杏夏
2025-05-11 19:01:32
5072文字
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【創作の闇と光と混沌と】

スパコミで無料配布したペーパーです。
レイ+サシャ、アノ+ミシャ、ミサ+ファンユニオンのコメディ

 放課後、サーシャはレイとともに教室に残っていた。二人に何か用事があったわけではなく、それぞれミーシャとミサが人に呼ばれて行ってしまい、手持ち無沙汰に教室に残されたのがこの二人だったのだ。
 サーシャは早くも居眠りを始めようとしているレイを見て、彼の恋人を連れて行った賑やかな一団のことを思い返した。
「あなたって、あの子たちにも動じないわよね」
 ミサを連れていったのはファンユニオンだ。ファンユニオンはアノスに大して並々ならぬ執念や妄想を走らせているが、アノスだけではなく近くに居るレイが巻き込まれていることも多い。アノレイやらレイアノやらが聞こえていないわけではあるまいに、それに何か反応をしているところを、サーシャは見たことがなかった。
「まあ、ああいうのには慣れてるからね」
「慣れてる!?」
 目を開けて、レイは事もなげに言った。そして、間髪入れずに響いたサーシャの叫びに苦笑する。
「二千年も生きてると色々あるからね」
「それはそうかもしれないけど……
「特に名が知れた過去があるとね……。あることないこと言われるし書かれるし、それも有名税だって飲み込むことが当たり前みたいに言われるから、こっちからは何も言えないし。それで噂を鵜呑みにした人に凸されたり」
「勇者の名声って、そんな芸能人みたいなものなの!?」
「まあ僕の場合は、カノンの死後は別人として振る舞ってたから、抗議する権利はないんだけど。色々忙しくて、そんな暇もなかったしね」
……
「でも最初に勇者カノン女体化ものを見つけたときは、流石に色んな意味でショックだったな……
「゛えっ!?」
「なまじ肖像画が残ってるものだから、イラストや漫画作品は自分に似てるものが多くて複雑だったよ。小説ならそこまで気にならないんだけど」
「ちょっと待って、読んだの!?」
「あの頃は僕も若かったから……。今なら読まない方がいいと断言できるんだけど、確認したい気持ちが抑えきれなくて。読んだあと二時間くらい寝込んだかな」
「回復は早いわね……
 サーシャはもし自分が、自分を題材に好き勝手書いた本を見つけて、あまつさえ読んでしまったのなら一週間は寝込むと思った。
「魔王ものも結構見かけたよ。アノスの名前は残ってないから、アヴォス・ディルへヴィアだけど。のじゃロリ無知ものとか、くっ殺系とか」
「どういうことなのっ!? というか、くっ殺系は勇者(あなた)の担当じゃないかしら!?」
「性癖という点では、魔族よりも人間の方が多様で闇が深いかな。平和になって娯楽や芸術に時間を割けるようになって、本当に色々なものが登場したよ。ジェルガ先生も美魔女化してたし……。魔族にも色々な作品があるけど、やっぱり絶対数が多いせいか発想の豊富さは人間に軍配が上がると思う」
「ちょっと待って、気になる単語をさらっと混ぜないでちょうだい! 美魔女化!?」
「だから、アヴォス・ディルへヴィアが気品あるお嬢様系で本当によかったよ。どんな真体でもミサがミサであるなら愛する自信はあるけど、それはそれとして暴虐の魔王が年端もいかない幼女の見た目でのじゃ口調だったり無知なのに好奇心旺盛でやたら危なっかしかったり衣装が特に理由なく扇情的で布面積がやけに小さかったりしたら流石に一端を担っている身として居たたまれないからね」
「あなたそんな早口で」
 途中から息継ぎすらしなくなったレイに、サーシャは呆れればいいのか、同情すればいいのかわからなかった。
「まあそんなわけで、ファンユニオンの子たちは創作は創作として弁えているし、色々見てきた身としてはむしろ微笑ましい部類だよ」
「弁えているかしら……? あれで……? もしかして本当はもっと凄いもの知ってるんじゃ……。レイあなた、本当は一体何を見てきたのよ?」
…………知りたい?」
「いいえ、やめておくわ!!」
 レイが口を開くまでの沈黙に、嫌な予感がしたサーシャは全力で拒絶した。
 世の中には、知らない方がよいこともあるのである。

※レイさんはこれでも全年齢ペーパーとして(そして未成年のサーシャに)配慮した会話をしています。



◇一方その頃 その一
 ミーシャはアノシュとともに魔王学院の廊下を歩いていた。日直の提出物があったミーシャと、メルヘイスに用があったアノシュは共に職員室に向かい、そして教室に戻るところだった。
 ミーシャがぽつりと口を開く。
「アノシュは心が広い」
「そうか?」
 ミーシャが何のことを言っているのかアノシュには心当たりがなかった。アノシュは疑問を浮かべながら、隣を歩くミーシャを見上げる。
「ファンユニオンの子たちの創作にも寛容」
「なに、あれくらい可愛いものだ。二千年前は俺の魔法写真や絵に針を刺したり首を切ったりしたものや、俺が無惨に死ぬような呪詛の文言等が至るところにあった。多くは魔法ではない、ただの願掛けのような呪いだったがな。それに比べれば、好意からの創作は微笑ましい」
 ミーシャが足を止める。
……悲しかった?」
「そうされるだけの業は負っている。俺を呪って少しでも気が紛れるなら、それでよい」
 ミーシャが立ち止まったことで、アノシュが一歩先行していた。その距離をミーシャがすぐに詰め、アノシュの目の前にしゃがんだ。
 ミーシャはよしよしとアノスの頭を撫でる。
「アノシュはやさしい。でも、嫌なことは嫌と言っていい」
……くはは、俺は嫌なことを耐え忍んだことなどないぞ。だが、ありがとうな」
 アノシュはミーシャの気遣いをありがたく受け取って、微笑んだ。こそばゆくはあるが、こういったものは素直に受け取ってよいのだと、アノシュは平和な時代に学んだのだ。
「本当に嫌じゃない?」
「本当だ」
 ミーシャはアノシュをじっと見つめた。やがてほっとしたように小さく笑みを溢す。
 立ち上がって歩みを再開すると、ミーシャはまたぽつりと言った。
「よかった。なら、わたしも参加する」
「何にだ?」
「魔王創作オンリー交流会。ノノに誘われた」
「俺の創作? ファンユニオンがたまに作っている薄い本のようなものか?」
「それもある。本でも絵画でもいいし、人形やイメージアクセサリーを出す人もいる。それを売買したり、展示したりして、創作の輪を楽しむ会」
「ミーシャも何か創るのか?」
「わたしは魔法模型を展示するつもり」
「ふむ」
「会場申請と催事内容に許可は下りていると聞いたけど、アノシュが無理をしているんじゃないかと思って、少し不安だった」
「ディルヘイドは他者に危害を及ぼすものでない限り、言論の自由と集会・結社の自由を保障している。俺が直接許可を出したわけではないが、問題はないぞ」
「ん。アノシュがいやがってないのがわかったから、わたしも頑張って作る。アノシュも見に来る?」
「興味はあるが、俺が参加しては萎縮しないか? 飲み会に上司が参加するようなものだろう」
 ミーシャは微笑んだ。他者の楽しみを否定も邪魔もしないアノシュは、やっぱりやさしい。
「コスプレ参加も多いから、こっそり来れば大丈夫」
 迷いなく言い切るミーシャに、アノシュは少し考え、そして頷いた。
「こっそりか、それなら得意だ。なら参加させてもらうとしよう」
 ミーシャは内心で 「得意……?」と首を傾げたが、それについては何も言わなかった。代わりに、必要な情報を伝える。
「日付は来月の最初の土曜日。ミッドヘイズ中央会館で朝十時から始まる」
「一日だけか?」
……もしかして、何か知ってる?」
「確かその週末は、中央会館の使用申請を連続して同じ団体が入れていた気がしてな」
 アノシュに言葉にミーシャが顔を曇らせた。わずかに沈黙したあと、重そうに口を開いた。
……伝える気はなかったけど、わたしが参加するのは一日目だけ。本当は二日目もある」
「何故伏せようとしていた?」
「二日目は年齢制限がある。こっちは見るのをおすすめしない」
「ふむ。房事の類いの創作か」
 ミーシャははっきり言わなかったが、アノシュは内容を察した。ミーシャは小さく頷く。
「劣情を催すのは生物として当然のことだ。その対象が俺というのは理解しがたいが、まあ、そういうこともあるだろう」
「見ない方がいいと思う」
「性的嗜好や性癖を上司に見られるのは、確かに気まずいだろうな。見たことを勘付かせるような俺ではないが、そもそも干渉するのが野暮というものだろう。では一日目だけ参加するか」
「そうして」
 そういうことじゃない……、とミーシャは思いつつ、アノシュの結論にほっとした。
「今回は二千年前の魔族の参加も多くて、我が君の実録や年季の入った長編の発表も予定されてると聞いた。規模が大きいから屋台もあって、魔王イメージ料理や飲み物も企画されてる」
「随分、気合いが入っているようだ。楽しみだな」
「ん」

※ミーシャさんの観察眼と判断力は正しいので、当日の魔王様は何の問題もなく、交流会をこっそり満喫して楽しんで帰ります。



◇一方その頃 その二
「ミサーっ! お願いっ、漫画手伝って!!」
 エレンは帰ろうとするミサの腕を引っ張って両足で踏ん張っていた。
「無理です! だって、エレン今回の新作アノレイですよね!? 百歩譲って人の恋人で妄想するのはいいですけど、あたしに関わらせないでください!」
「じゃあっ、私の小説本の表紙描いて!」
「そっちのジェシカはシンアノですよね!? 何、人の父親描かせようとしてるんですか!」
「健全だから!! 全年齢だから!!」
「そういう問題じゃありませんっ! いや、二日目用の漫画手伝わせようとしてるエレンよりマシですけど!」
「じゃあじゃあっ、エールドメード先生とアノス様の、教師と上司物は!?」「アノス様の日常ほのぼの民視点はっ!?」「元皇族生徒によるアノス様に対して愛憎渦巻く恋愛劇!」「お願い、かきたいこと多すぎて、時間がいくらあっても足りないのっ!」
 どうにかミサを引き留めようとするエレンとジェシカに、さらに続々と助太刀が入る。
 八人に群がられているミサは、懸命に足を進めようとしていたが、埒が明かずに叫んだ。
「もーーっ! だからあたしも、真体のあたしがアノス様夢小説書くから、その挿絵で忙しいんですってば! 身体が足りないんです!」
「「「え……?」」」
 八人は思わず動きを止めた。その静寂に、ミサは「あっ、やっちゃった……」と言わんばかりの顔をした。直後にすっと片手を頭上に差し上げる。
 ミサの髪が伸び、制服が優雅なドレスに変わり、風もないのにふわりとなびいて裾が床に舞い落ちた。
「ばれてしまっては仕方ありませんわね。ペンネーム〈檳榔子ブラック〉とはこのわたくしのこと。わたくしの創作にわたくしが全力であたるのは当然のことなのですから、もう一人のわたくしを取られるわけには参りません」
 自分の創作内容をもう一人にばらされたミサは、羞恥で少々頬を赤らめていたが、それを誤魔化すようにいつも通り威厳と余裕たっぷりに微笑んだ。
 図らずも至近距離で大精霊の魔王オーラを浴びた八人は、固まった。しかし一瞬後には先程以上の勢いでミサに迫った。
「檳榔子ブラックさんって、まさか前回の会報に寄稿してくれた、あの!?」
「格調高く気品のある文体に、少女漫画のような甘さのある最高のアノス様夢小説の!?」
「まさか魔王様のミサが書いてくれてたなんてっ」
「しかもミサは元偽の魔王、つまり、それって間接アノス様じゃない!?」
「間接というかもはや直接じゃない!?」
「直接魔王様夢小説!?」
「そ、そんなっ、そんなのっ、死人が出ちゃうよっ!」
「三秒ルールで蘇って、また死んじゃう! 何度でも死んじゃうっ!!」
「「「し、死にたーいっ!」」」
「それなら、邪魔できないよっ!」
「うんうん……!」
 あっという間に変わった流れに、さしもの大精霊ミサも呆気に取られた。
 エレンは呆然とするミサの手を両手で握って、ぶんぶんと上下させる。
「何か、困ったことがあったら何でも言ってねっ!」
「え、ええ……
 そうして、ミサは「御本楽しみにしてまーす!」の声とともに解放されたのだった。

※ミサさんがファンユニオンということはヴォス様もファンユニオンということだと解釈しました。