも甘さもぬくもりも愛もないまぜになったその響き。聞くと、ドゥリーヨダナの背中はぶわりと神経が過敏になり、腹の奥がきゅーっとなって、じたばたと暴れ出したくなる。だから、寝たままビーマの腰にガシッとしがみついた。
「ドゥリーヨダナ……」
ちらりと薄目でビーマを見れば困ったような表情。なのに、名を呼ぶ甘い響きと甘やかすような息遣いがドゥリーヨダナの体を震わせる。
ビーマの手が素肌のドゥリーヨダナの背にそっと回された。あたたかく、しっとりしているその手が、ゆっくり、なだめるように撫でていく。待っていたぬくもりを得られて背中のぞわぞわは落ち着いたけれど、一方、腹はきゅうきゅうと切なくなるばかりだ。
上掛けの中で足をバタバタと動かし、次いで耐えるようにぐっと丸まる。ドゥリーヨダナだって、分かっているのだ。ビーマが食堂に行かねばならないことくらい。そのくらいの分別はある。皆の食事を作るのは重要な役割だ。そんな役割を与えられているビーマはよくやっている。快く送り出してやるべきだ。分かっている。
でも、引き留めてしまう。だって。
「ビーマぁ」
このどうしようもない体をビーマにどうにかしてほしくてたまらないのだ。
自分が出した声は、子供のように甘ったれていて、大人なりに甘ったるい。いってらっしゃいなんてまだ言いたくない。いよいよ抑えが効かなくて、ぎゅうぎゅっと腕の力を強める。
昨晩ビーマにさんざん煮込まれたせいでくたくたになった体なのだから、ビーマがシャキッといつもどおりに整えるのが道理だ。最後まで責任を持つべきだ。そういうわけで、ビーマを離すわけにはいかないのだ。
ドゥリーヨダナはそう心の中で講釈を垂れる。
「ふう……」
観念したようなため息。
「…………ドゥリーヨダナ」
その後、呼ばれた己の名。
さっきよりずっと濃くてうんと甘くてひたすら熱っぽい響き。これから食堂に行くからと抑えていた感情の蓋を取り払ったのだとわかる、思い切り欲にまみれた響き。ビリビリとドゥリーヨダナの体を震わせ、ジリジリとドゥリーヨダナの脳を灼く、恋人の呼び声。
ビーマがこちらに体を倒してくる。迎え入れるためにくるんと仰向けになれば、ビーマの手が上掛けを剥ぎ、ドゥリーヨダナの腹の上に置かれた。そこをぐっと押されてまた体が暴れそうになる。下半身がきゅうぅっとうずく。はあ……と重く切ない息が漏れる。
今すぐ全力で抱き着きたい。
でも目の前には端正な顔。愛する男が自分のことだけを考えている瞳は、掛け値なしに美しい。抱き着いたら見られなくなってしまうから、少しだけ我慢する。
自分だけが知る輝きをうっとりと見つめながら、ドゥリーヨダナは大人しく唇が合わさるのを待った。
※補足小ネタ!
・さすがに最後まではしなかったので、ビマはギリギリ食堂当番の時間に間に合いました。
・ビマは、「部屋を出る直前に甘えてくるヨダナが大好き」&「ヨダナの甘えに弱いのを自覚している」ので、かなり時間に余裕を持って朝の支度をするようにしています。
・ヨダナはビマに甘やかしてもらうのが大好き。
・ヨダナの甘えにビマが耐えられるかは五分五分。
・ヨダナは甘えたいから甘えてるだけで、ビマを困らせてやろうとは思ってません。ビマが勝手に負けてます。
・昨晩の名残を引きずってるヨダナはとても可愛いので、ビマは食堂当番が落ち着いた頃に1回抜けて、ヨダナに朝食を届けます。これには「そんな可愛い顔して部屋から出るんじゃねえぞ」の意が含まれています。
・ふたりはとてもラブラブです。
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