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柄
2025-05-12 00:01:11
2993文字
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きみはきっと、こいしてる③
さくっと!おわり! あとエピローグがくっつく
息が苦しい。ぢゅう、と舌を吸われる。口内を弄るそれがエメトセルクの舌だ、と気付いてから噛みつくわけにもいかず必死に鼻から呼吸をしようと喘ぐことしかできない。じわりと視界が潤んでクラクラしてきたところでようやく離される。
荒い呼吸をいくつか繰り返しながら、ぼんやりともしかしてこれ、キスされた?と考えつく。エメトセルク、と呼ぶよりも早くローブの胸元の留め具が外されてアゼムは短い悲鳴をあげた。
「な、なにしてんの!!」
「お前が」
履いた息が鎖骨をなぞる感覚に身体が震える。のしかかる重さから漂うアルコールの香りに、もしかして思ったより酔ってるのかも、と思い至って、どうにか抜け出そうともがいてみる。しかし舌打ちと共にエメトセルクは鎖骨に唇を寄せ、噛み付いてきた。
「いっ
……
」
溢れた悲鳴は無視される。そのまま噛み付いたそこに湿った暖かいものが這っていく。そのまま胸のふちのやわいところに吸い付かれて、もうずっと何をされているのか理解が追いつかない。
「ねえ! ちょっと!!」
エメトセルクが掴む手から逃れようと力を込めても、不意に服の下に忍び込む手に驚いて力が抜けてしまう。まってほしい。本当に。
「エメトセルク、ねえどうしたの本当に」
もう一度重ねて名前を呼ぶ。エメトセルクはアゼムの首筋に顔を埋めると、ゆっくりと息を吐いて体重をかけてきた。
「
…………
お前が、愛されたかったのだと言ったんだ」
心臓がぎゅう、と苦しくなる。そうだよ。君に、愛されたかった。けれどもそれは決して表に出せない願いだ。
「そうだよ。でもいくら君が優しいからって親友にそんなこと求めないよ」
大丈夫だよ、と笑ってやりたいのに、アゼムの服の裾を掴んでいた手が不意に魔力すら込めて強く引いた。あっけなく留め具が弾け飛んで胸元がさらに開かれる。ちょっと!と蹴り上げようとした足にエメトセルクの足が絡まってうまく動けない。
「
…………
やはり、お前にとって私はどう足掻いてもそうはならない」
不意に手が離されて、代わりにエメトセルクがきつくきつくアゼムを抱きしめる。空いた手を隙間に潜り込ませて剥がしたいけれども、あまりに状況がおかしくてアゼムは固まってしまった。
「そうって、なに? ねえ、エメトセルクってば」
「ここまでやっても、お前は私に襲われてるとすら思わないんだな」
襲われてる。それは確かにそうだ。襲ってもらってるようなものである。アゼムが愛されてみたい、なんて言い出したから、優しい彼のサービスなのだろう。
そう、思って。
けれどもふと、思い直すのだ。彼と言う人は、いくら優しいからってこんなことをするような人だろうか? だって、彼は規律に厳しいし、真面目な人だし、こんなふしだらなことを関係も無しに友愛だけでするのか? それは、アゼムの知るエメトセルクとは随分と違う。心を許した友人にはとびっきり甘いけれども、それでも、こんなこと友人にするような人ではない。
「何が、こんなふうに愛されてみたいだ。どれほど私が優しくしようとも、触れようとも、熱を分ける距離を許そうとも。お前はそれを愛と受け入れてくれない」
吐息が首筋に触れた。アゼムは目を丸くして聞こえてきた言葉を認識しようとする。
まるで、不思議なことを言うものだ。言葉選びが下手になってない?
それじゃあ、まるで。
名前を呼ぼうとして掠れた吐息だけしかでなかった。そんな様子にエメトセルクは苦し気に言葉を吐く。
「ずっと、ずっと。大切に大切に愛そうとしても。お前は私にだけはそれを求めないし、気付きもしない。
……
お前は、何をやったって友愛としか思わない」
唇が不意に首筋の柔らかいところに触れた。ほんの少しの違和感と痛みと共に離れて、その横を淡く噛みつかれる。しかしもうそれを拒絶する力はほとんどなかった。それよりも! 今! この人!!
「あ、の
……
っ、エメトセルク!」
「静かにしていろ。何を言っても、何をしても、お前は何も理解しない。
……
それでも、どうにも思わない相手にそれを求められるのは、許せない」
唇が下がって、胸の淵に触れる。顎を髪がくすぐって喉が鳴った。
「求めるのならば、私にしろ。私にだけ、求めればいい。これから先、そうなるように、私は」
「ハーデス!!」
とっても、思いつめてしまっている。けれどもそれはきっと、アゼムが見えなかったエメトセルクの感情のせいで、こうして見えたそれが理解してしまった通りならば、少し、少しばかり、待って欲しい。ちゃんと、確認させて欲しい。必死にアゼムはエメトセルクに縋る。
「今めちゃくちゃ理解しちゃったから! 待って!」
お願い、と縋る指先にエメトセルクが息を吐いた。逃げようとする動きとは違うのに気付いたのか、少し体を起こすと睨みつけるようにアゼムを見下ろす。
「今更何を理解したと言うんだ。何をしたってお前は、私をそう見なかった」
どこか悲しみを讃えた瞳はそれでも熱で揺らいでいる。ああ、でも。でも。
「ひとまず、ぎゅって優しく抱きしめて」
「は?」
エメトセルクの口がぽかりと開く。アゼムはエメトセルクの首に手を回すとそっと招き寄せる。
「優しく抱きしめるだけだよ」
アゼムの言葉に焦りやそう言ったものがないのに気付いたのだろう。戸惑いながらもゆっくりと腕がアゼムに回って絡みつく。じわりと滲む熱に息を吐いて、あのね、とアゼムは囁いた。
「
……
優しく、愛されてみたかった」
「
…………
」
「好きな人に、だよ。ずっと、重ねてた」
びくり、とエメトセルクの体が震えた。少し強くなる締め付けに、アゼムはしがみついて答える。聞いて、ちゃんと。囁いて、名前を呼ぶ。
「酷い女だよねえ。ずっと、違う面影を重ねてたわけだよ。愛されてることを認識しながら、触れて欲しかった」
ハーデス、と呼んだ名前は少しぼやけてる。戸惑うような声で名前を呼び返されて、アゼムは小さく笑った。
「ずっと、ずっと」
ゆっくり息を吸い込む。うん。彼の匂いだ。この熱は、彼だ。
「君に、愛されたかった」
息を飲む音が響いて、そして。は、と息が溢れる音が響いた。
「なにを、言ってるんだ」
「だって、君は私のこと友人としてしかみてくれなくて、だから触れてみたりしてもなんら反応ないし、気兼ねなく隣を許してくれるんだと」
「
……
そんなこと、あるわけない。私がどれだけお前に尽くそうとも、友愛としてしかお前は、」
「わかるはずないじゃん! 何も言ってくれないんだもん! それならさあ、私がアピールも兼ねて抱きついたりじゃれたりしてみても! 君だって友人の顔しかしなかったくせに!!」
とつん、と背中を叩いてやれば、ぎゅう、と痛いほどの強さで抱き込まれる。それが嬉しい。与えられる熱を、触れる意味を。ちゃんと、わかってる。
「
…………
アゼム」
声の温度が変わった。ん、と返せばエメトセルクの唇がアゼムの頭をくすぐった。
「
……
言えば、唯一にしてしまっていいのか」
この期に及んで、と思わず頬を膨らませてしまう。焦ったい!
「はやく言って!」
ずっと、ずっと。望んでいた。ただ、一つ。
「
……
お前を、愛している」
ただ、好きな人に愛されたかった、それだけなのだ。
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