三毛田
2025-05-15 17:19:25
1067文字
Public 1000字3
 

93 03. 甘い抱擁

93日目
甘いのは俺にだけ

「丹恒。行ってきます!」
「ああ。気をつけて行ってこい」
 腕を広げると、躊躇うことなく抱きしめてくれて。
「ヴェルトさんは」
 なんて、俺を抱きしめたまま隣のヴェルトを見上げ。
「丹恒と穹が構わないなら、俺も抱擁してもらおう」
 体を離し、数秒見つめ合って。一度ぽんぽんと背中を叩いて、どうぞ。と小さく。
「気を付けて」
「列車のことは頼んだ」
「はい」
 俺よりは短い抱擁を、二人は交わし。ヨウおじちゃんと共に、依頼を片付けに向かう。
「丹恒は、穹に甘いな」
「わかりやすい?」
 集めた情報を整理しようと、食堂へ。こういう場所でも、追加の情報を得られるから大衆食堂のような所のほうがいいと。
「ああ。それに、お前と抱擁したりした後だと機嫌が良いみたいだ」
「そんなに? 俺は気づかなかったけど」
 ナントカ野菜の彩りパスタをフォークに巻き付け、口へ。
 付け合せ――どちらかというと、こちらのがメインにも思える――のハンバーグは、列車で食べるものよりちょっとだけ肉汁が多い。
 美味いか不味いかで言えば、美味い方。
……
 ヨウおじちゃん、さっきから色々な人に声をかけられているな。ほとんど女の人だけど。
 その声がけを爽やかにかわしている。俺では真似できない。
「宿に戻ろう」
「うん。ご馳走様でした!」
 こういう場所は、食べ終えたらさっさと去るのがルールらしい。パムのご飯と比べるとランクは下がるけど、それなりに美味しかったのでカウンターにチップを置いていく。
「俺は得た情報を元に、色々考えることがある。お小遣いを渡すから、好きに市場を歩いてきなさい」
 小銭と一緒に、メモを渡された。
 くしゃくしゃだったメモを広げると、かろうじて読める文字。
「丹恒だな」
 急いでいたのか、悪筆だ。でも、それすらも愛しい。
 指定のお店でメモを見せたら、俺よりも早く読めたらしく、すぐに品物を用意してくれた。すごく複雑。
 殆どが薬草のようだが、何に使うのかよくわからないものも一緒に有り。
「丹恒に聞けば教えてくれるかな」
 しっかりと荷物を抱きしめ、宿へ戻る。
「おかえり」
「ただいま。どう?」
「明日から本格的に動くことになりそうだ」
「姫子たちも呼ぶ?」
「いや。二人でなんとかするさ」
「駄目だったら、早く呼ばないと」
「お前に言われずともわかっているさ」
 子供扱いのように、頭を撫でられた。
 でも、ヨウおじちゃんに撫でられるのは嫌じゃない。
 丹恒に対しては俺が撫でてあげたい気持ちのほうが強かったり。