ぐるさん
2025-05-11 00:03:33
4294文字
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5.10 ふみりかワンドロ【メイド】【嫉妬】

ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2025.5.10お題をお借りしました。

「理解、……カフェやろう」
「ふみやさん今何て言いました?」
「はいこれ制服。着替えてきて」
「は?」
「それじゃ、俺リビングで待ってるから」

 ふみやさんから突然謎の指示を受け、制服が入っているという紙袋を渡された。

 彼が急に何かやろうと言い出したり、準備を進めていたりするのは今に始まった事では無い。つい最近もラジオの台本を渡された位だし。

 果たして今回は一体何を思いついたのか。カフェがどうとか言っていた気がするが、発音がハッキリしなくてよく聞き取れなかった。これは、人と話す時はもっと分かりやすく、ハキハキとするよう注意をしないと!

 そんな事を考えながら、ふみやさんから渡された紙袋の中身を取り出した。
 
◇◇
 
「コラァーー!!」
「おぉ、流石理解」
「これは一体どういう事なのか説明しろ伊藤ふみや!!」

 私がふみやさんに渡された紙袋の中には、フリルが着いたカチューシャ、黒色のロング丈のワンピース、清潔な白いエプロン——紛うことなきメイド服が入っていた。

「何でカフェの制服がメイド服なんだ!!おかしいだろ!!」
「でも一応着てくれるんだ」
「理由はどうあれ一旦引き受けた事を勝手に辞めるのは秩序に反します。それはそうとしてこの服は何だ説明しろ!!」
「説明も何も、俺最初に言ったけど。メイドカフェやろうって」
「ハァーーッ!?」

 どうしてそんな大事な部分をちゃんと言わないんだこの人は!やっぱり人と話す時には分かりやすく、ハキハキと、ちゃんと相手の目を見ながら!改めて注意をしようとすると、おもむろにふみやさんが私に顔を近づける。

「やっぱ似合うな」
……は?」
「メイド服。依央利に作ってもらって正解だった」

 言われてみればこのメイド服、私の体型にジャストフィットしている。肩周りも足首まであるスカートの丈も、何一つ過不足が無い。問題は、これを着用するのが華奢でも小柄でも無い成人男性であるという事なだけで。

「そもそも何で急にメイドカフェなんですか……この間ラジオをやったばっかりでしょう……
「それはそうなんだけど、まだまだ次のシーズンまで時間ありそうだし、それだったら少しでも何かやっておきたいかなって」
「次のシーズンって何……?」
「目指せJPY回収」
「貴方それ好きですねぇ……
「それよりもほら、メイドカフェの練習しよう」

 ふみやさんは、まだまだ状況を飲み込めない私の手を引いて、ダイニングテーブルの所まで連れて行く。

「メイドカフェの練習って何ですか?というか私、メイドカフェ自体があんまりよく分かってないんですけど……ハッ、もしや何か如何わしい行為を……!?駄目ですよふみやさん!!そんな公序良俗に反する店舗の運営、この草薙理解の目の黒い内は絶対に認めません!!」
「何か話がすごく飛躍してない?練習っていうのは、コレの事」

 ふみやさんはいつの間にか、冷蔵庫から何かを取り出しテーブルに置く。

「これは……オムライス?」
「うん。メイドカフェって言ったらまずはこれだろ」

 ふみやさんは淡々と話しながら、私にケチャップを手渡す。

「とりあえずメイド……今は理解がこのオムライスにケチャップで文字を書いてアイコメ……美味しくなるように愛情を込める。ここまでやろう」
「は、はぁ……?」
「オムライスは念の為二つ作ってもらってるから、とりあえずは練習のつもりで一個やってみて」
「分かりました……

 ふみやさんに言われた事を思い返しながらオムライスとケチャップの注ぎ口の大きさを確認し、はみ出さないよう気をつけながらケチャップの容器を押していく。

「よし、出来た!」
「秩序 is all green……うーん、まぁいいか」
「えっ!?何その微妙な反応!こんなに綺麗に書けたのに!」
「そこはまぁ……後で言うよ。次はほら、アイコメお願い。美味しくなーれって」

 そう言いながらふみやさんは、先程わたしが文字入れをしたオムライスを差し出す。

 あいこめ?が何なのかあんまりよく分からないが、とりあえずは目の前のオムライスが美味しくなるように、おまじない?みたいな事をするということだろうか。という事はつまり……

「ちちんぷいぷい、オムライスよ、美味しくなれーー!」
「うーん、惜しい」
「惜しい!?」
「正解は、手でハートを作りながら『美味しくなーれ、萌え萌えきゅん』でした」
「そんなの分かるか!」
「という訳でほら、今までのを踏まえてもう一つ」

 ふみやさんは私が今しがたおまじないをかけたオムライスを一旦端に置き、新しいオムライスを差し出す。

 だが、ここである疑問が過ぎる。

「あの、今更なんですけど、そもそも何で私がメイド何ですか?」
「え?」
「こういうのは、そうですね……誰かに奉仕という事なら依央利さん、この衣服を着こなすという意味ではテラさん辺りが適任な気が……

 そう、この際メイドカフェとやらの是非は置いておくとして、おそらく適任者は私では無いのだ。こうした格好で給仕をする代わりに金銭を稼ぐのが最終的な目標であるならば尚更。

「だから一旦私以外の人に——
「今僕の事、呼んだ?」

 唐突に背後から声が聞こえ、慌てて振り返ると、見慣れた金髪が翻る。

「テラさん!」
「ただいま〜。ていうか理解くん、そんな格好で何してんの?」
「えっ、いやぁ、その、これは……
「メイドカフェの練習。あとおかえり、テラ」
「ただいま、ふみやくん。え、理解くんメイドカフェで働く?理解くんが?」

 ふみやさんの言葉を聞いて驚くテラさんを見て、思わず私も頷いた。そうそう、普通は皆そう思う。この私がメイドとして働くなんておかしいにも程が——

「へぇ、そうなんだ。頑張ってね」
「えっ!?それだけ!?」
「えっ?それ以外何かある?ていうか僕お腹空いちゃった。あ、オムライスある!これテラくんの!」

 そういやこういう性格だったなこの人。

「それは理解の練習用だから駄目」
「いや、これはテラくんの。このオムライスもテラくんに食べてもらった方が幸せだもん!」
「駄目な物は駄目」
「駄目じゃない。テラくんが言ってるんだよ?これ以上はバチ当たるよ?」

 いつの間にか、ふみやさんとテラさんがオムライスを巡って揉め始めている。慌てていつものように笛を手に取ろうとしたが、メイド服に着替えた際に、部屋に置いてきてしまった事を思い出す。
こうなったら二人の間に強引に割り込んで——

……しょうがないなぁ。それならテラくんが理解くんの練習台になってあげるよ」
「えっ?」
「ほら早く、理解くん。テラくんお腹空いちゃった」

 いつの間にか席に着いたテラさんが、ラップを外してオムライスを差し出してくる。

 これにはふみやさんも予想外だったようで、呆気にとられた様子で私とテラさんを眺めている。

「えぇっと、とりあえずはケチャップで文字を書きたいのですが……
「うん、いいよ。あ、書く文字は『テラくん最高』でお願い」
「分かりました……

 テラさんに言われた通り、ケチャップで『テラくん最高』と書くと、テラさんは分かりやすく嬉しそうに笑う。

「いいね、理解くん文字上手!次は?何の練習したの?」
「えぇっと、あいこめ?を教えてもらいました」
「本当!?見たい見たい!」
「では僭越ながら、美味しくなーれ、萌え萌えきゅん……

 ふみやさんが言った通りにおまじないをかけると、テラさんは一瞬ポカンとしたのも束の間、手を叩いて笑い始める。

「アッハッハ!理解くんもそういう事出来るんだね!」
「えっ、ちょっ、何で笑うんですか!これが正解ってふみやさんが……ふみやさん?」

 あまりにもテラさんが笑うのでふみやさんに意見を仰ごうとすると、さっきとは打って変わって、眉間に皺を寄せた不機嫌そうな表情を浮かべている。

「どしたの?ふみやくん?」

 流石のテラさんも若干驚いている。

「テラが俺のオムライス横取りするから」
「オムライス横取りって、そもそも君、もうオムライスあるでしょ」

 確かに、テラさんの指摘する通り、ふみやさんの手元には私が最初に練習したオムライスが残っている。

「でもこれ練習だし。俺まだ理解のちゃんとしたアイコメ貰ってないし」

 いじけた口調で話すふみやさんを、テラさんは次第にニヤニヤと見つめ始める。

「何、テラ?」
「いやぁ、珍しい事もあるもんだなぁって」
「は?」
「ふみやくんが嫉妬してる所、初めて見ちゃった。ね、理解くん?」
「えっ!?」

 そこで私に振るの!?ていうかふみやさんが嫉妬?そんな事本当あるの!?

……理解、ちょっとこっち来て」
「えぇっ!?」

 ふみやさんは、状況の飲み込めない私の手をグイグイと引いて、私の部屋に入っていく。

「えっ、ちょっと何!?ふみやさん!?」
……メイドカフェは中止」
「えっ?」
「そもそも、今度ポップアップカフェやるし、別に今からメイドカフェやる必要無いし」
「ふみやさん?」
「だから中止。JPYはまた別の方法で集めれば良い」

 ふみやさんは後ろを向いて淡々と話しているが、耳や首は真っ赤になっている。

……もしかして、嫉妬してます?」
……!」
「私が、メイドとしてオムライスに初めて正解のおまじないをしたのが、ふみやさんじゃ無かったの、気にしてますか?」

 ふみやさんは何も言わない。でも、更に真っ赤になり続ける耳と首が、答えを物語っている。

 テラさんの言葉を借りるようだが、珍しい事もあるものだ。いつも掴みどころの無い恋人が、こんなに取り乱している姿は初めて見た。でも、何だか年相応な感じがして、ちょっと可愛い。

もしや、このメイドカフェ云々とかも、適当に理由をつけて私とそれっぽい事をして見たかっただけとか?だとすると、何だか尚更可愛い気がしてきた。

 思わず口元が緩んでしまうのを堪えていると、不意にふみやさんがくるりと振り向いた。

「理解、この服脱いで」
「えっ?」
「メイドカフェ中止だから、脱いで」 
「えっ、ちょっ待ッ、ボタン掴まないで!」
「ていうか今から脱がすから。覚悟して」
「いやーー!!誰かーー!!」
「おい馬鹿やめろ」

 前言撤回。しばらくはメイドも嫉妬も見たくない……そう思った一日だった。