めまめ
2025-05-18 21:34:00
1744文字
Public 鋼徹ワンドロワンライ
 

第一回 鋼徹ワンドロワンライ

お題「出会い」「白米」

 赤いところがなくなるまで焼いたカルビをじっくり味わいながら、荒船はすかさず白いご飯をかきこんだ。肉とタレ、そして米という育ち盛りには最高のコンビネーションを堪能する。向かいに座る村上もまた網から肉を取り、どんぶりのようなサイズの茶碗を持ち上げた。ひと口、二口と村上の大きな口に米が吸い込まれていく。村上はけっきょく、一枚の肉で白飯を三口食べていた。
「おまえ、うまそうに食うようなあ」
 時間差で焼いていた肉をひっくり返しながら、荒船は言った。口の中のカルビはもう無くなっているだろうに四口目の白飯を食べようとしていた村上は、目を丸くしたあと、どこか照れたように箸を置いた。
「そ、そうか? オレ、白いごはんが好きだから、そう見えるのかもしれない」
「そうだよな。俺たちが初めて会ったときも、白飯をおかずにメシ食ってたくらいだもんな」
 からかうように口角を上げると、村上がぶんぶんと首を横に振った。
「あれは朝バタバタしてて、太一のおかずとご飯の弁当箱が入れ替わってたからで、たまたま……!」
「わかってるって。冗談だよ」
 食べごろになったカルビを村上の皿に取り分けてやる。村上はからかわれたせいで唇を尖らせていたが、肉と白飯を頬張るとニコニコと顔をほころばせた。 

 村上と出会ったときの記憶は、荒船の中で『白いご飯』と結びついている。
 その日、珍しく上機嫌な影浦に「おもしれーやつがいる」と連れて行かれた食堂に、糊がきいた学ランを着て、二人がけのテーブルで独り静かに食事をとる村上がいた。
 口数が少ない村上をよく観察していると、食べかけの弁当箱には二つとも米が詰まっていた。片方にはふりかけがかかっていて、それをおかずにしてもう片方の白飯を食べているようだった。面白い奴だなと正直思った。だから荒船は、影浦も彼のこういうユニークなところを気に入ったのかもしれない、と一瞬納得しかけたくらいだ。
 影浦にあとで尋ねたら、「そんなわけねぇだろ!」と呆れられ、交流を持つようになった村上に弁当の件を質問したら「米が好きなのは間違いないんだが、あれは別役ってやつの弁当と間違えて……」と焦ったように経緯を説明されたのだった。

「荒船? もう食べないのか?」
「いや。食う」
 網の上で焦げかけていたカルビがサッと消える。代わりに、荒船の皿にはちょうどいい具合に焼けた肉が置かれた。さっき荒船が焼いて村上に渡した肉と、自分が食べるつもりで焦がしてしまった肉を交換されてしまった。
 荒船がカルビを口に運ぶのを確認してから、村上は次の肉を網にのせた。
「ご飯、おかわりしようかな。荒船は?」
「米はもうやめとく」
「そっか。じゃあオレのぶんだけ頼むよ」
 村上は店員を呼び、注文を終えると、「そういえば、一昨日カゲが……」と喋りはじめる。小さく身振り手振りを交えて楽しそうに話す姿を、ずいぶん明るくなったよな、と荒船は目を細めつつ見つめた。ボーダーの食堂で、どこか暗い目で弁当をつついていた人間と同一人物とは思えなかった。
 それに、村上とこんなに親しくなるなんて想像もしていなかった。弧月の使いかたを教えたり、学校が終わってから遊んだり、互いの家に泊まったりするようになるとは。
「ライス、お待たせしましたー」
 溌剌とした店員がやってきて、からになった皿を下げ、ライスを置いていく。
「サイズどれにしたんだ?」
「とりあえず『中』にした。足りなかったらまた注文するよ」 
 新しく網にのせたハラミはまだ焼けていないのに、村上は到着したばかりのご飯をひと口食べていた。
「鋼、あんま食べすぎんなよ」
 荒船はテーブルの下で、村上のスニーカーをこつんと蹴った。 
「なんで?」
「あとでデザート食うんだろ。腹八分目くらいにしとけ」
 村上が首をかしげた。肉の脂が炭に垂れて、ぶわっと炎が上がる。
「う、ん。デザート、そうだった」
 テーブルの上部にある排気ダクトに勢いよく煙が吸い込まれていき、返事をする村上の姿も煙で見えなくなる。荒船はハラミをひっくり返し、トングをカチ、と鳴らした。
 肉もないのに白飯をかきこむ村上がどんな顔をしているかは見えないままだった。