ちよど
2025-05-19 14:29:27
2694文字
Public その他(Fate)
 

天の逆月

hollowのリリースが嬉しくて嬉しくて。昔書いたアンリくんとバゼットさんのお話を再録。ラストシーンのネタバレあります。

 一つの空白を残した聖杯。
 この無に生まれた日常の結晶の前に、最後の観客が立っている。
 聖杯の契約者。
 ──オレの、マスタ
 背を向けたままの彼女に、ゆっくりと近づいていく。
 が、バゼットはオレに気づいた様子もなく、カケラのひとつに見入ったままこちらを振り返ろうともしない。
 ──────耳まで真っ赤にして、一体何を見ているんだ?
 今更、目を引くような新しいカケラなんざ無いはずなんだがなぁ。
 いまいち盛り上がらない緊迫感に呆れながら、つつぃっと背後に忍び寄る。
 すげぇ、この人間凶器がオレの気配に気づきもしねぇ。
 面白いので、ひょいっとそのカケラを覗き込み、──────絶叫した。

「アンタ、一体ナニ見てんだぁっ!」

 うひゃあ、ワタシマッタクキヅイテマセンデシタと飛び上がったマスタが、
「あ、あのですね、アンリ。貴方が知らない女の子と一緒に登ってきたので、マスタとしてですね、ダレかな?とかどういった関係かな?とかいろいろと思いましてですね・・・」
 とか何とか言いながら、わたわたばたばたと無意味に手を振り回すが、そんなコト構っていられない。
「問答無用。えろマスタを斬刑に処す」
 その六銭無用に思えぇぇぇ~っ!と思わず出した歪な短剣を振り回すオレに、きゃあきゃあと逃げ惑うバゼット。
 いつもと逆の闘争劇が聖杯の下で繰り広げられる。
 まったく聖杯が壊れるより先にシリアスな雰囲気ってヤツが木っ端みじんデス。いくら気になったからってヒトの濡れ場シンを鑑賞すんなって。空気読めよ、13歳乙女め(号泣)
 しかし、いくら中身が思春期でも外側は鍛えに鍛えた体育会系。ぶっちゃけ、壊れかけのオレの方が先に体力尽きました。
 情けなくも、ぜぇぜぇと動けなくなったオレに、恐る恐る近づいてくる下手人B。
「・・・えっと、そのですね、」
「どうすんだよ、マスタ。俺達これから超シリアスなハナシをしなけりゃならないんだぜ」
 俺は続けるためにこの恋い焦がれた日常を壊すために、アンタは生き続けるために願いを叶える聖杯を守るために。敵味方に分れて相対するってシンで、なんでなんで実写のエロビに見入ってんだよ。ホントに。もう消えてしまいたい。ウヒヒヒヒヒィ。
 穴があったら入る。ていうかあの聖杯の空白にいっそ飛び込んでやろうかと錯乱寸前のオレにマスタさまはご提案なさいました。
「・・・・・・後日、仕切り直しというのは?」
「オレに、もいっかい、あの階段登れって?」
 沈黙。
 よかったホントによかった。手加減なしで下に蹴り戻されて強制的にリセットとかされなくて、本当によかった。・・・そういうコトやりかねないんだよ、このマスタは。
 さらに、リセットの理由をあのやさぐれシスタに知られた日には、ポルカミゼリアと犬畜生を見るような目で蔑まれること請け合い。ああ、このろくに見えない目にもありありと浮かぶよその様が。ワンワン。
 ――――それだけは全力で回避せねばならぬ。
 ロックスタと言われた手前、流星のごとく墜落したらカッコつかねぇ。
 なので、復讐のサヴァント・アヴェンジャは慎ましく折衷案を提出してみた。
「3を数えて、やり直しっていうのはどうだい?」
「分かりました。そうしましょう、アンリ。」
 はやっ、シクタイムゼロコンマ。即答しやがりましたよ。このマスタ
「では、始めます。いち」
 間髪入れずにカウント開始。マスタの真っ赤になったままの表情を堪能する暇もなく、わたわたと元の位置に駆け戻る。
「にぃ」
 らしくない間延びした数の取り方に込み上げる笑いを深呼吸。
「さ・・・」
 だからなんでそこで目が合っただけで口ごもる。この乙女が。気恥ずかしいのはこっちも同じだっつの。
――――もういい。」
「もういいとは何ですか、アベンジャ。私はっ!」
 がたがた言うマスタをひっつかむ。
「いいからっ! 感極まったオレに頭からボリボリ食われないうちに、黙って現世に還りやがれ、コンチクショウ!」
 無力化したままのバゼットをこの虚無の入り口にぎゅぎゅと押し込んだ。
 さて、順番が多少違ったが、聖杯を毀すとしよう。
 夢の終わりは――――――この、結末。
 空白を満たした聖杯があっさりと崩れ始める。
 その砕けたカケラを、見えない目で追いかけた。
 それは、半年付き合ってもまだこちらの思いもしない事をしでかしてくれる、愛しいニンゲンの。
 ・・・・・・アンリのばかっ!とか叫んでいる声は聞こえない。ばかばかばかだけんっとわめく声とも、永久の別れ。――――なんだからさ、最後ぐらいシリアスに決めさせてくれ、バゼット!
「だぁぁぁぁあぁ! 早漏って、意味分かってんのか、アンタ!」
 きゅぽんっ
 耐え切れず叫んだ瞬間、なんか妙な音がしたような・・・。
 ほら、アレだ。シャンパンの封を切る時に、こういう音、する、よな? コルクが抜けた時に・・・。
 恐る恐る振り返る。
 途端、宙に浮く体。
「分かってます。分かってますから、アンリ。私は何でも貴方の考える事ぐらいお見通しなんですからっ」
 分かってると言いながら、意味不明の猪突猛進。オレを抱えてUターン闇の中の光を目指して重機関車のごとく疾走するのは、我らがマスタ、バゼット・フラガ・マクレミッツ。
 自らのサヴァントを略奪の花嫁ばりに抱え上げ、きらきらと輝く乙女のおめめで宣言する。
「大丈夫ですっ、ひとりになんかしませんからっ!」
 それは、一緒に地獄へ落ちようという一世一代の愛の告白・・・じゃなくって、
「ばかマスタっ! そっちはアンタ専用の入り口だっ!」
「・・・えっ?」
 時すでに遅し。車は急に止れません。人間凶器もまたしかり。
 勢いのままオレ達は光の向こうに転がり落ちて行った――――――




 ―――――――そうして、古びた洋館にも朝は来る。
 柔らかな日差しのなか、不法侵入の少年少女を窓から見下ろす影はふたつ。
 そう、せっかちなマスタと季節外れのサヴァントが途方にくれているのであった。
「・・・どうするんだよ、バゼット」
――――――とりあえず、生き別れの双子の弟ということに」
「そういう意味じゃねぇぇぇぇぇっ!」
 見覚えがある二人がここに到達するまで、あと数分。この不器用一直線13歳乙女なマスタとのつきあいが、あとどのくらいになるのかは―――――まったくもって不明である。
 
 


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