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Hari0520001
2025-05-19 01:31:32
9168文字
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今日だけ僕は①
女装×パーティ潜入
変態親父の巣窟に潜入してしまった🐈🦌がどうやって脱出するのか?🦌ちゃんの膀胱はどうなってしまうのか?
🦌ちゃんのおしっこの行方は……
床に転がされたよく知る男を前にして、静観などしていられなかった。
自分自身でも驚いた。こんな風に体が動いてしまうなんて。
「ハスカー
……
!」
名を呼んで駆け寄ろうとした時、頭がふわふわと浮いたような感覚とともに足がもつれて、勢いよく床に崩れ落ちてしまった。
強い酒をたらふく飲んだ時のような酩酊感に、身体がついて行かない。酒は全くと言っていいほど飲んでいないはずで、これは明らかに、何か盛られたに違いない。
床に伏せっていたところを、後ろから来た小太りの男に仰向けに転がされると、急な体位の転換に吐き気がした。
「いやぁ、まさかあのラジオスターと持て囃されるアラスター氏が、こんな格好でパーティにご出席されるとは誰も思わないでしょうなあ」
この男、はなから僕の素性に気付いていた
———
わかっていてこの部屋に招きいれたのであれば、罠に堂々とかかったことになる。
予想していなかったわけではないが、無性に腹が立つ。
顎を強く掴まれ、無理やり顔を真正面に向けさせると、身の毛もよだつような下卑た笑みを浮かべているのが見えた。
「あのラジオスターが女装して参加したパーティでマニアックなプレイに及んでいるなんて、明日の朝刊の一面は派手に彩られるってものですよ
———
私は結構激しいのが好みでしてね」
「は」
逆の手が腹に圧をかける。
意識が朦朧とする中、膀胱が思いきり刺激されて、危うくとんでもない醜態を晒しそうになるのを必死で堪えた。
「な、やめ
……
」
「我慢しなくてもいいんですよ、ぶちまけちゃってもらっても構いません!うちの掃除屋は優秀なのでね」
最低最悪の提案。誰が漏らすか!
「いつまで我慢できるか、じっくり楽しみたいところですが、私はこの後少し用事がありまして
……
一度失礼しますので、戻るまでせいぜい頑張ってください」
圧をかけていた掌が、やんわりと下腹部を撫でて離れていく。
揺らぐ視界の端で、男たちが部屋を出ていくのを確認する。
音を立てて鍵がかけられるのを見るに、外鍵と内鍵がそれぞれあって、脱出は簡単ではないらしかった。
「はあ
……
おしっこしたい」
煌々と輝くシャンデリアを眺めながら、脱出方法よりも膀胱の心配をするのが何とも屈辱的だ。
———
なぜこんなことになってしまったのか、時は二週間前までさかのぼる
———
。
01
「それ、誰かに贈るのか」
胸の前に大事そうに抱えたドレスを眺めて、その男は言った。
僕が贈り物なんて、ましてや女性にするなんて滅多にないことを知っているのに、あまりに珍しい行動を見て何か勘違いをしているのである。
「まさか次の
———
」
「そんなわけないだろう?結構いい値段するんだよ、これ」
肩回りの生地を両手で摘まみ上げて、ひらひらと広げて見せる。
だが確かに、このシャンパンゴールドのドレスが血まみれになるのを思い浮かべると、案外、悪くはないものだ。
しかしこれは自らの懐を多少痛めた大事な、いわば武器と言っても過言ではない代物である。
「ハスカー、君、今月の末の晩は空いているかい?」
近くに置かれた椅子の背に、そっとドレスを掛けながら問う。
突然話の繋がらない問いを投げられ、ポカンとした顔をしている我が愛しのペットだったが、中途半端に間を開けて「なんもねえ」とぶっきらぼうに返事が返ってきた。
「なら決まりだ。ハスク、君はその日の晩、僕とパーティに参加する。もちろん、君の衣装は僕が用意するから心配しなくていい」
「なんだそれ、何も見えてこねえぞ」
当たり前である。
最初っからすべてを包み隠さず伝えてしまったら面白味もないし、何より逃げられそうだから言わないのだ。
「君が逃げないと約束してくれるなら問題ない。そうだなあ、小切手を切ってもいいし、改めて契約書を用意しようか」
「おいおいそこまでする時点で、だいぶ怪しいお誘いじゃねえのか?」
「おや!ちゃんと危機感を持ってるの、偉いねえ、おりこうさんだ」
「とぼけるな、後処理ならやらねえぞ」
顔の前で、まるで煙草の煙をあしらうように手をひらひらと振って見せる。
「
……
今回はそういう仕事じゃあないよ、残念ながらね」
テーブルの上に雑においていたニュースペーパーや書類の束の中から、封筒を探してハスクの顔の前に差し出した。
厚みがあっていかにも高級そうなそれには、パーティの招待状が入っている。
「何のパーティだ」
「新聞社主催のパーティだよ。同業者や近隣の企業との間にコネクションを設けよう、ってね」
招待状に続けて、ニュースペペーパーを広げて見せる。
「ここ、あまり見ない新聞社だろう?
———
ああ、君は新聞とか読まないっけ」
「お前ほど読んじゃいねえが、まったく読まないわけでもねえぞ」
「はいはい」
むくれた顔をしたので、つい開いた手で頭を撫でてしまう。
撫でられた本人はむすっとしたままで頭の手を払いのけていた。想像通りの反応で可愛らしい。
「でね、そんなに前から存在している会社じゃない。他から比べたら起こしたばかりの会社だっていうのに、ずいぶん経営上手で業績が右肩上がりなんだ」
「それが?」
どこにだって天才はいるものだ。資金繰りから販路拡大、流行の最先端を常に追いかけ、買い手の欲しいものを作り上げることさえできれば、業績を上げることはできるだろう。
とは言え、やっていることがずいぶん派手である。つまり。
「裏では噂が絶えなくてね
———
今回だって業績を上げてるからってずいぶん派手にパーティを催すものだから、怪しいってうちの局でも話題になって」
話しながら、椅子の上に置いていた箱のふたを開ける。中には、ドレスに合わせて用意した淡いゴールドのパンプスが入っている。
ヒールはほんのささやかな高さだ。音を立てないように床に置くと、素足になった爪先を奥まで滑らせた。
両足をパンプスで飾ったところで、様々な角度から足に合っているかを確認する。
かかとを上げたり、爪先を軽くとんとんと床に叩いてみたり
———
ちらりと盗み見たハスクの顔は、口をあんぐり開けたまま固まっていた。
問題なさそうだと確信し、腰に手を当てて真正面に向き直る。
「取材に取材を重ねた結果、どうやら政治家と裏で繋がってるというリークを得たわけ
……
まあ、ティーポット・ドーム・スキャンダルとまではいかないだろうけど」
「ティーポット
……
?」
「まさかご存じでない?もうちょっとお勉強した方が良いよ、ハスカー」
「知らないわけじゃねえ、内容が頭に入ってないだけだ
———
金が絡んで騒いでたのは知ってる」
「はいはい。君ってテーブルゲームでの計算とか早いし、そういうのも得意そうなんだけど、なんていうかこう
……
株とか興味ないの」
「株は失うもんが大きすぎるんだ」
「テーブルゲームで失ったものもずいぶん大きくて僕から借りてるのも山ほどあるはずだが」
ばつが悪そうな顔をして、また固まった。ハスクが僕から金を借りているのも事実だし、賭けをして負債をじわじわと増やしているのも事実である。
「まあそれはさておき
……
上場していない新聞社があんなに利益を得ているのかって話なんだけど」
「またそんなめんどくさい話か」
「めんどくさくない、面白い話」
パンプスから足を抜くと、ドレスを掛けたままの椅子に座る。
「まあ、簡単なことさ。他の企業や政治家から得た情報を別な政治家に横流しして金をもらってるわけだ」
「そんなにうまく行くか?いくら何でも誰か気付きそうなもんだが」
「双方向に矢印が出てたらどう?お互いに、お互いが有利な情報を交換する
———
新聞社を媒介にしてね」
「つまり、直接関わることはないが、企業も政治家もみんなグルになって稼いでるってことか?」
「そう!仮にどこかで突っ込みが入ったとしても、自分たちは取材で聞かれたことにちょっと答えただけだと言い張れる。たまたま新聞社にすっぱ抜かれたことにしちゃえば自分が口にしたことにもならないだろ?」
「それでいったら新聞社も”誰から聞いた”かを言わなければ、ずっと美味しい思いができるってか」
政治家同士が表立って会うとなれば公務となる。企業の幹部と密会となれば献金や汚職を疑われる。どれを取っても自身の立場が危うくなるのだから、中間に立つ人間を用意すればいい。中間に立つ人間が利益なしにそんな危ない橋を渡るわけがないだから、当然何かが優遇されたり利権や金を与えられているに違いない。
新聞社は新聞社で、紙面に書く情報はある程度操作できる。つまり、”政治家や企業幹部に有利な書き方をすること”ができる。あまり派手にやってしまうとそれこそ周囲から怪しまれるのでそこは書く人間の腕が試されるところであろう。株価が操作できそうな記事を書いたりすれば企業が儲けることもできるし、その分謝礼とばかりに新聞社が融資を得ることも可能になる。
件の新聞社が急激に業績と利益を上げたのは、情報の流れを操作して融資を得たことによるものだと睨んでいるわけだ。
「まあ噂はそれだけじゃないんだけど、ね」
「
———
話はなんとなく分かったんだが」
口元を隠して話すハスクが、首を傾げて眼を細める。これは、彼が戸惑っているときによくする顔だ。
「なんでお前がそんな服を用意する必要が?」
一番突っ込まれたくないところを突っ込んできた。
そう、なぜ僕が女性もののドレスとパンプスを用意しているのか。察してほしい。何なら何も言わずに「一緒に行けばいいんだろ?」と口にしてほしかった。
いつもならそんなふうに、軽いノリでのこのこと後ろをついてくるのに、今回だけは異様すぎてそうもいかなかったらしい。
「話すと長いんだけどね!なんでか知らないけど僕がこれを着て!パーティに行かなきゃならなくなったの!おかしいだろ!僕が!なんで!女装!」
いつも以上に早口でまくし立てるように、自分でも不満であることを思い切り聞かせてやる。
「いや
……
うん、まあ、一番適任なんじゃないか、あのメンツなら」
ハスクは局の人間に会ったことがある。頭の中で顔を想像したのか、遠いまなざしをどこか空中に向け、顎に手をやってうんうん頷いた。
「頷くな!僕だって最初はミムジーを連れて行くつもりだったんだ!最初は行く気満々だったのに、主催の名前を見て急に『用事があるのを思い出しちゃった』って言ってそそくさ逃げてった!」
早口に磨きがかかる。まるで何か、競馬の実況でもしているような気分だ。
「アイツが逃げるならよっぽどじゃねえか
……
そんなところに行くのかよ」
「局の、僕のところのチームはみんな行くことになってるけど人数が五人だし、僕が女性をエスコートなんてしてしまったらとんでもない事件になりそうだから知り合いといけないなら女装するしかないと言われたんだ、酷くないか、紅一点のケイシーには『アラスターと一緒に行ったら動けなくなりそう』と断られた
……
!」
「すべてが正論過ぎて頷くしかできないが」
「それならせめてティムが僕と一緒に行ってくれればいいのにと言ったら今度は『自分より背の大きい女性と歩くのはちょっと』って言われたんだぞ、君が背が低いのは知っているとも、こんな時にそんなよくわかんないこだわりで僕をのけ者にするなよ!仕事だぞ我慢しろよ!」
さすがにここまで早口で一息もつかずに話していたら息が切れる。大きく息を吸うと、長く長く吐いて呼吸を整えた。
「珍しく取り乱してるな
———
で、俺が適任だと?」
「僕よりでかい、僕のことをよくわかってる、トラブルに慣れてる、何かあっても困らない人間
———
ああ、死なれちゃ僕が困るけど」
指折り数えてハスクの前にその指を突き出すと「俺だって死ぬのは御免だぞ」と不服そうに言ったものの、どこか嬉しそうにしていた。
何がキーになってそんな顔をしているのか。
「まあ確かに、俺が隣に立ってりゃ多少華奢に見えるもんな、お前も。背は
……
ちょっとでけえが、まあ、たまにいるよなでけえ女も」
「パンプスはできるだけフラットなものを選んだから、君よりでかくなることはない」
腕を組み直し、僕の頭のてっぺんからつま先まで、舐めるようにじろじろと眺めていたと思えば、また口元を隠した。これは単純に、にやけているのを隠している。
「なあ
……
ちょっと着てみろよそれ」
言われるような気はしていたが、見事予感は的中した。当日まで楽しみに待っていてくれるなんてことはないようだ。
「言っておくけど汚せないんだからね?」
「あ?」
「ん?」
お互い首を傾げる。何か食い違いが発生しているのは分かるが、何が
———
。
「期待したか?その格好でするって?」
ハスクのにやついた顔が腹立たしい。
「な、だっていつもだったら君そういう方に全部持ってくじゃない!誰が期待なんかするか!殴るぞ!」
「いやあ、それはそれでいいんだけどなあ、汚せねえことくらい俺でもわかるんだよなあ」
「わざとらしい!一週間飯抜きにしてやる」
「一週間分の飯くらい自分でどうにかできるっての」
それはそうだ。この男、たしかに金はないが誰かの懐に潜り込むのは天才的と言える。
僕が面倒見るようになるまでは、いろんな女のところで寝泊まりしていたし、性欲もそこで発散していたはずだ。
だからこそ初めの頃は変な病気を持ってないかどうかも確認したものだが
……
そういうところはちゃんとしていたらしい。自分の身体がそんな病気にかかりでもしたら、当然女の家に転がり込むなんてこともしづらくなるからだ。そこはちゃんとわかったうえで女も選んでいたのだろう。
まあそれは置いておいて
———
。
「実はまだ着たことないんだよね」
「合わなかったらどうすんだよ、早く着ろ」
「わかったってば」
おもむろに立ち上がると、スラックスから手に掛ける。ボタンを外して臀部の下までぐっと引き下げると、あとは重力に従って床に落ちていく。
シャツのボタンを上から順に外しながら、床にくしゃくしゃになっているスラックスから足を引き抜いていると、静かに椅子を引いて座り込んだハスクの真剣なまなざしがあちこち刺さってきた。
「見過ぎじゃない?」
「ストリップショー見てる気分だなと」
「服を脱ぐのなんていつも見てるでしょ」
言ってみたものの、思い返すと意外と目の前で服を脱ぐという動作はあまりしたことがなかったかもしれないことに気付く。
すでにほぼ裸の状態か、逆に裸から服を着ることはままあるのだが、こうして目の前でじっくり見つめられたことはない。
———
意識したらちょっとこっ恥ずかしくなってきた。
「まじまじと見ないでくれる?楽しいもんでもないでしょ」
「いや、楽しい。少なくとも、この間見てきたショーよりは、断然」
ハスクが見てきたショーと言うのはおそらく、ストリップとかSMとか、ちょっとアブノーマルなことをするショーのことであろう。
酒場でよく話している仲間から誘われて、暇つぶしにと足を運んだらしいが、帰ってきた本人に聞いても「暇つぶしにはなった」と言うだけで、また行きたいという雰囲気ではなかった。
その割に、翌朝いい歳をして下着を洗っていたのを目撃したのだが、どうやらショーは切っ掛けでしかなく、何か他の夢を見てそうなったと後から聞いた。
夢の内容は教えてくれなかったが相当いい思いをしたようである。
「変態め」
話をしながらも手は順調に進んでいき、シャツガーターから、残ったソックスガーターから何からすべてを外してその辺に放り投げていった。
下着だけになったところで、椅子の背に掛けていたドレスを改めて手に取ると、足から順にくぐらせた。
滑りの良い布地を肩まで上げたところで、ずっと眺めていただけのハスクが立ちあがって口を開く。
「後ろ、止めてやるからそっち向いてろ」
少しばかり驚いたが、何も不思議ではない。こうして女の心を掴んできたのだ、この男は。
「こうやって女性を、ね
……
なるほどねえ」
「これくらい普通にやるだろ」
「言われたらやると思うよ?自分から進んでやるところがなんとも」
大きな手が慣れた手つきで小さなホックを止めていき、仕上げにうなじにキスまで落とされた。
「君、そんなことも普通に誰にでもするのか?」
「ん、まあ、喜ぶ奴にはしてたかもな」
「僕は喜ばないんだけど」
「そら失礼した
……
てっきりキスが好きなんだと思ってたが」
「どうやら殴るだけでは足りなさそうだな、そのおつむは」
後ろにいるハスクの顔を見やると、本当にきょとんとしていた。
———
なんだその顔、つまり何か、僕がキスが好きってのは普段の行動から何か感じ取ってるってことなのか?
「キスするといつも
———
」
「言わなくていい、というか、そんなことないから、断じて」
むきになってしまうとまるで肯定してるみたいだ。考えたくもない。
自分からするキスはスキンシップの一環で、子供相手にするような、愛情の現れと思ってしているのであって。
彼がするのはそういうものじゃない。独占欲からくるもので、自分だけが許されていることに浮ついて、行為中数えきれないほどキスをする。
それはもう唇のみならず体中いたるところ。跡も山ほどつけるので、一度𠮟りつけたことがあるが、結局癖は治らなかった。
そう、癖。癖だと思っていた。
たしかにハスクからのキスが欲に塗れたもので、それが自分に向けられていて、必死なのを見るのは楽しい。
楽しいのだが、それを”好きで喜んでいるのだ”と捉えられているなんて、喜ばせようとしてキスしているなんて、思いもよらなかった。
「まあいいが
———
やっぱあの、あれだな、肩幅ごつい女だな
……
」
「分かり切ったことだろ?当日はショール羽織って肩隠すから、まあ、何とか」
「靴は」
「さっき履いたろ」
「いいから」
避けていたパンプスを屈んで足元まで持ってきたと思えば、手を自身の肩に置くよう促す。
「足上げろ」
「なんなの、なんか変だよ」
両足にパンプスを己の手で履かせると、立ち上がって僕の手を取った。
「歩けんのか」
「言っておくけど僕ピンヒールでも歩けるからね」
事実である。なんでそんなことしたことあるのかはさておき、ピンヒールは履いて歩いたことがあるので、こんな低いヒールで歩けないなんてことはない。
「エスコートいらねえじゃねえか」
これまた不服そうな顔をしている。よろける僕を想像して、身体を支えるのを期待していたのだろうか。それは一体どこに利点があるのだろう。
「エスコートはいるよ、悪い虫が寄ってこないようにしてもらわないと」
握られたハスクの手から、流れるように二の腕まで指先を滑らせ、しっかり掴む。
「さすがにこんなごつい女に寄ってくる馬鹿はいないと思っているけれどね」
一歩進んで懐に入り、ハスクの腰に手を添える。まるでダンスでも始めるような仕草で。
ハスクも雰囲気に呑まれて背中に腕を回す。
「こんなことされたら誰だってその気になるぞ
……
やるなよ、絶対に」
「君くらいだよ、こんなことして遊べるのは」
「汚すなっつったくせに、くそったれ」
「君のその苦虫を嚙み潰したような顔が面白いから、つい、ね?」
身体を離すと、少しばかり名残惜しそうにハスクの手が泳いだ。
「さて、満足しただろ?感想も聞いた事だし、脱がせてほしいんだけど」
背中を見せて、ホックを後ろ手で指差す。
「ベッドで脱がしてもいいのか?」
一呼吸置いて、首だけ使ってちらりと後ろを見る。
「ドレスを綺麗に保てるなら」
言った途端、後ろから腕が伸び、両足も抱きかかえられて身体が宙に浮いた。
横抱きにされた状態でリビングを後にする。
「君ってやっぱり、ちょっと普通から外れたのが好みなの?」
半ばあきれ顔で運ばれながら、ハスクに問いかける。本人はちら、とこちらを見て鼻で笑った。
「別に、普段から好んでるわけじゃない。むしろこんなこと今までしたことないしな。ただお前がやったら
———
興奮した」
「新しい扉を開きかけてるじゃない、やっぱり変態の類だったか
……
」
「うるせえな」
他愛もない会話をしているうちに、気付けばベッドルームに着いている。器用に肘でドアを開けると、明かりをつけることもなくまっすぐベッドに向かう。
身体がゆっくりベッドに降ろされるのと同時に、履いていたパンプスも脱がされ、綺麗に床に並べられていった。
足をベッドに上げたところで、ハスクが向かい合うようにベッドに腰かけ、背中を見ることなくホックを外していく。
ハスクの手は淀みなく動いて
———
ホックが外れるたびに身体を包んでいた布地が緩く広がった。
「ふふ、手品してる時みたいだね」
「似たようなもんだからな」
「女性の服を脱がすのがかい?」
「ん、まあ、そうだな」
ドレスをかろうじて胸の前に引き留めている肩の布を、指の背でそっと払うと、はらりと二の腕まで落ちた。
二の腕まで落ちた布に引っ張られて、ドレスが腹までずり下がる。女性ならば、ここでたわわな果実が見えて興奮するところだろうが、残念ながら僕は男だ。
見えたってなんの面白味もない。はずなのだが。
「はは
……
やべ
……
」
「どこに興奮する要素があったのか教えてほしいんだけど」
「
……
全部」
先ほどまでゆったりした空気が流れていたというのに、一気に空気が変わる。
ドレスはさっさと脱がされるし、押し倒されるし、体中あちこち吸われるし、とんでもないスピードでことが進んでいく。
脱がしたドレスはどこに置いたんだとか、しわにならないように置いたのかとか、最初の内は気になって仕方なかったが、実物を見ることもかなわず、いつの間にか視界はハスクの余裕のない顔と天井がちらちら見えるだけ。
次第に思考もままならなくなり
———
次に意識がはっきりした時には、すべてが終わってベッドに裸で横たわっていた。
ドレスはいつからか、ハンガーにかけられていたようで安堵する。
横に寝ている大きい猫みたいな男はというと、すっかり寝息を立てて寝ていて、ちょっとやそっとじゃ起きそうにもない。
「ほんとに物好きなんだから
……
あ!」
時計を見る。朝方四時。今日は例のパーティのために準備せねばならないものがあるから、仕事は休むことにしているのだが。
「あのままハスクの今日の予定を聞くつもりが、すっかり忘れちゃったじゃない」
後頭部の跳ねた毛を指先でくるくる捕まえて遊びながら、のんびり明るくなるのを待った。
***To be continued***
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