彼方
2025-05-13 05:22:19
3011文字
Public お題箱より
 

【007】タテマエとホンネ(全年齢)

【いただいたお題】
大人になった葦くんが梟谷に来た理由を木兎さんにカミングアウトするお話を読んでみたいです。
2025/04/30 13:43:41:にいただいたお題より
をアレンジして書きました

『スターだと思った』をたまたまbktさんに打ち明けるハメになるakasの話
bkakに巻き込まれるknhが好きすぎる…🙏



 タテマエとホンネ

「赤葦はさぁ〜、なんで梟谷だったの?」
 もう何杯目なのか数えるのをやめた生のジョッキをゴトンと座卓に置いて、木葉が言った。どう見てもベロンベロンに酔っぱらってるし、完全な絡み酒だ。木葉がこんなになるのは珍しいなあと思いつつ、その話に興味があった俺は話を振られた側の赤葦の方をチラリと見た。
 ちょっとだけ残った枝豆を片づけつつ締めのおにぎりの具で迷ってた赤葦は、自分に話が振られると思ってなかったのかメニューを片手に固まっている。
「え、俺ですか?」
「木兎はスポーツ推薦のスポーツクラスだったからまあ特待みたいなもんだとして、お前普通に進学クラスだったろ? なんでかなーとふと思って」
 木葉が注文タブレットに入れたウーロンハイを赤葦がこっそり烏龍茶に変えてたけど、俺は見なかったことにした。酔った木葉は面倒くせえからな、送りになったら赤葦と二人で過ごす時間が減っちゃう。
「まあ……俺もいちおう推薦もらってたんで」
 推薦組でまとめられてた1組の俺と違って、赤葦は3年間進学クラスだった。入学直後から練習に来てたからスポーツ推薦だったのは知ってたけど、それ以外になんで梟谷を選んだのかよく考えたら俺も知らないや。
「雀丘と梟谷で迷ってて、推薦もらってたんで梟谷かなって」
「フツーの答えだな、塩対応……
「え、志望動機なんてそんなもんじゃないですか?」
「相変わらず優等生だなあお前。でもさ、なんか言ってたじゃん入部直後に〝スター選手〟とかなんとか」
……そんなこと言ってましたっけ俺?」
「ほら、木兎に自主練付き合わされてへろっへろになってたころだよ」
「あ、来ましたよ木葉さんのやつ」
 烏龍茶を木葉に渡し自分はさっさと鮭おにぎりにかじりついて、赤葦は澄ました顔でもぐもぐしてる。口にものが入ってる間は絶対にしゃべらないからな、こいつ。
「なんだよー教えろよー、ってこれ烏龍茶じゃねえか……
「木葉もうそんぐらいにしときなよ、明日一限からって言ってなかった?」
「4年なのに再履修1個だけ残ってて、よりによってそれが一限……
「赤葦がおにぎり食べ終わったらお開きにしよ、まだ終電間に合うから」
「なんだよーぼくとぉ……いつの間にそんな面倒見良くなったんだよ」
「そりゃガチ運動部の飲み会で先輩たちからいろいろ教えられてきたからなあ……
 オツキアイとかタテシャカイとかセンパイを立てるとか、めんどくせえなと思うことの方が多いけど、飲み会をたくさんこなして知ったこともたくさんある。急性アルコール中毒は死んじゃうし、ベロベロになるまで飲ませたら危ないし、ひとりで帰れるぐらいの飲み方がちょうどいいってこと。
「木葉さん、あったかいお茶もらったんでこっちも飲んどいてくださいね」
 文句を言いつつ烏龍茶をがぶ飲みする木葉を見つつ、俺は注文タブレットの〝ワリカン計算〟で金額を出す。そんな俺をフォローするように赤葦はスマホで木葉の終電をチェックしていて、木葉はひとりグズグズ一限への文句を吐くのだった。

 ◇◇◇

「で、赤葦はなんで梟谷だったの?」
「えぇ……まだその話題続いてたんスか……
 俺の部屋に戻ったあと交代でシャワーを浴びてそのまま酔った勢いでベッドにもつれ込んだあと、すっかり酔いの醒めた俺はあらためて赤葦に木葉と同じ質問をしてみた。結局最後まで聞けてないから、ずっと気になってたんだよね。
「スターがどうのって」
 俺の横で枕を抱きかかえたままグッタリする赤葦が、はぁーっと長い長いため息を吐いた。赤葦はうまく逃げたつもりみたいだけど、ちゃーんと覚えてたもんね。
「まだどっちか迷ってた時に、見たんですよ……アンタの試合」
「初めて聞いた!」
……初めて、話すんで」
 赤葦は〝あんまり言いたくないオーラ〟をめちゃくちゃ出しつつ、ぽつぽつと言葉を続ける。たぶんこれはふざけて聞いたらダメなやつだ。
「正直、中学の時はそこまで熱心にバレーやってたわけじゃなくて」
 ひとつずつ思い出すみたいに、赤葦は言葉を区切る。俺は赤葦の口から次の言葉が出てくるまで、じっと待ちながら、赤葦のまだちょっと濡れている髪を撫でている。
「言われたことをするのは全然苦じゃなかったけど、別に楽しくはなかったんですよ正直」
「そっか」
 俺の知ってる赤葦は最初あんまり楽しそうじゃなかったけど、一緒にプレイするうちにあんまり気にならなくなっていったから、あらためて聞かされるとそうだったんだーって思う。
「でも、ものすごく楽しそうに……っていうか、喜怒哀楽をめいっぱい出してバレーボールをするアンタを見て、なんかこう……思ったんです、いいなって」
 バレーが大好きな俺にだって、バレーが楽しくなかった時期はあった。でも赤葦がいいなって思ってくれてたんだったら、それはたぶんいいことだったんだろう。
「えへへ」
「まあ、そんな感じで梟谷に入ったんですけど、入ったら入ったでアンタはめちゃくちゃなひとだったんで……
「入っていきなり自主練に付き合わせて、赤葦へばってたっけなあ」
 先輩セッターは嫌がって付き合ってくれないし、木葉だって毎回トスをあげてくれるわけじゃない。新しく入ってきたセッターやってた後輩を自主練相手に誘うのは、自然なことだろって今でも思ってる。
「アンタのちょっとは、ちょっとじゃないんスよ……
 今日だって、と唇を尖らせる赤葦にゴメンって謝って、俺はまた赤葦の髪を撫でた。ネコが喉を鳴らすみたいにうぅんと赤葦が唸って、ぷいと横を向いてまたポツリと呟く。
「まあ、嫌だったらあんなずっと付き合ってませんし」
「俺と?」
「自主練に、です」
 まあ実際に俺たちが付き合い出したのはもうちょっと後のことだったから、あの時は自主練に付き合ってただけ、だなあたしかに。
「で、スターがなんだって?」
 木葉の言ってた〝スター〟がなんなのか。赤葦はあんまり言いたくなさそうだけど、ここまで聞いちゃったら全部聞きたいじゃん。横を向いたままの赤葦の耳たぶがじんわりと赤くなる。熱っぽい耳たぶをふにふにしながら続きをねだると、赤葦は消えそうな声で言った。
「スターだと、思ったんですよ……アンタのこと」
「俺?」
「そうです。スター選手だ、って」
 俺は梟谷のエースで、赤葦のエースで、大学でも普通のエースになって、赤葦の彼氏にもなった。そして今もう一個増えた。〝スター〟っていう呼びかた? いいなあ、なんか特別って感じで。
「もういいでしょ、この話は」
 耳たぶだけじゃなくてほっぺたまで赤くして、赤葦は枕に顔を埋めてしまった。たぶんこれ以上突っついたら朝まで口きいてもらえなくなっちゃうから、俺はそこで話を切り上げて赤葦の隣に潜りこむ。
「へへ、スターかぁ」
 俺が口の中でスタースターと呟いてたら、拗ねた赤葦が掛け布団を奪って丸まってしまう。さすがに布団無しじゃあまだ寒い。
「ごめんって、あかあしぃ」
「知りません」
 狭いベッドでぎゅうぎゅうになりながら、俺は赤葦を背中から抱きしめる。布団はまだ返してくれそうにないけれどますます赤くなっていく赤葦のほっぺたはすごく熱くて、俺はそんな可愛い赤葦にごめんなさいを言い続けたのだった。

 2025.5.13