かにやけんせつ
2025-05-15 22:46:08
3980文字
Public 魔法少女特務機関 Main Story
 

魔法少女特務機関 Fragment.011

#2023/7/15
#Aoi_Cyan
#Ikazuchi_Tou

 翌日、7月15日の土曜日、学校は休日。
 自宅で起床した詩杏は、今日も家が自分ひとりであることを確かめる。どうも蒼井夫妻は、揃いも揃って多忙な上不定休らしい。家でゆっくりしているところを一切見ないわけではないのだが、土日のどちらもいない、なんて日も珍しいものではなかった。それはそれでふたりに合わせず勝手にできるからいいんだけど、と思いながら、ひとまずパジャマを脱いで私服に着替え、身支度を整える。今日は水色のブラウスに白のスカート、どちらもフリルは控えめながらも可愛いアイテムで詩杏のお気に入りであった。鏡の前でいつものように髪を結ぶと、今の時間を確かめる。

「11時かぁ。早めだけどお昼ご飯食べていい時間……いや、お外で食べようっと」

 独り言と共にいつものバッグを持って、ご飯食べたらどうしよ、と考えながら玄関でサンダルを履く。夏の日差しは厳しく、それを凌ぐための日傘を持って詩杏は家を出た。



 その後適当に詩杏が出てきたのは、彩坂区内の坂下さかした地域。元はあまり治安の良くない街だったらしいが、今では当時の名残も残りつつも、噂に聞く他所の無法地帯に比べれば全くもって安全な街になったらしい。その他所の無法地帯に街の汚点を全て押し付けた、というふうな話を聞いたような気もするが、この街で遊ぶ分には特に関係のあることではなかった。

「んー……ポテト食べたいし、ハンバーガーかなぁ」

 今日の己の気まぐれに従って、詩杏はハンバーガーチェーンに入る。キャッシュレス専用のセルフオーダーレジの順番を待つべく並ぼうとした……ところで、詩杏の前にいる見知らぬ少女が何か困っている様子なのに気づいた。

「あのー。何してるんです?」
「あっ!ごめんね邪魔しちゃって。たはは……

 先どうぞ、と少女は順番を譲ってくれるが、その少女がスマホ画面を見て悩んでいる様子なのが詩杏は気になった。別に人助けそのものに興味はない野次馬根性の好奇心だが、だからと言って訊いてはいけない理由にはならないだろう、と少女に何に困っているのか訊いてみる。

「あー、えへへ。財布忘れちゃってスマホで払うしかないところまでは良かったんだけどー……あたし字が読めなくてさ。残高分からないから、買えるかなーって。チャージ忘れてて残高ギリギリだった覚えがあるのよね」
「字が読めない、ですか。ちなみに何食べるおつもりで?」
「テリチキのセット!いつもよく食べてるんだけど……いくらだっけ、足りるかな?」

 少女がそう言うので、スマホ決済アプリの残高を見せてもらって照らし合わせてみる。……残念ながら、ほんの少しだけ残高が不足していた。

「んー、足りませんね。私のお金で食べます?」
「え、は、見知らぬあたしに奢り!?ホントに言ってる!?」
「人がしょぼくれてるところ見るよりかこっちの方が好みなので。飲み物何にしときます?」

 そう言いつつ勝手にセルフオーダーレジを操作する詩杏。そういうことならお言葉に甘えて、と言う少女に頼まれた通りメロンソーダを選んだ。自分のフィッシュバーガーとキャラメルラテのセットも頼むと、詩杏のスマホで支払って席に届けてもらうための番号札を手に取る。

「ありがとうねー、必ず返すわ……返すために連絡先と名前聞いてもいい?」
「いいですよー。蒼井詩杏です。連絡はこっちに」

 詩杏はそう言って、少女にスマホの画面を見せる。と、おや、と少女は何かに気づいた様子を見せた。

「その羽根のロゴ!あのアプリ入れてるってことはあなたってもしかして……
「んー?ピンと来るってことはあれですかね、引退したOGってやつ?」
「そうそれ!まさかこんなところで出会うとはすごい偶然!そうだなぁ、ここは人多いし……食べ終わったら場所移して話そっか?」



 右宮電鉄、坂下駅。
 ターミナル駅でこそないものの利用者が多く、それに合わせた大きい駅舎を持つその駅の駅前には、駅前広場があった。暑さを避けてか屋根のない駅前広場にはあまり人がおらず、ベンチもガラ空き。近くに出ていた屋台でかき氷を買って、日傘をさしながらベンチに座る。

「やー、かき氷まで奢ってくれちゃって……ほんとにありがとね」
「後で返してくれるなら損失ゼロなので、お構いなく」

 そう言いつつ詩杏はソーダ味の青いかき氷に手をつける。隣の少女──名前は桃条とうじょう花音かのんというらしい──はといえば、桃味のピンク色のかき氷を選んでいた。これまた美味しそうにひとくちかき氷を口に運ぶと、それを飲み込んでから花音は口を開く。

「にしても今、魔法少女全然いないって聞いたけど、詩杏ちゃんは新人?」
「そですねー。あともうひとり──すずらんちゃんだっけな。新人入ってきてますよ」
「お、そうなんだ!灯君から応援なかったらワンオペって聞いてたのよね〜。人が増えて何よりだわ」

 仲間が増えたことに安堵したような顔を見せる花音。ふむ、と詩杏はもう一口かき氷を食べて、それから気になっていたことを訊いてみることにした。

……ちなみにですけど、花音さんが文字読めないのって何でなんです?」
「んー……原因不明。だけど少なくとも生まれつきとかじゃないよー、ある時急に読めなくなっちゃってね。まあでも……灯君には秘密にしてるからさ。詩杏ちゃんからも黙っててくれると嬉しいなあ」
「はぇー……どうりで一応スマホは使えているわけだ」

 詩杏の言葉に、UI変わると大変なことになるんだけどね、と笑う花音。そう話しているうちに、かき氷が溶けてほとんど液体になってしまっていた。たはは、とまた笑った後で花音はかき氷のカップに口をつけ、溶けた液体を飲んでしまう。詩杏も同じようにかき氷だったものを飲み干すと、「それ捨てとくよ」と花音がゴミをもらってくれた。

「んじゃ、私は一回帰るね。また後でお金返しに行くから……んー、待ち合わせとかしとく?」
「じゃあ、機関の第1ビルとかどうですかね」
「あー……まぁいいよ、じゃあそこの正面入口前でね!」

 そう後でまた会う約束をして、詩杏と花音は解散する。駅を離れていく花音の姿を見送って、詩杏は駅の改札を通り、ちょうど来たばかりの電車に乗り込むのであった。



 一方、昼下がりの彩坂学園。
 灯は借りた本を返して新しい本を借りに、学園内の図書館を訪れていた。

「あら灯くん、今日も来たのね!」
「えへへ……貸出数制限さえなければ一気に借りて一気に返すんですけどね」

 顔見知りの司書とそう話しつつ本を返すと、いつものように書架へ向かう。休日だけどあの子ならいそう、と思いながらSFの本棚へ向かうと、予想通りの人物が本を物色していた。

「灯先輩」
「やほやほー、暁くん。今日も本読みに来たの?」

 いつも通りの挨拶を交わす二人は、休日ながら学校に出入りするということで今日も制服姿だった。とはいえ本を借りる以外の用事もない休日、いつもよりもゆっくり話しながら本を選べるね、と灯が笑いかけると、暁は小さくながら頷いた。

「『星間物語』の最新巻の予告出てたけど、見た?」
「見たよー。2巻で退場したあのT-4Kちゃん、ついに過去が語られるんだよね?楽しみ!」
「ん。でも退場以降もこれまでにちらほら名前は挙がってたから、考察したらもしかしたら最新巻の内容予想できるかも。……とはいえ、2巻読み返すところからだけど」

 暁はそう言いつつ、少し背伸びをして『星間物語』の2巻を手に取る。それを見て灯も同じ本を手に取り、そして3巻、4巻、と借りられるだけそこから続きを手に取った。

「にしても、まさか20巻超えてやっとなんてねー。おかげで一気には借りられないや……
「制限あるもんな……せめて20冊までは制限緩和して欲しい」
「ね!そんなに持ち逃げとかあったのかなぁ……?」

 そう話しているうち、暁も今日借りる本を選び終えたようで、手近なベンチに一度本を置いて鞄から図書カードを取り出す。揃って1階の貸出カウンターに向かうと、本を借りる手続きを済ませる。

「はい、貸出期限は……いっか、あなた達いつも短期間で返してくれてるし」
「このくらいならすぐですからね!」
「明後日には返すかも」

 暁の顔も良く見知った司書は、2人分の貸出処理を終えるとまたねと手を振ってくれる。そうして図書館を出て学校を出ると、暁は「俺はここで」と言って帰宅するため地下鉄改札の方へと向かっていった。自分も早く機関に戻って本を読もう、と灯は駅の自由通路を渡っていく。

「あ、ベビーカステラの屋台。詩杏さんてこういうのは好きなのかな?」

 そう独り言を呟いてから、寄り道にベビーカステラの100個入りを買う。多いようで、その実この程度なら一瞬でなくなるのが常なのだ。お札を出しておつりの小銭を財布にしまってから、屋台のおじさんからベビーカステラの袋を受け取って改めて機関の拠点へ向かう。と、普段自分達が出入り口として使っているのとは違う、正面玄関の近くの植え込みの前に詩杏が立っているのを灯は見つけた。

「あれ、詩杏さん!こんなところで何してるの?」
「おや、灯くん。今待ち合わせしてて……あ」

 灯が声をかけると、返事の最中でふと何かに気づく詩杏。灯がその目線の先を追うと、そこにはひとりの少女が現れていた。

「詩杏ちゃん、お待たせ……あ」
「──花音先輩!?」

 びっくりしたような声を上げる灯と、少し気まずそうながらもえへへと笑う花音。そっか知り合いなんだっけ、と詩杏が小さく呟く横で、灯はぱあっと顔を明るくした。

「花音先輩、久しぶりっ!」