こゆ
2025-05-17 18:51:35
4354文字
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失恋したら当て馬役にされそうになったので野球部の佐々木君を全力で推していこうと思います

両片思いのペンシャチ現パロ
シャチ高2のペンギン高3
※無害なモブ子視点
※ラブコメ目指しましたがあんまりコメディになりませんでした



※AI学習無断転載禁止


失恋したら当て馬役にされそうになったので野球部の佐々木君を全力で推していこうと思います



「おーい」
と、声をかけられて目が覚めた。ぼんやりとした頭、パチパチと滲む視界を瞬きで調整しているとピカピカの黒板と明るい髪のクラスメイトが目に入る。
「あ、日直……!」
その声に、目の前のシャチがふはって笑った。いつの間にか昼休みに突入した教室の賑わいの中、二人一組で課せられる仕事を他人任せにしてしまったことに気づいてしまった。咄嗟にお詫びにジュースをおごると提案し、シャチと渡り廊下前の自販機へ向かう。
「なんで渡り廊下こっち?」
「フルーツオレがあるから」
おまえが飲みたいんじゃんってシャチは呆れつつもついてきてくれた。
シャチとは一年の委員会の時からの知り合いだから付き合いも二年目で、どちらかといえば良く話す方の男子だった。そう、付き合いも二年目。だからこそ気付いてしまう。教室を出て歩く途中も、なんとなく、本当に何となくだけどシャチの空気が重い気がする。そういやさっきも私が忘れていた日直のことをわざわざ言いにきたにしては「おーい」の空気が重かった気がする。この友人に関して、寝ている女子を起こすようなイメージもお詫びのジュースをこんなに簡単に受け取るイメージもない。シャチは近いのに踏み込みすぎない見えない線があるのが常で、そこがお互いに付き合い易いとところだと思う。
ちらりと隣を見ると、並んで歩く友人が視線を察したように顔を上げる。イタズラのバレた子供みたいに肩をすくめて。
「ナニ?」
「んんん、シャチも寝不足?」
「昨夜は八時間睡眠」
「腹痛いとか」
「ナイナイ」
私の軽口にもシャチは動じない。いつもの軽い返し。
別に日直の仕事を押し付けたことを怒ってるわけでも咎めてるわけでもないことはわかっている。
「じゃあ、恋バナ?」
だから、これは冗談の続きのつもりだった。事実、気温の上昇とともに周りではそんな空気が出来上がっていた。
最近シャチに振られた友達情報だけど、どうやら好きな人がいるらしい。もしかしたら、なんて思っての冗談だった。私の言葉にシャチは答えない。聞こえなかったかな。そう思った私ともう一度目が合う。
あ、これはちゃんと聞いてた顔だ。
「⋯⋯頼みが、あんだけど、」
俄然乗り気じゃなさそうな声色でそんなことを言うもんだから、えっ、と思う。
いや、怖い。何?
「今、彼氏いないよな?」
……はああ?」
心の底からの「はあ?」が出た。
「二週間前にフラれたの知ってるよね?そのケンカ言い値で買うけど?」
思わずファイティングポーズをとった私を、「あ、違う!悪い」とシャチは一蹴する。シャチの友人でもあるラグビー部の男子に長いこと片思いしていたものの、二週間前に見事に玉砕した傷をさらに抉りにきたわけではないらしい。
「その、⋯⋯⋯⋯頼んだら、恋人のふり、してくれる?」
なんて言えばいいのか、その時のシャチの顔と言ったら。
うっかり、
「え、もしかしてシャチって私のこと⋯!」
なーんて勘違いをミリもさせない、いかにも苦渋の決断です、本意ではありません、こんなはずでは、みたいな表情で。嫌いな食べ物をいやいや食べさせられてる五個下の弟にそっくりだった。
いや、ほんとに何? この男、失礼にも程がないか?
「罰ゲームの顔じゃん。幼気な女友達巻き込むなよバーカ」
「そういうんじゃねーけど、⋯⋯いや、ごめん。こんなのバカみてーなんだけど、巻き込もうとしたのは悪かった」
そんですぐ心底後悔したようにこっちに詫びてみせる。わざわざ頭まで下げるからなんだかこっちが悪いことをした気になってくる。往来で目立つタイプのシャチに頭を下げさせているのはさすがに体裁が悪すぎる。慌ててシャチのおでこをぐいと上に押しやった。
「ちょっとやめて。顔上げて。今更、あんたのファンとかに睨まれたくないのこっちは!何があったのか知らないけどシャチちょっとおかしくない?」
私に押し上げられたおでこがうっすら赤くなっている。
乱れた前髪のまま、まだ難しそうな顔をしているシャチが観念したようにため息をついた。眉毛を下げて。
「と、⋯⋯友達、が告白、してきて。断ったけど諦めないって言われて、」
「うん、珍しくないね」
「もう五十回はされてて」
「は?」
「告白」
「そんなに?」
「最近は毎日」
コワ。シャチはわりとスッパリ断ってるイメージだ。私の友達もスッパリ振られてスッキリ次の恋に向かっている。なんていうか、期待をさせない優しさがあると思う。
だから、きっときちんと断っているだろうに、何回も。スッパリと。それはもはや鈍感を通り越して狂気だ。コワ。怖い。ホラーかストーカーか。
「だから、おれにまた彼女でも出来たら諦めてくれるかな、てバカなこと考えた」
「あー⋯⋯なるほど。大変⋯⋯だ、ね」
モテすぎんのも考えものだね、なんて同情してみせれば、シャチは珍しく弱ったような声を出す。
「けど、嘘でもそんなんさせたら迷惑だよなァ、普通に。考えなしでごめん」
落ち込んだようなシャチの姿に、ほんのちょっと悪戯心みたいなものが沸き起こってくる。するする、と近づいてわざと距離を詰めた。ブレザーの肩同士がぶつかるか、ぶつからないくらいか。
「シャチの彼女のふりしたら奢ってくれる?」
「何を」
「寿司か焼肉食べ放題一年分」
「対価重すぎじゃん!」
私の冗談に声を出して笑うシャチ。
「っていうかシャチの彼女のフリとか無理無理」
「なんでだよ」
私が寄り添ったまま、内緒話の距離で「嫌ですー」って顔すれば、今度はシャチが不本意そうな顔をした。これだからチヤホヤされて来た男は。っと、心中で悪態をつく。この友人は意外とチヤホヤされていて意外とモテる。
「私、命の危険があるような依頼は請けないから」
「なんだよそれ……ははっ、あははっ、殺し屋かっつーの!」
二人でまた声出して笑っていたから、音もなく階段を降りてきたその人物の存在に気づかなかった。
……シャチ、何してんの?」
そう言ってシャチの肩にポンって手を置いた。
「!?………………ペンギン!」
シャチの肩がびくって跳ねた、
「の、飲み物買い行くところ……で。あのさ、今日は日直だから先帰ってて」
「へぇー、朝もそう言って先行ったじゃん」
にこって笑った顔のその人は、ペンギン先輩だった。もちろん見覚えがある。シャチを訪ねてよくうちのクラスに来る一個上の先輩。にこにこと口を綻ばせたままのペンギン先輩の顔が僅かに傾けられてこっちを見た。
目が合う。合って、わかった。
この人、ぜんっぜん笑ってない。
「友達?」
その声に、胃の下あたりがヒュっとした。明るい声色とはいえ、こんなのわかりきった確認でしかない。
まだ現状で何が起きているかの正解に辿り着かないものの、私の直感がヤバい、と告げている。それでもシャチは平然と「ああ、これ⋯⋯、」と言いかけるのを聞きながらふと、視線を感じた。ペンギン先輩から今度は隣の同級生へと目をやる。
え、何。こっちも怖い。否、もっと怖い。
シャチの目の奥に妙な気迫を感じ取って後ずさりしそうになったけど、逃げ場なんてなかった。
ペンギン先輩の視線にヒュっとした腹の反対側、背中側がゾッとしている。
「彼女」
「は!?」
「はあ゙?」
私とペンギン先輩の声が重なる。けど、声色は全然違う。素っ頓狂な私の声に対して、地を這うような低音。
おいおいおい。先輩ガチギレしてるけど。なんでだよ。
怖くてシャチと合っている視線をそっちに向けれない。そして、縋るようなシャチの瞳。むしろ助けて欲しいのはこっちだが。何言ってくれてんのおまえ。流石に私でもキレそう。ふざけんな。
そう、念を送り続ける私を見て、シャチがその顔のままペンギン先輩の方を向く。
「ごめん、嘘ついた」
「へ?」
「え、」
またしても私とペンギン先輩の声が重なって、そして今回も声色は違う。
もう嫌だ。何この地獄みたいな空気。
まじで何なの。早く説明しろし、と天を仰いだ。
目を白黒させる私と、ペンギン先輩の間に立つ男。こっちを振り回してる張本人のシャチが、
「言ってみた、だけ……ごめ、ん」
ともう一度謝る。最後は蚊の鳴くような心許ない声。
いや何。何に謝ってて、なんでシャチがショック受けてんの。
恐る恐るペンギン先輩を見れば、彼も毒気が抜けたような顔で立っている。
「ほんとか⋯⋯?」と確かめるような慰めるような独り言に、シャチが答えた。
「ただのクラスメイト」
「そうですただのクラスメイトでそれ以上でも以下でもないですシャチなんて全くタイプ違います。わたしは浅黒くて短髪で男臭い野球部の佐々木くんとかがタイプです。こっちから願い下げです」
言なくてもいいことまで言った気がするけど致し方ない。だって本能がヤバいって言ってるもん。
ぽかん、としたペンギン先輩。シャチの言葉か、言い募った私の必死さを見てか、とにかく悪い冗談を飲み込んだようだった。飲み込んで、理解した、とみるみるうちに口元がへの字になって困ったような勘ねたような表情になる。ペンギン先輩のパブリックイメージと遅いすぎて。ウッ、と思わず出そうになった声を両手で抑える。
これは、キュンかも知れない。
ペンギン先輩はいつも口元で綺麗に弧を描き静かに笑う人だと思っていた。しょんぼり、としたなぜか泣きそうな顔のシャチの頭をペンギン先輩が撫でる。
うわ嘘、って声に出そうになった。
「気にすんな」の気持ちなんだろうか。泣きそうなシャチを慰めたい気持ちなのか。罪作りな、優しい手つきのそれ。そして、これで狙ってないはナイなって思うほどのシャチの上目遣い。いつの間にかふたりの世界で。なんだこいつら、って感想が頭に湧いて出たそのとき。
「あ、」
そこで思い至ってしまった。寝起きで日直を思い出した時より数十倍は大きな衝撃。
急に声を出した私に、ふたりの視線が一気に集まる。違います邪魔をするつもりとかそんなんじゃなくて。再び口を抑えた私の脳内に、シャチのさっきの言葉がぐるぐると巡る。
 
『おれにまた彼女でも出来たら諦めてくれるかな、て』
 
断り続けている告白。諦めきれないという相手。いつもならスパっと断るシャチが再度の告白を甘んじてる理由。見つめ合うふたり。シャチの冗談に対して一瞬垣間見せた獰猛さが嘘みたいに、あやすように撫でる細い指。

 

私は震えあがりながら、目の前のふたりに聞こえないように「両思いかよ⋯⋯」と呟いた。








【了】