三毛田
2025-05-12 15:39:20
1066文字
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90 10. 切なくて苦しくて

90日目
それでも、君の前ではすべてがかすむ

 初めて知ったその感情は、想定よりも切なくて苦しくて。
 それと同時に、己だけを見てほしいという独占欲と、すべてに触れたいという欲もふつふつと沸き上がってくるのを感じ。
「はあ……
 醜く歪んだこの感情に名前をつけるのならば、なんなのだろう。
「愛であり、恋だ」
「いやいや。愛とか恋って、もっとこう、甘くて優しくてってイメージなんだけど」
「マイフレンド。君は愛憎表裏という言葉を聞いたことはあるかい?」
「ううん」
 珍しく非番であるというアベンチュリンから連絡が来て、夢境で合流。彼の奢りだと言うので、カフェに入って少しリラックスしたところで相談。してみたら、そう言われ。
「言葉のとおり、愛と憎悪は表裏一体であるということだ。〝可愛さ余って憎さが百倍〟というものもある。相手が可愛すぎて愛しすぎて仕方ないけれど、一度でも憎く思ってしまえば、可愛く思っていた頃と同等の強さの憎いと思う感情を抱くということ」
 何となく分かるのだけれど、いまいちピンとこない。
「お前も、そう思う時があるのか?」
「さあ。どうだろうね」
 はぐらかされた気がするけれど、彼はそういう人間だ。
「恋心だって、度が過ぎれば執着などへと変貌していく」
「なるほど」
 〝彼〟へ抱く感情は、愛でもあるし恋でもあるのかもしれない。けれど。
「多分、憎しみは抱かないと思うんだ」
「何故断言できる?」
 すっと目を細め、探るような視線を。
「抱く前に、俺が手に掛けるかも」
 なーんて。
 なんとなくだけど、執着のほうが強くなりそうだ。
「君は時々突拍子もない事を口にするね」
「そうか? まあ、俺はそういう人間だって思っててくれればいいよ」
 サンデーのアイスをスプーンで掬い、口へと運ぶ。
 アベンチュリンが複雑そうな表情をしていたのは、見て見ぬふりをしておいた。
「丹恒、ただいま〜! べふっ」
 列車に戻り、丹恒に飛びつこうとしたら、顎に水流を食らった。クリティカルヒットだよ。
 流石丹恒先生。
「楽しかったか?」
「ううん。相談聞いてもらっただけだから」
……そうか」
「妬いた?」
「少し」
「嬉しい」
 恋人でもなんでもないけれど、〝親友〟である彼が他の人と会うことに妬いてくれるのがすごく嬉しい。
 愛情も恋心も同時に抱いているからかもしれないが。
 切なくて苦しくて、どうにかなってしまいそうだった感情も、彼の小さな嫉妬の前では無意味でしかないのだ。
「丹恒」
「どうした」
「好き」
「ああ。俺も好きだ」
 優しい声が返る。