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3i2su
2025-05-15 19:03:17
4550文字
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生命散らせよ
全年齢┊バキサム┊サンボル後
S.H.I.E.L.D.から連絡が入ったのは深夜二時を過ぎた頃。レム睡眠からやっとノンレム睡眠に突入した辺りだ。昔から急な要請のために動くことが多いのもあって、寝るのは得意な方だった。
電話口で発した声が想像していたトーンより数段低く、慌てて微調整する。
「こんな夜遅くにすみません。一番に知らせなきゃいけないと思って」
「いや、こちらこそごめん。知らせって?」
「ジェームズ・ブキャナン・バーンズを捕らえました。S.H.I.E.L.D.の極秘施設にいます」
「すぐに行く」
即座にベッドから羽ばたくように飛び降り、シャツを替えて部屋を出る。バッキーを捕まえるのは難しかったはずだ。それを依頼して数時間でやってのけるのだからS.H.I.E.L.Dは侮れない。
ニューアベンジャーズとして活動を始めたバッキーを、最初はよく思っていなかった。アイツがあのスーツで現れる度、殴ってやろうかと拳を握った。正直それは今も変わらない。それでも、好きなものは好きだ。あの忌々しいスーツを着ていようが、毎日のようにしつこく俺を訪ねては「一緒にやろう」と誘ってこようが、好きなのだ。だが、バッキーは俺のそんな気持ちをいとも簡単に踏み躙った。まったく笑える話だ。なにをされたら傷付くかを彼はこれっぽっちも分かっていなかった。なにも言わずにバッキーが姿を消してから約半年が経った。
姿を消したと言っても、日々テレビで取り上げられるニュースといえばニューアベンジャーズの話題ばかりだ。だからアイツの動向は掴みやすい。それに軍に知り合いがたくさんいるから、いざとなれば数秒で奴らの居場所を知ることができた。
そうしてテレビ越しにバッキーを見るようになり、随分と慣れてきた頃、ある任務で訪れた廃墟で奴らと出会した。
「これはこれは、ニューアベンジャーズの皆さん」
一歩遅かったのか、軍から兵器を盗んだ輩は所々にぐったりと倒れている。一人ずつ手持ちの端末で顔認証し、エレーナが支えとして手を置いていたいくつもあるアタッシュケースの一つを開けると、大量の武器が所狭しと収納されていた。
「お手柄だな」
隣にいたエレーナに目配せすると「こんなに大量の武器が出回ったら」と深刻そうに眉を顰める。そんな彼女の肩に手を置いて「行くぞ」と言ったのはバッキーだった。
「後は頼む」
なにが後は頼む、だ? 俺の上司にでもなったつもりか? と言いかけてやめた。彼なりに色々考えているのだろう。去っていく背中を眺めていたら、不意にバッキーが振り返って苦しげな顔をした。なにか言いたいけど言えない、そんな顔だった。別に構わないのに。自分たちの関係は、それだけのものだったのだろうか。
大量の武器と一緒に取り残されたサムは、軍を呼び寄せた。ホアキンにはニューアベンジャーズが先に来ていたことを伝えて、数分後、やってきた軍に武器を委ねる。その場で武器の確認が行われたのだが、少し経つと何人かが血相を変えて目の前を通り過ぎていくのを見て何事かと気を引き締めた。
「武器が足りない」
そう告げられた時、頭に浮かんだ人物はおおよそ一人。ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ、あの顔を思い浮かべると胸がむかむかしてくる。しかしきっと、彼女本人は手を汚してはいないだろうし、ニューアベンジャーズだって自分たちが操られていることにも気付いていないだろう。とはいえ、キャプテン・アメリカとして徹底的に調べなければならない。というわけで、S.H.I.E.L.D.にニューアベンジャーズのリーダーであるバッキーを捕まえるよう要請したのだった。
S.H.I.E.L.D.の極秘施設では、数多くのエージェントが問題に立ち向かっている。それぞれのスペシャリストが集まった組織ともいえる。しかし、尋問に長けたエージェントを前にしてもバッキーは口を割らなかった。本当になにも知らないということも考えられるが、その非協力的な態度はその場にいた者すべてを闘志で震わせた。
「これからイエスかノーで答えられる質問をします。すべてイエスかノーで答えてください」
「イエス」
というわけでポリグラフにかけられることになったのだ。
サムはミラーガラス越しにバッキーを見ていた。イヤホンマイクを耳に装着し、質問は都度サムが命じる。それを同じくイヤホンマイクをつけた専門家が口にする仕組みだ。
「まずは基本的な反応を見るために簡単な質問をします。あなたの名前はジェームズ・ブキャナン・バーンズですか」
「イエス」
「出身はブルックリン?」
「イエス」
ここまでの質問はテストのようなものだ。ミラーガラスの方を見て頷いた専門家に質問を投げる。復唱するよう口にして、それを聞いたバッキーは目をぱち、と大きく開いた。
「大切な人から理由も聞かされず去られる人の気持ちが分かりますか」
「サムか?」
「イエスかノーかで答えてください」
「ノーだ」
ミラーガラスを凝視しているバッキーを見ていると、向こうからも見えてしまっているのではと一瞬躊躇したが、続けて質問をする。
「ヴァレンティーナの企みを知っている?」
「ノー」
「先ほど押収した武器の半分が行方不明ですが、それに関与はしていない?」
「イエス。サム、出てこいよ」
苛立ちの含んだ声に、サムは仕返しとばかりにマイクを通してさらに質問を投げかけた。
「俺に一言でも言ってから去ろうと思わなかったのか?」
その質問が専門家から発されることはなく、そのまま言えばいいのかを問うような視線がミラーガラス越しに向けられる。言ってくれ、と言いかけて、やめた。こんな姑息な真似をしてバッキーから本音を聞き出そうなんてのが間違いだったのだ。面と向かって聞いてやればいい。ちょうど嘘か本当かを見極める手段があるのだから。
「悪い、そこの席を譲ってもらえる? 使い方は知ってる。しばらく二人きりにしてくれ」
狭い箱のような部屋に二人きり。バッキーと二人になるのは数ヶ月ぶりだった。あれだけ出てこいと言っていたにも関わらず、目の前に座ると気まずそうに目を逸らしている。そんな態度であるのに、近くでバッキーの姿を見れて安心している自分が気に食わなかった。考えを振り払うように目の前にある機械を見た。それほど乱れのない一本線が延々と描かれている。ここに乱れが生じれば、嘘をついているということだ。
「俺に一言でも言ってから去ろうとは思わなかったのか?」
「
……
イエス」
どうやら本当らしい。良い関係を築けていると思っていたのは自分だけだったようで、虚しさが一気にサムを襲う。
「だったら俺たちはもう二度と会うべきじゃないな。別れよう」
「どうしてそうなる!? 俺がどんな気持ちでこの決断をしたのか知らないだろ!」
「イエスかノーで答えろ、バーンズ」
あからさまにショックを受けた顔をするバッキーを、サムは好い気味だと思った。これでもこっちが受けたショックに比べたら足りないぐらいで、とことん追い詰めてやろうという気になる。
「ノー」
「俺の気持ちを少しでも考えたか? ああ、これはノーだったな。お前みたいな奴が人の立場に立って物事を考えられるなんて思った俺が馬鹿だった。悪いな、バーンズ。いつ帰ってくるかもしれないと夜もろくに眠れない俺の気持ちなんて、お前には分かりっこないよな」
「サム」
「何も言うな。どうも腹が立って仕方ないんだ。今のお前は俺のサンドバッグだから余計なことを言ったらブン殴るぞ」
「おい、ここS.H.I.E.L.D.の基地だよな?」
さすがに自分がどれだけのことをしたのか理解したようで、バッキーにしては珍しく焦っているように見えた。だがもう遅い。玩具を手に入れた子どものような笑みを浮かべてテーブルの上で手を重ねた。
「サラと連絡を取ったか?」
「なに?」
「聞こえてないフリをするな。ここには二人しかいないんだ、聞こえたはずだ」
「ノー」
「おっと
……
それでも兵士か?」
目に見えて分かる乱れはバッキーの嘘を物語っていた。そもそもこの質問だって答えを知ってて聞いている。それをバッキーも分かってるはずなのに、嘘をつき通せるとでも思ったのだろうか。
「サラに俺の様子を逐一知らせるよう言った?」
「ノー」
「自慰の頻度まで聞いたりしてないよな?」
「
……
イエス」
乱れた線は、それこそが通常かのように思えるほどになっていて、さっきまでのさざなみのような静かな線は消えていた。サラからいい加減にしろ、と連絡が来たのは数週間前だ。喧嘩するのはいいが、巻き込むのはやめてくれと言われた時は一瞬意味が分からなかった。巻き込むもなにも話すことさえできていないのに、どう巻き込むというのか。続けてサラが言った言葉にサムは絶句した。様子を逐一知らせてくれ、なんてのはまだ可愛いものだ。自慰の頻度も、百万歩譲って仕方ないとする。一番腹立たしかったのは、俺についてなにか言っていた時はすぐに知らせてくれ、というものだ。原因を作ったのはバッキーなのに、困った時はいつでも駆けつけるスタンスでいるその都合の良さにサムは我慢ならなかった。
「もういい、終わりだ」
ポリグラフのスイッチを切り、立ち上がる。ここまで腹が立っていたのかと原因を作った本人を目の前にして実感する。最初から自分を思ってしていることなのは分かっていたし、今だってそのつもりだ。実際、サラには俺への想いを長々と語っていたようだし、だからああは言ったが別れるつもりはない。
「サム、悪かった。お前が傷付くのを見ていられなかったんだ」
「お前が去ることで俺が楽になるとでも?」
「
……
そう思ってたけど、違ったみたい、だな」
「そうだ、よく分かったな」
「許してくれ。なんでもするから」
「許すよ。姉貴に俺の自慰について二度と聞かないと約束するならな」
サラにこの話をされた時は一生に一度の辱めを受けている気分だった。変に優しいところがあるから「頻度はどれくらい? なにを材料に?」とまるで料理のレシピを聞くかのように根掘り葉掘り聞いてくるのだ。誰が好きで姉貴に自慰についてを語るのだろう。
「約束する。愛してる、サム」
今の状態なら本当になんでもしかねないな、と思ったサムは潤んでいるように見えるバッキーの目をじっと見た。本来ならここで自分も素直になるべきなんだろうが、悪戯心が芽生える。
「どうも。じゃあな、バーンズ」
バッキーを置いて扉に向かって歩き始めると焦った声に呼び止められる。
「えっ
……
お、サム!」
「なんだ?」
ゆっくり振り向いて首を傾げた。
「今日、帰ってもいいか?」
「ご自由に。くれぐれも〝俺の〟家に来てくれるなよ」
重い扉を開いて部屋を出る。扉が閉まる直前、絶望的な顔をしたバッキーと目が合った。バタン、と閉まって笑みが溢れる。
「しばらく反省してろ」
息を吐くのと同時につぶやいた言葉はきっと誰にも届いていない。それでもサムは満足気に微笑んでS.H.I.E.L.D.の基地を後にした。
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