三毛田
2025-05-18 11:00:00
1075文字
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96 06. うれし涙と幸せ吐息

96日目
君の涙と吐息は俺の宝

〝好きな人がいる。だから、気持ちには応えられない〟
 断ったことに対して心苦しい。そんな思いがこもった声。だけど、その後に謝罪はない。
 その言葉を口にしてしまえば、己に相手にも罪悪感を抱かせてしまうから。
 何故分かるのか。
 俺も、同じような断り文句を口にしているから。
 断ったことに対して謝罪を告げた時、何とも言えない気持ちになった。それが罪悪感だと気付いたのは、二度目に口にした時で。
 それ以来、気持ちを向けてくれたことに対して感謝を伝えるようにした。
 応えられないけれど、その気持ちを向けてくれたこと、伝えてくれたことは嬉しかったと。
 勇気を振り絞ってくれてありがとう。
 そんな気持ちを込め。上手く伝わってくれた場合、泣かれちゃうけど。
……
 さて。用事はやっぱりあとでもいいかなと思っていたら、真横に気配。
 スンッと表情を無くした丹恒が俺を見下ろしていた。
「たまたまです。気まずかったから、隠れた」
「そうだな。俺がお前の立場でも、そうしただろう。帰るか」
「うん」
 立ち上がって手を差し出すと、そっと重ねられ。だけどその手はかすかに震えていた。
 少々人見知りな丹恒は、勇気を振り絞ったのだ。そう。彼に告白した少女と同じように。
 教室に戻り、それぞれ荷物を持って。手を繋いだまま学校を後にする。
 互いに何も言わない。詮索もしない。
 お前の好きな人って、誰?
 なんて、ノンデリをかますことも、もちろんしない。
「穹」
「どしたどした」
 足を止め、名前を呼ぶ。それに合わせ、俺も足を止め。
「お前のことが、その……す、好きだと言ったら……困るだろうか」
……
 声は震えているし、表情も不安そう。
 でも、勇気を振り絞って伝えてくれたのだとわかる。
「本当に?」
「そうでないなら、俺は、口に出さない」
 離れていこうとした手を、ぎゅっと握って逃がさないように。
「穹?」
「逃げないで。俺の返答も聞かずに、逃げるつもり?」
「俺は、臆病だからな」
「俺だって臆病だ。好きな人から好きだと言われても、すぐに答えられないんだから」
 灰緑の瞳が大きくなる。うっすらと張っていた水の膜が、下瞼から零れ落ちていき。
「丹恒、好きだ」
 眼鏡を外し、そっと涙を拭って目元にキス。
 はあ。と、落ちた吐息は、幸せだと言外に。
「両思い、でいいのか」
「そう。俺と丹恒は両思いだ」
 嬉しい。と、彼の唇が動く。
「このまま俺の部屋に連れ込んでも?」
「お前が望むなら」
「丹恒、それは狡いってば」
 笑われた。