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来羅
2025-05-18 00:00:00
4256文字
Public
グオメ
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彼とカレとかれ(双子アジ)
双子AU。(アンソニー+クロウリー)→アジラフェルです。まだ恋愛未満。
「だから、その、付き合ってみようと、思うんだ」
長々とした話はその言葉で幕を閉じた。
まさに青天の霹靂。寝耳に水。
ポカンとした顔を見合わせて、アンソニーとクロウリーは頭を抱える。
いったいどういう思考回路を辿ればその結論に至るのか。アジラフェルの言動はいつだって突拍子もない。けれどもだからこそ、この幼馴染は面白い。
はぁ、と呆れたため息をついたクロウリーに、アジラフェルは僅かにぴくりと肩を揺らした。
その『相談』をふたりにしてくる時点で、アジラフェルだよなぁとアンソニーは思う。
「つまり。付き合ってほしいというラブレターをもらったから、どんな男かわからないけど付き合ってみることにした、という話で合ってるか?」
クロウリーが淡々と話を要約してみせたが、その声音は怖い。聞き慣れたアンソニーですら、オイオイと言いたくなる声はアジラフェルを萎縮させるには十分だった。けれどもそこはやはりアジラフェルで、怯えたくせに大きく頷くのだから困りものだ。
「アジラフェル、お前」
「まぁまぁ、落ち着け、相棒」
「黙れ」
怒らせる肩を組んで引っ張れば、クロウリーがますます顔を顰めて睨む先をアンソニーに変えた。この双子の弟は短気なのが玉に瑕なのだ。
「ねぇ、アジラフェル」
けれどもにっこりと笑ったアンソニーに、クロウリーの方が鼻で笑った。
一見すると短気で取っ付きにくいクロウリー。
対して笑顔を絶やさない温和なアンソニー。
誰もがそう認識している。誰もがわからない。
笑顔の下のじとりとした怒気がわかるのは世界でも二人だけだった。
すなわち、クロウリーと。
「ええと、あの、アンソニー
……
」
心持ち後退りしたアジラフェルが顔を強張らせる。
ああ、だからこの手を離せないのだと目を細めるアンソニーと、クロウリーはきっと同じ気持ちだ。
「ちょっと、俺たちとお話ししようか?」
一卵性双生児であるアンソニーとクロウリーがアジラフェルという幼馴染を得たのは五歳のときだった。
仲良くしてあげてねと親に引き合わされたとき、まるで天使のような容姿と愛らしい笑みにふたりして息を呑んだのを覚えている。
しかしながらアンソニーとクロウリーはその地域でも有名な悪ガキだ。いくら天使に目を奪われたとしてもすぐに打ち解けたわけではなかった。快活なアンソニー、機知に富んだクロウリーに対しておっとりとして頑固なアジラフェルはとても話が合うタイプではない。そもそも外で遊ぶよりも家の中で本を読むことの方を選ぶアジラフェルとは、その後も会おうとしなければ会うこともない存在だった。
「なんだっけ、あの天使」
「アジラフェル?」
「そうそう、アジラフェル。誘ってあげてって」
「誘っても、断るのアイツだろ」
そんな会話を何度したかしれない。
ふたりにとって、アジラフェルはちょっと不思議な、言ってみればあまり関わり合いたくないタイプだったのだ。
だから悪ガキとしては揶揄いの格好の対象だとふたりは思った。
「スイッチしよう!」
「またかよ」
目を輝かせるアンソニーに、斜に構えたクロウリーだが、実のところそう嫌がっているわけではないのはわかっている。こういうときに双子は便利だ。
黙っていれば利発そうな双子は見た目だけはそっくりで、日頃わかりやすいようにアンソニーは前髪を下ろし、クロウリーはオールバックに撫でつけている。
それを、朝起きたときにこっそり髪型を交換するだけで、驚くほど皆が騙されるのを、ふたりは得意になっていた。アンソニーはクロウリーの、クロウリーはアンソニーの、ちょっとした真似をするだけで、彼らの親ですら見分けられない。名義上はアンソニーが兄でクロウリーが弟となっているが、どっちがどっちだったのか理解できていなかったのではないかと思っているくらいだ。
アンソニーの提案はいつものことだった。
呆れるほどに誰もアンソニーとクロウリーとを判別できない。
どうせ、とクロウリーは言いかけて言葉を切った。
たぶんね、とアンソニーも少しだけ寂し気に返す。
誰も自分たちのことをわからない。誰も理解しない。
それはふたりの自慢でもあり、アイデンティティでもあり、そして胸の中を隙間風が通るような言葉にしにくい心地を連れてくることでもあったのだ。悔しいことに。
「やぁ、アジラフェル!」
前髪を下ろしたクロウリーがいつにない笑顔で片手を上げた。後ろをついて歩くアンソニーはいつもより見えやすい視界をわざとナナメ下に向けてつまらなさそうな顔をする。
答え合わせはしてもいいし、しなくてもいい。
黙れされたと怒りだす人もいるから、あとでふたりきりになったときに笑えれば、それでもよかった。
けれども、大きな瞳をぱちりと瞬かせたアジラフェルはこてんと首を傾げて言った。
「ふたりとも、どうしたの?」
「なにが?」
「いめちぇん?」
「いめちぇん??」
「ええと、いめーじちぇんじ」
「なんだ、それ」
「本で読んだんだけど、いつもと違う格好をすること、かな」
だってふたりとも交換こしてるんでしょ?
あどけない笑顔に、ふたりして言葉を失った。
「クロウリー、アンソニーの真似が上手だ!」
ふふと笑うアジラフェルは、呆けた顔のクロウリーの両手を掴んで揺らしている。
「お、俺は、アンソニーだ」
「え、クロウリー、そういう遊びなの?」
「いや、俺は」
「クロウリーだよ」
ね、と後ろにいるアンソニーに同意を求めるアジラフェルに、クロウリーの振りをするアンソニーは頷くこともできない。そうしているうちにアジラフェルはひとりで勝手に納得したのか、右手でクロウリー、左手でアンソニーの手をそれぞれ繋いで今日はふたりと一緒に遊ぶよと天使みたいな笑顔で言った。
それからのちも何度かスイッチしたふたりだが、アジラフェルはどんなときでも、決してふたりを見間違うことはない。
「
…………
アイツ」
「うん、すごいね」
本当に天使なのかも、とアンソニーが言えば、クロウリーは顔を顰めつつも小さく頷く。ふたりのアジラフェルへの見方が変わったのはそれからだ。
大切な仲間。唯一無二の親友。
それがふたりにとっての『特別』になるのは時間の問題だった、のかもしれない。
「話す相手が俺たちしかいないことの何が問題なんだ」
クロウリーはずっと不機嫌な顔を隠しもしないでアジラフェルに詰め寄った。
アンソニーは、アジラフェルを見る彼の瞳の奥に隠しきれない熱を見つけた日のことを忘れられずにいる。珍しく暑い夏の日だった。じとりとまとわりつく汗と、その熾火のような熱に、体の奥底から焼かれるような衝撃を覚えた。
そうか、そうなのか、と妙に素直に納得できたのは、アンソニーもまた身に覚えのある感情だったからだ。
「アジラフェルは俺たちといるのに飽きた?」
ちょっとだけ眉尻を下げたアンソニーに、アジラフェルが怯む。
毎日、どんなときも、いつだってふたりと一緒にいて、私には他に話す人もいないのでは? というアジラフェルの今さらながらの疑問は、見ず知らずの他人からのラブレターによってさらに大きくなってしまったらしい。本当に、今さらだ。
それのどこが悪いというクロウリーには全面的に賛成するし、本音を言えばこのままアジラフェルを閉じ込めて誰にも見せたくないくらいなのに、アジラフェルだけがそれをわからない。
「俺たちのこと嫌い?」
実に悲し気に言うアンソニーに、クロウリーがしかたがないとばかりにゆるく首を振ってため息をつく。
「他の男の方がいいんだろ」
その不貞腐れた顔の援護射撃は、アジラフェルの良心をいたく揺さぶった。
「そんなことないよ! 私は君たちのことが大好きなんだから!」
案の定、全否定してくれたアジラフェルに、内心にんまりとしながらアンソニーは続ける。
「それなら、そんな誰だかわからない男とより、俺たちと一緒にデートしよう、アジラフェル。ほら、前に行きたがってた
……
クロウリー、どこだっけ」
「カフェ・イン・ザ・クリプト」
「そうそう、そこ。行こうよ」
「いや、それは、行きたいけど」
「今はアプリコットのケーキらしいぞ」
「
……
アプリコット」
「ローストチキンもあるってさ」
「
…………
ローストチキン」
「ね、アジラフェル」
「アジラフェル」
にこりと笑ったアンソニーと少しだけ口角を上げて目を細めるクロウリー、の間でアジラフェルが左右を交互に見やって困った顔でふたりの袖を掴む。その顔もまた実に可愛らしい。視線をそっと逸らしたクロウリーが薄っすらと耳の先を赤くした。兄としてはそんな弟もまた可愛いのだが、仲間外れは遠慮したい。
「それにアジラフェルにはクラスで仲が良いって言ってた女の子たちがいたじゃないか」
「ニーナとマギー?」
「彼女たちは、友達だろう?」
「もちろん」
「じゃ、俺たちしかいないってことはないじゃないか」
「そう、
……
なの?」
「そうだよ」
畳みかけるように言えば、戸惑う瞳がまたアンソニーとクロウリーの間で揺れた。
「だから」
「これは没収な」
アジラフェルの膝の上にあった手紙をアンソニーが取り上げて、クロウリーに渡す。このあとふたりで『丁寧に』お断りの挨拶をしに行く予定だ。
アジラフェルは知らない。
これが初めてではないことを。
アンソニーもクロウリーも言うつもりはない。
まだ知らなくていいことだ。
「で、カフェいつ行く?」
「アンソニーが奢るって」
「言ってないけど!?」
じゃれついていたら、呆れたように肩を竦めてアジラフェルが苦笑した。
「もう、君たちは」
続く言葉は「しかたがないなぁ」なのか。「いつまでも子供なんだから」なのか。
言葉を切ったアジラフェルは口にしなかったけれども、いずれにしろ、今はせいぜい手のかかる双子をあやしていてもらわなければと思う。
見れば、クロウリーも同じことを思っているのか、素知らぬ顔でそっぽを向いていた。
その手はアジラフェルの右手を取っていて、アンソニーも倣ってその左手を取る。
「アジラフェル」
この手は絶対に離さない。
けれどもまだその意味を告げるのは少しだけ先の話だ。
だから今は、これだけで。
「俺たちと一緒にいよ?」
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