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かにやけんせつ
2025-05-15 22:41:32
4976文字
Public
魔法少女特務機関 Main Story
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魔法少女特務機関 Fragment.010
#2023/7/14
#Aoi_Cyan
希望のいた部屋を出てエレベーターへ向かうと、空は上へ向かうボタンを押した。
「あれ?外なのに、下じゃないんですか。ここ最上階なのに」
「用があるのは屋上だからね。さ、ついてきて」
空はそう言ってエレベーターを降りると、屋上に出る。何らかの理由があるのか、エレベーターを降りるとそこは庇があるだけで、すぐ外であった。
「
……
ただの屋上では?」
「見た目はね。行く前に軽く説明だけしておこうか。この星を襲う怪物、魔女と使い魔達の話はすでに聞いたよね?」
庇の下にある自販機のボタンを押して缶のミルクティーを手に入れると、空はすぐそばにあるベンチに座る。詩杏も真似をして、スポーツドリンクを手に空の隣に座った。真夏の日中だけあって外は暑いはずだが、空が魔法でも使っているのか、この辺りにだけひんやりとした心地いい空気が漂っていた。
「でも現実に、普通の人達があれらと魔法少女の戦いを直接目撃することはない。そうならないように、神様が魔法をかけた、って言われてるんだ。曰く、"この世界が壊れないようにずらした"って」
「神様が?」
「そ、魔法少女を最初に生み出した神様。今でこそ特務機関の手で魔法少女を生み出すことができるけど、元々魔法少女になるには神様との契約が必要だったの。その神様が、普通の人達のことを守りやすいように、って世界の仕組みそのものに手を加えた、その結果が"ずれた世界"──って言い伝えがあるんだ」
あくまで言い伝えだから、真偽の程は分からないけど、と空は言う。そしてごくごくとミルクティーを飲み干すと、自販機横のゴミ箱に缶を投げ入れながら空は続きを話してくれる。
「"ずれた世界"は見かけこそこの世界とだいたい一緒だけど、そこで物が壊れたりしてもこっちに直ちに影響することはないし、例えば魔女にこのあたりのビルが破壊されたりしたとしても、そのまま反映されることはまずないんだ。許容範囲を超えると、地震なり火事なり──何らかの形でこっちの世界にも影響を及ぼすことはあるけどね。それも、余程じゃない限り即座にとはならないから、"ずれた世界"側が原因なら大抵一般人を避難させるのも間に合う。
……
どう、色々納得いくんじゃない?」
空に言われて、詩杏は記憶を辿る。災害関係の避難指示が出てから実際に災害が起きるまで、数時間から数日の間がある場合があるが
……
空の言葉を信じるならつまり、それらは裏で魔法少女達が戦っている証拠、ということだろうか?
「さ、それじゃ早速行ってみようか」
「行ってみるって、どうやって──」
空は立ち上がり、首を傾げる詩杏の手を握るとにっと笑う。そして、そのままエレベーター出口の真正面、何もない地面に引かれた線の前に立った。
「感覚さえわかれば、一人でも入れるようになるからね。今回はこのまま、僕の手を握ったままついてきて」
「え?わ、わぁっ──!」
空は詩杏の手を引きながら、その線を踏み越える。瞬間目の前の景色が渦巻いて、そして、詩杏の視界いっぱいに水色の光が広がって。そして、その水色で何もかもが、見えなくなった。
「どう?」
空の声がして、はっと詩杏は目を擦る。眩しくてずっとぎゅっと閉じていた目を開けば、そこには先程の足元の線より一歩だけ前に進んだ世界が広がっていた──ただひとつ、その街並みや向こうに見える木々、海なんかが全て無彩色で無機質な色彩に変わっていることを除けば。
「──これが、"ずれた世界"──?」
「そう。例えばここであの自販機を壊しても、現実の自販機がすぐに壊れることはないよ。やりすぎると違う形で壊れたりするけどね」
その空の声につられて空の方を見れば、空は幼さでできた小さな白い手でエレベーター横の自販機を指差していた。しかし、その空の細い腕や身体を包むものは変わっている。フリルで飾られたふわふわの白い大きな袖にアシンメトリーなマント、そしてスカートとも見紛うようなデザインの淡青色のハーフパンツに同色のローファーとタイ。髪にも白いフリルのついた飾りをつけている姿は、まさに魔法少女らしい変身といったふうであった。指差していない方の手でインカムを取り出して自分の耳に装着すると、「詩杏ちゃんもつけて」と空はもうひとつ持っていたらしいインカムを差し出す。
「
……
今更ですけど、男でも魔法少女なんです?」
「用語として定着しちゃったからね。ここ彩坂は人少ないから妙な偏り方してるけど、本来はちゃんと詩杏ちゃんみたいな、少女って年頃の女の子の方が多いんだよ?」
「
…………
はぇー」
空の返事に適当に返してから、詩杏は自分の身体にも目を向けてみる。頭にやった手には、いつもハーフサイドテールを作っているのとは別のリボンの感触。和服風のデザインのワンピースや、それに合わせたリボンに飾られたミュール、手を包む真っ白なレースの手袋につけられたリボンまで、全てが鮮やかな水色を基調に揃えられていた。見下ろす自分の目線でも可愛い衣装だと思うくらいなのだから、きっと周りから見ても可愛らしい衣装なのだろう。
「でも詩杏ちゃんの衣装、可愛いじゃん。なんだかあの子に
……
」
「あの子?」
「
……
ごめん、何でもないよ。えっと、知り合いを思い出しただけ」
そう誤魔化しつつも空が褒めてくれたので、まぁとりあえずはいっか、と詩杏は流すことにする。それよりも今は、この"ずれた世界"だ。
「さて詩杏ちゃん。昨日魔力の使い方で武器の生み出し方も教えたけど、できるよね?」
「ええ、はい」
「うん、できるならよし。次は身のこなしだけど、これもちゃんと覚えてるよね?ついてきてみて」
空はそう言って軽々と屋上の安全柵に飛び乗ると、それを足場に大きく跳躍し、彩坂駅前のバスターミナルに設置された屋根に着地した。詩杏がそれについていくように同じ屋根に飛び乗ると、空は「上手上手」と言って今度は駅ビルの屋上にまで登っていく。
「無理に一発で登ろうとしなくていいからねー。それよりも足を踏み外したりしないほうが大事だよ」
「えっと、よっ、ほっ
……
」
詩杏が所々の構造物を足場にしながら同じように登っていくと、また空は褒めてくれる。駅ビルの屋上に登ると、そこには屋上庭園があった。ここって屋上庭園だったんだ、と思いつつ詩杏が周囲を見回すと、空は屋上庭園にいる謎の4人組に声をかけに行っていた。無彩色なこの"ずれた世界"の中で各々カラフルな色彩を保っている様子を見るに、彼女達も魔法少女らしい。
「せっかくだから、ついでに紹介しないとね。詩杏ちゃん、この人達は観測課の人達だよ」
「君が新人ちゃんだね?よろしくね!」
「よろしくお願いしますー。
……
観測課って?」
詩杏が首を傾げると、そういや説明してなかったね、と空が言う。そしてその中でもひとりの少女に、空は声をかけた。
「息吹ちゃん、任せたよ」
「はーい!あーしは
露見
つゆみ
息吹
いぶき
、よろしくね詩杏ちゃん!」
露見息吹と名乗った少女は快活そうな笑顔を見せた後、観測課の他の3人が取り囲む機材を見せてくれる。その機材のモニターには、この近辺の地図を取り囲むように謎の様々な表記が並んでいた。座標やタイマーの並んだ表があるのは、一体何だろうか?
「観測課のお仕事はね、その名の通り魔女や使い魔の襲来に備えて観測し続けること!魔女はいつも空から降ってくるんだけど、使い魔は空から降ってきたりそのへんにぽっと沸いたりまちまちなんだよね。だから街を観測しつつ、空からやってくる使い魔や魔女については軌道を計算してどこに来るか絞ったりもしてるの。一番直近だと使い魔で今夜、魔女なら6ヶ月後ってところかな?」
息吹はそう言いながらモニターを指差す。どうやらタイマーと座標の羅列は、自動計算して表示されている観測済みの魔女や使い魔、それらの到達予測残り時間と座標らしい。ほえー、とその様子を詩杏が眺めていると、ふと観測課の誰かが「あ」と声を上げた。それとほぼ同時に、モニターの表の一番上に太い赤字で新たな対象が表示される。残り時間は約5分、地図上に表示されたマーカーも見る限り、先ほどの説明で言うところの「そのへんにぽっと沸く」種類の使い魔らしい。
「使い魔発生〜、襲来まであと5分だけど
……
どうする空さん、灯くん達呼びにいくべき?」
「んー、このくらいならいいよ。僕ひとりでも余裕で対応できるし、詩杏ちゃんに一回戦ってみてもらおう」
空はそう言うと、いけるよね、と詩杏のことを見る。詩杏が頷くと、空は到達予測座標を確認してから、そこへ向かうのであった。
空の案内についていく形で向かったのは、彩坂学園本校舎屋上であった。見下ろせばグラウンドに、部活に精を出す生徒達の姿が見える。空は時計を確認すると、もう少しだけ余裕があるね、と呟いた。
「今回は使い魔1匹だし、手こずっても大丈夫。失敗を恐れずにやってみて」
詩杏がナイフを魔法で生成して構えるのを見て、空はにこりと小さく微笑む。ナイフの握り方を考えているうち、空が「もう来るよ」と詩杏に言った。その声につられるようにして空を見上げれば、そこには1匹のまんまるい謎の生き物がいた。ふわふわの毛皮に包まれたまんまるは、ぼよんと屋上の地面について跳ねるとそのまま詩杏の方へ向かってくる。
「えい」
初めてのくせしてやる気のない声と一緒に、詩杏は握っていたナイフを投げてみる。詩杏が思ったよりもまっすぐ飛んだそのナイフは、まんまるの毛玉に突き刺さった瞬間水色の光を放った。その光と化してナイフが消滅するのと同時に、毛玉は甲高い悲鳴のような声を上げながら割れて、そして消滅する。
「あ、意外と弱い」
「そりゃあ多分詩杏ちゃんが強いからだよ
……
いくら雑魚とは言っても、普通はもうちょっと手間取るものなんだけどね?」
空はそう言いつつ、後から何も来ないことを確かめるように頭の上を見上げる。インカムを通じた通信もないことを確認すると、んー、と空はひとつ伸びをした。
「今回は1匹だけだったけど、たいていもっと来るからね。ま、そのあたりはゆっくり慣れてくれれば大丈夫だからさ、僕からはがんばれとだけ言っとくよ」
ってことで帰ろっか、と言い、空は屋上のフェンスを軽々と飛び越える。詩杏もそれについていって、彩坂支部へと帰還するのであった。
休憩室に戻ると、翠と灯、そしてすずらんが美雲お手製のマドレーヌをつまんでいた。美雲本人がいないあたり、そろそろ夕食の仕込みでも始めているのだろうか?
「あ、詩杏さんと空さん!おかえりなさーい!」
「ただいまー」
真っ先に灯が気づいて詩杏と空に手を振ると、翠とすずらんもおかえりを言ってくれる。詩杏が自分もマドレーヌを食べるべく座ると、その隣にタブレット端末を持った空が座ってきた。
「あれ、もしかしてもう実戦?」
「そうそう、ちょうどタイミング良く出てきたからね~。1匹だけだったとはいえ、規則は規則だから」
僕ももらお、とマドレーヌをひとつつまみながら、空は端末を詩杏の前に差し出す。そして食べながらでいいから見てと言い、そこに表示されているものについての説明をしてくれる。
「戦闘終了後は必ず戦闘報告書を書いてるんだ。これは一応君のスマホからでも報告できるけど、画面小さいとやりづらいと思うから一旦これでね」
「あ、報告書とかいるんだ」
「そ。
……
まぁそうは言っても、観測課の皆がある程度の情報は記録してくれてるからね。戦ってて気づいたことがあれば書くのと、内容に間違いがないのを確認して署名してくれれば大丈夫だよ」
空はそう言って、端末に表示されているサイン用のボックスに自分のサインをした後詩杏に端末を差し出す。これを提出するまでが戦闘だからね、と言う空を横目に、詩杏もサインを済ませるのであった。
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