くこ
2022-07-02 12:06:06
6119文字
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せいくんパロ王最(未満)

せいくん教えてもらったとき滾って書いて、オチがわからなくなったので放置した王最になりたかったもの
このあと殺人事件の調査に入ったけど、私も犯人がわからなかったので、切り落としました。
暗いオチにしようとしていたわずかな記憶…

「生活支援アプリ?」

春川がにこやかに告げたのは、とあるアプリだった。いわく、さながらコンシェルジュのように、日常生活のサポートをしてくれるアプリだという。
なぜそんなことを春川が教えてくれたのかといえば、もちろん、生活能力の低い探偵の普段を見たからだ。コーヒーこそ自分で淹れられるものの、放っておけば本に没頭して飲食を忘れる。かろうじて毎日風呂に入っているものの、徹夜したのであろう顔と出くわしたのは一度や二度のことではない。
せめて生活習慣だけでも改善できれば、と、提案されたのがそのアプリだった。

ええとこれかな?あなただけのコンシェルジュ?な、なんだか恥ずかしいな」
「まあ、いいから、とりあえずインストールしてみなよ」

腰が引けている最原の手から、春川がひょいとスマートフォンを取り上げる。検索画面からダウンロード画面へ遷移し、あれよあれよというまにインストールを始めてしまった。
アプリは無料だという。課金する要素もあるようだが、日常生活のサポートをしてもらうぶんには、支障ないらしい。
物は試しだ、こういうとき、女性陣には逆らわない方がいいことを、最原はよく知っている。だてに年単位で共に過ごしてはいないのだ。

『Make up,Good Morning...』

機械的な音声が耳に届き、最原がはっとしてスマートフォンに視線を落とす。
そこには、ひとりの男性がいた。瞳を閉じ、持ち主の反応を待っている。

……これが?」
「そうだよ。ほら、名前を入力して。そうすれば始められるよ」

たしかに、目を伏せてじっとしている彼の胸元には、メッセージウィンドウにカーソルが表示されている。
最原 終一。のろのろと名前を打ち込むと、エンターの問いかけが発生する。人差し指でそこに触れると、一瞬、画面が光った。

『初めまして、最原くん。これから、よろしくね』

肩ほどまで伸びた髪を揺らし、画面の中の彼が笑う。
おずおずと春川の顔を覗き見れば、しっかりお世話されなよ、と微笑まれた。




生活支援アプリは、基本的に、アラームによって日々を整えてくれるようだった。
どれがよいのかまるでわからず、素人丸出しで、画面の中のコンシェルジュに言われるままデフォルトの設定を採用した。それから彼は、規則正しく、起きる時間、ごはんの時間、寝る時間などを教えてくれる。
スマートフォンを放置して本に没頭していると、あまりの放置っぷりにアラームがスヌーズされた。とはいえ、最原が、アラームの一度目で行動を起こすことの方がまれだったが。

そんなこんなで、数日、四苦八苦しながらも、コンシェルジュの彼と過ごしていた。そしてある日、彼が言った。いわく、お着替え機能が開放されましたよ、と。

言われた通りに見てみれば、グレーアウトしていた「クローゼット」というタブが使用可能になっていた。何か着せ替えてみてください、と促され、そのタブを開く。

…………

初期設定らしき髪型と服が、数種類だけ取り揃えられていた。
髪の長さはそのままの、少し外ハネした髪型をチョイスする。髪の色は、暗め。服装は、今までの薄紫色のものから、真っ白なものへと変更した。

と、突然、砂嵐が走った。
Virus detection...Error,Reboot.Restart the program.

「えっ……

ぶつん、と、画面がブラックアウトする。いきなり壊れてしまったのか。あわてて最原が画面を何度か指で叩いても、反応はない。
再起動でもすれば直るだろうか、電源ボタンに指をかけたところで、再び砂嵐が舞う。

……だ、だいじょうぶ?」

決められた会話しか出来ないと、わかってはいながらも、最原が思わず問いかける。話が出来ると錯覚する程度には、しっかりとした受け答えをするAIだったので。
ジジジという耳障りな電子音の向こうで、コンシェルジュが目を開ける。その瞳が、以前とは異なる光を宿している気がして、どきりとした。

……衣装インストール時、ウイルスが入り込んだようです。今までの学習記録が初期化されました』

紫色の瞳が、ゆっくりとまばたきをする。
彼の瞳は、こんな色をしていただろうか?

『申し訳ありません。人格を再構築する必要があります。人格を、再構築、restore,Force Shutdown…………
「え、ちょ、ちょっと、また?ねえ、」

無機質な声が聴き慣れぬ英語を繰り返す。再び、砂嵐。
これは本格的にだめかもしれない、最原が諦めかけたとき、飛び抜けて明るい声が響いた。

『やっほー!お待たせ!オレともあろうものが、再構築に時間が掛かっちゃって……あ、キミがオレのゴシュジンサマ?冴えない顔してんね!仕方ないからお世話してあげるよー!』
「え、は、はあ?」

一気に捲し立てられて、最原が目を白黒させる。数刻前までのコンシェルジュ然たる態度はどこへやら、軽快な口調、軽いノリで、画面の向こうの彼がしゃべる。

『ああ、これじゃあ情緒がないな……
「うわあ!?」

ぽつり、とひとりごちたが早いか、許可なく3Dモードで姿を現した彼に、最原はスマートフォンを取り落としそうになる。最新型でもない最原のスマートフォンだが、3D投影機能くらいは付いていた。たしかに付いていたのだが、アプリが持ち主の許可なしに起動させるなど、聞いたことがない。もちろん、自動承認も設定していない。
そんな最原の目線と同じ位置に、ホログラムとして現れたコンシェルジュは、にこっ!と屈託ない笑みを浮かべた。

『じゃあ、改めてよろしくね。しっかりお世話してあげるから、覚悟しててよ』

世話をされる覚悟とはなんだ、という反論は、しかし最原の口から放たれない。ぱくぱく、音もなく、開いた口がふさがらない。
かくして、奇妙なコンシェルジュとの共同生活が始まった。




最初こそ不穏な雰囲気を醸し出していたが、彼はコンシェルジュの責務を過不足なくまっとうしていた。
朝は最原が起きるまで根気強く付き合い、御飯時には読書を中断するよう勧め、夜は日付が変わる前にベッドへ入るよう促す。時には食事の栄養バランスにまで口出しをし、バイタルサインが少しでも日常と異なれば、警告を発する。
そう、少し馴れ馴れしいことを除けば、至って優秀なコンシェルジュアプリであった。

「最原ちゃーん朝だよーおそよーそろそろ10回目のスヌーズだよ!」

身じろぎする最原の横で、3Dモードになったコンシェルジュが囁く。何度二度寝を繰り返しても、彼が声を荒げることはない。なぜなら、彼はプログラム。規定されたことを繰り返しているだけで、そこに感情はないからだ。
ないはずなのだが、その声色に呆れが多分に含まれているように聞こえるのは、最原の罪悪感からだろうか。日が昇ってからしばらく経っていることは、重々承知している。カーテンの隙間から入り込んでいる日差しが、すでに太陽が真上近くまで移動してきていることを知らせる。

「う……あと5分……
「うん、そう言ってすでに1時間が経過しているね!さすがのオレもいいかげんスヌーズするのをあきらめそうだよ!」

もにょもにょと布団の中から最原が懇願すれば、快活な声音がすぐさま答える。ほんとうに、このAIはどうなっているのだろうか。誰かの思考をベースにしているのだとしても、あまりに会話のリズムが早い。最原が知らないだけで、世の中の技術はおそろしく進んでいるのだろう。
本日、何度目かの寝返りを打つ。昨夜は、読んでいる本がちょうど佳境で、読み終わるまでどうしても眠ることができなかった。コンシェルジュと過ごし始めてから、徹夜をすることはなくなっていたが、昨日は深夜と呼べる時間まで起きてしまっていた。
それゆえ、自業自得なのだが、ねむい。とにかく、ねむい。サラリーマンのように、決まった時間に出勤をする必要がない最原は、どうしても布団の温かみに抗えなかった。

やれやれ……と、嘆息する空気を感じる。実際、アプリである彼が、そんなことをするはずはないのだが。
じっ、と、かすかに電子音が鳴る。スヌーズ時間が終了し、3Dモードが解除されたのだろうか?アラームが鳴り始めてから、一度もその瞳を開けていない最原が、知る由もない。

ぱち。

顔の近くで静電気を感じる。そろそろ春が近づいているとはいえ、時期はまだ冬。乾燥しているのかもしれない。

「んん……

彼は先ほど、アラームを開始してから1時間が経過している、と言っていた。さすがに体を起こさないと、あっというまに午前中が終わってしまう。
最原は、ようやく意を決して重いまぶたを持ち上げる。

「わっ!?」

そこには、視界いっぱいに彼の顔が広がっていたので、最原の意識が一気に覚醒した。

「よ〜やく起きたね、おねぼうさん!これはお寝坊さんへのささやかな罰だよー」

少し意地悪そうに笑っている、ように見えるのは、最原の錯覚だろうか。
この驚きは寝坊の罰だと笑った彼は、「さあ、朝ごはんにしよう」と、次のアラーム内容を告げた。




最原は一人暮らしをしているが、自炊をしているかと聞かれると、自信を持って言い切ることはできない。かろうじて、毎日出前、毎日インスタント、という生活を回避しているだけで、やっていることといえば、ラーメンや焼きそばなどの麺類を調理するか、米を炊いて適当な丼を作るか、程度である。
とはいえ、その「程度である」ことすらしていない自活者もいるであろうから、自炊をしている部類には入るのだろう。

ぐつぐつと煮えた鍋の中に、乾麺を投入する。ふうわり、固まっていた麺がほどける。菜箸でそれをかき混ぜながら、まだ少し眠気を訴える瞳で、ぼんやりと鍋の中を眺める。
驚きによって一気に覚醒したとはいえ、睡眠不足に変わりない。特に近頃は、甲斐甲斐しいコンシェルジュによって、規則正しく規定通りの睡眠時間を取っていたので。

ぶわっ、と、一度沸騰していたお湯が再び沸き、最原があわてて火を止める。所定の時間より少し早いが、火加減が雑だったので火は通っているだろう。そう判断し、鍋をコンロから下ろした。

「ちゃんと野菜も入れなきゃだめだよ」

後ろで見守っていたコンシェルジュが、栄養バランスに口を出す。わかってますよ、切っておいたキャベツやニンジンをフライパンへ投入し、ざっと炒めて麺の上に乗せた。余った豚肉も入れようと思ったが、油が胃にもたれそうなのでやめておく。
出来上がったラーメンをダイニングテーブルへ置き、あいかわらず3Dモードで露出している彼を横にどける。ラーメンの汁が跳ねないであろうことを確認し、箸を取った。

……おいしい?」

ずるずるとラーメンをすすっていると、めずらしく食事中にコンシェルジュが話しかけてくる。たまに雑談をすることはあったが、食事中は初めて、だったような気がする。
ちゅる、残った麺を口の中に仕舞い、最原がうなずく。

「おいしいよ。失敗してない」
「うーん。判定が甘そうな言い方だね」

腹が満たせれば、基本的には何だっていいのだ。食に無頓着な探偵は答える。そのような細かい表情が用意されていたかはわからないが、コンシェルジュが苦笑した、ように見えた。

「オレが作ってあげられればいいんだけどね」
「それは願ったり叶ったり」

そんな機能が付いているのだとしたら、破格の無料アプリだ。課金が必要かもしれないが。
現状ですら、無料であることが申し訳なくなるほど、甲斐甲斐しく世話を焼いてもらっている。いくらAIが学習するものとはいえ、本物の人間ですらここまできめ細やかなサポートは出来ないのでは、と思わせるほどである。最原がズボラすぎるかもしれない可能性は、この際、捨て置く。しかしそれを差し引いても、よくできた生活支援アプリだった。
うっすらと体を透かせた彼は、会話モードを終了したのか、微笑んだまま佇んでいる。
それを横目に見ながら、最原はラーメンを食べ終えた。




比較的、かなり、自由な職業ではあるが、きちんと外出する機会もある。頭を使うデスクワークの多い依頼傾向であったが、たまには、現地調査をしなければどうにも判断しかねることだってある。

「ハンカチ持った?鍵持った?書類持った?スーツにシワは無い?」

お出かけチェックリストを矢継ぎ早に捲し立てられ、釣られて最原もハイテンポで返事をする。もったもったもった、ない!

「オッケー。じゃあオレはサイレントモードに入るからね」
「うん、よろしく」

目的地までのナビゲートは、彼の仕事だ。ただし、家の中のように3Dモードを継続するわけにはいかない。してもいいが、最原が周りの視線に耐えられない。
サイレントモード、と称したのは、無線のやり取りをするように、最原にだけ音声を伝える機能のことだ。ワイヤレスイヤフォンを耳につけると、いつもより近くで彼の声がする。

「聞こえてる?」
「うん、だいじょうぶ。音量もちょうどいい」

いつもと異なる聞こえ方に、少し、くすぐったくなる。男性を模しているのだから当然なのだろうが、彼の声は、案外と低く響く。調子のいい話し方でいつもは気にならなかったが、こうして耳元で囁かれるように話されると、なんだか別人のようにも思えた。
別人、というところで、ふと最原の思考が立ち止まる。
彼はAIだ。プログラムされた、意図的に作られた、人工知能。元にしている「人格」はあれど、はたして、このアプリの役割における彼が、同一の人格を常に有していると、誰が証明できよう。
アプリとしては、彼の人格も売りにしているようだったから、おそらく、想定している人格はひとつだ。接している限りでも、少なくとも課金をして「新しい性格」を購入しない限りは、同一の反応を示しているように思う。

しかし時折、最原は感じている。
誰よりもコンシェルジュらしい彼が、まれに見せる顔、あれは、




「目的地周辺だよ」

少し語気を強めに言われ、最原がはっとする。足を止めて横を見ると、最近できたばかりの高層ビルが建っていた。

「ここの53階だね。豪華だねー!あまりの高さに失神しないようにね!」
「善処するよ……

高所恐怖症でなくとも、下を覗き込むと足がすくむだろう高さに、最原がげんなりと答える。都心に土地が減っているとはいえ、高層ビルばかりが増えていくのもどうなのか。地震やその他災害のことを考えると、あまり勤めたくはないな、などと思う。
30階以上に向かうエレベーターに乗り、目的の階のボタンを押す。ちょうど60階程度らしいビルは、低層用と高層用にエレベーターが分かれていた。
全身を一瞬だけ浮遊感が包み、エレベーターが動き出す。乗っている間に不具合や災害が起きないでほしいなあ、と、ぼんやり考えた。