くこ
2017-06-26 12:33:54
2053文字
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チキレ天最

チキレ天海くんバージョンっぽいもの

王馬は扉の前で逡巡していた。
あわてて閉められた扉を見て駆け出した、天海の姿を捉えていた。逃げたのが最原かどうかまでは見ていないが、彼の隠れそうな場所を一通り見回ってきた王馬が見つけていないのだから、おそらくその影は最原のもので正しいだろう。
押し入って助太刀するかどうか、決めあぐねていた。
最原は、なんだかんだ、すべて自力で窮地を切り抜けている。可能な限り、王馬が関与することは避けたい気持ちもある。レースが始まって一番、王馬の目は真剣だった。
そこで突然、空気がぴりりと震えた。電流が走ったようなそれ。王馬はすぐさま扉を開けた。
はたして、そこには。



最原は用具入れに身を潜め、天海の独白を顔面蒼白になりながら聞いていた。
逃げるチャンスを、伺わなければ。少しの隙も見逃さなければ、まだ、勝機はある。希望は失われていない。
自身に言い聞かせる。震える手は見ないふりをする。ここで、震えを止めることができなくて、物音を立ててしまったりなどしたら。ぞっとする。
壁に指を這わせていて、たまたま謎の隙間を見つけていた。おそらく隠し扉のようなものが、ここにはある。どこに繋がっているかは判然としない。しかし、この場から脱出できる可能性がある、それだけで光明だ。
最原は、その大きな目に力を入れた。睫毛が揺れる。目の前の扉から視線を外すことは恐怖だったが、ゆっくりと後ろを振り向き、壁に両手を当てた。

…………っ!」

整った造形の顔がゆがむ。
起動しない。
たしかに違和感があり、何かの仕掛けがあることに間違いはないのに、壁はうんともすんとも言わなかった。
脳内のモノクマが嘲笑う。ずるはダメだよ!
最原は唇を噛んだ。痛む肩を掴む。時は刻々と迫っている。天海がそろそろ、扉を開けて中を確認するに違いない。そうなれば、おしまいだ。逃げ切る手立てがない。……否、ないことは、ない。背中にはナイフがある。だが。それを使うことが、はたして最原に出来るのか。
呼吸が早まる。動悸がする。落ち着け、落ち着け、考えろ、方法が必ずあるはずだ。
扉に背を向けたまま、自身の心臓に手を当てて、震える体を叱咤する。
と、そこで。
光が翳った。

ひゅ、と息を呑む。恐ろしくて振り向けない。だが、その影は、扉が開いたことを、示している。

「最原ちゃん!」

弾かれたように振り向いて駆け出す。背後に立っていた人間の顔も確かめず横をすり抜け、ようとした。
許されるわけがなかった。
長い腕が伸び、やすやすと最原の体を引き寄せる。彼は、優しい笑みをたたえていた。

「逃がさないっすよ」

耳元で低い声が囁く。相手が女子であれば、それだけで腰が砕けてしまいそうな、蠱惑的な声だった。最原の顔からさらに血の気が引く。
掴まれた腕を引き抜こうともがく。数ミリたりとも動かない。涙がせりあがってくる。掴まれていない方の手で背中をまさぐる。柄が指を掠めた、が。
瞬間、くるりと体を反転させられた。場所が違えば、まるでダンスを踊っているかのような軽やかさだった。
衝撃が襲う。しかしそれは最原に直接的な攻撃があったわけではなかった。最原を庇うようにしていた天海が、ゆっくりと顔を上げる。天海の視線の先に、王馬がいた。
ちっ、と王馬の舌打ちが響く。どうも王馬が何かしらの攻撃を天海に対して仕掛けたらしい。あんなに激昂している彼を見たのは、初めてだった。こわいこわいとは感じていたが、まるで比べ物にならない圧力だった。
最原の身が強ばるが、しかし、硬直している暇はない。天海に、拘束されている。

「っ!」

いちかばちかで、かんしゃく玉のスイッチを入れる。白煙が立ち込め、天海と王馬の目が見開かれる。
天海の手を、振りほどこうと試みる。動揺は誘えたはずだ、力が緩まっていてもおかしくない。
王馬が駆け出した気配がする。腕に重み。最原の体がよろめく。まさかと思うが、王馬が思いきり天海の腕に飛び蹴りをしていた。だが、どんなに体重を乗せても、王馬が見た目より力が強くても、絶対的な体重差は変わらない。
天海の腕の筋が浮かび上がる。靴に乗られているのに、その手をけして離すまいとする強い力が拒む。最原が痛みに顔をしかめた。王馬が気づき、またひとつ舌打ちをして、足を離す。天海の、長い腕を切り落としてやろうか、そんな物騒なことが王馬の頭をよぎった。
しかし、行動に移すことはなかった。その前に、処刑宣告が響いた。

『ぱんぱかぱーん!30秒経過しました!天海くんの勝利でーす!!いっやー、残念だったねぇ王馬くん!もー少し突入が早ければねぇさすがの総統も、完璧に思い通りとはいかないみたいだねー!』

視線だけで人が殺せそうなほど、忌々しさを込めて王馬が暴言を吐き捨てる。最原の、目の前で花嫁を拐われたかのように呆然とした顔が視界に入り、さらに苛立ちが募った。感情に任せてガンと扉を蹴り飛ばす。
しばらく、3人とも、そのままで居た。