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fleetinggame
2025-05-10 17:00:33
3373文字
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作品
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親愛なる師匠へ
「いいか助手」
至極つまらなさそうに、錬金術の師は掌の上に転がしたものを眺めている。
透き通った角の内側で、青みを帯びた燐光がゆらめいていた。生きながらに手折られたものは、その輝きを維持する特殊な性質があるらしい。幻想的な輝きと、希少さもあいまって、鑑賞目的に集める者もいると聞く。
貴重な品は、見事に師である男のお眼鏡にかなったらしい。
作業台に並べられた材料の一員として、新たにその中へ加わることとなった。
ギルに換算すると、一般の市民では到底拝むこともないだろう金額の品々ばかりだったが、師匠にとっては研究の材料であってそれ以上でもそれ以下でも無いようだ。特になんの感慨もなく、揃った材料を一瞥してこちらのほうへ語りかけてくる。
「ここで習得すべき技術をあらかた修め、叡智のしもべとなったお前に、
今更錬金術を語るのも痴れ事ではあると思うが。あえて語るぞ。
何故ならば、調合する合間は暇で暇でたまらんからだ。口でも動かさんとやってられん」
俺は眼差しだけで、お好きにどうぞと返した。
目にも止まらぬ速さで青光りする角がすり潰され、黒みがかったゼリー状のものとあわさり、攪拌されていく。と思えば金色の液体が、ゆるやかな曲線を描きながら器へ投入された。
秒刻みに生じていく物質の変化を、意図する方向へ澱みなく導く様は、熟練の楽団の指揮者を思わせる。
「・・・よって、体の中で起こる反応は未だ解明されていない部分も多い。
人体とはエーテルの大海のようなものだ。さらにエーテルの構成には個人差がある。
同じ薬剤を投入したとて、全く同じように広がるとは限らない」
滑らかに滑る指の動きはそのままに、師の講釈は続いていく。
丁度復習がてらいいかと耳を傾けていたが、内容が全く新しくものだったのでついつい状況も忘れて興味深く聞き入ってしまう。わざわざ内容も今回の調合にあわせてくれているから余計にだ。実地研修の様相を呈してきた。
師匠に師事して、いくばくかの技術を習得してはいるものの。さすがに彼のように講釈をしながらできる領域にまではいっていない。
それもそのはずだろう。
相手はザナラーン、いやエオルゼアどころか多分この世界でも稀有な手腕の持ち主だ。さまざまな助けと条件が揃ったとはいえ、人一人を一時的に意思ある状態で復活させる離れ業をしてみせた人物である。
そんな人がわざわざ医者の代わりのようなことをしてくれるのだから、縁とは奇妙なものだ。
「ましてやお前が今回盛られた毒は、かなり稀有な種類でな。
条件が複数合致しなければまず効果自体が表れん。
体内エーテルの属性が過度に短時間で変化を行われたり、野生の植物を多量摂取するなど、体内の栄養素の変調、寝不足による疲労蓄積および肉体労働による過剰な酷使といった負荷がかかってはじめて発現する。
抵抗力が弱い年寄りや赤子ならともかく、健康な成人男子ではまず発現しにくい筈だ。というか」
「はぁ」
「よくその状態で酒なんぞ飲んでいたな。普通寝床に転がっている状態だろう」
言われてみれば、確かに意識は若干朦朧としていた気がする。
労働にいそしみすぎたせいなら、とりあえず酒でも飲んで気晴らしするかと思ったのが良くなかったらしい。
「まぁ普通は性的興奮が起こるだけだな。一時的な身体の弛緩と、理性を奪う作用もあるのでタチが悪いが」
「せっ」
「いくら師であるとはいえ、他者の私生活に介入するのは気が進まんが。敢えて言うぞ相手は選べ」
「ちちちちちがう!!!人のことをなんだと思ってるんですか!!!!」
食い気味に行った。
「まぁ大体は女性に使われるものだ。どういう経緯だったかは不明だが、お前の効果は盛った相手も想定外だっただろう。
たまたま私が旧知の知り合いと飲みにいくという奇跡的な偶然が起きてよかったな。だからこそすぐに対処できたんだ」
「しょっぴかれた人たちは、どうなります?」
「さぁな。この街は金による寛容と運がもたらす刺激をことさら愛するところだ。まぁそれなりの対価は求められるとは思うが。
取り押さえにきた中にはお前の部下も混ざっていたようだから、悪いようにはしないだろうさ」
大事にならないようならありがたい。
騒ぎを起こした手前、行動を制限されかねないなと心配していたのだ。適当にぶらつくのが生きがいな俺にとっては、死活問題である。
「しかし肉体疲労はともかく、エーテルの変調はな。多分これが一般的な効能と違う結果がでた理由かと思われるが。
どのような生活をしていたらこうなるんだ?」
「いやいつもは違いますって。
今は月面開発に着手しているから、普段より酷かっただけだと思うし」
「月?そういえばどこぞの陰険集団が開発に着手するといっていたが。
お前も一枚噛んでいるというならば金集めの与太話ではなかったのか。
どこにでも首を突っ込んでいるな」
「いやそれほどでは」
「褒めてないぞ。呆れているんだ。
おかげで体調管理も出来ていないではないか」
ふんっと師匠が鼻を鳴らしながら、持っていたすり鉢を台の上に置いた。
暫くは成果物の一部を別容器に垂らして検査用の紙の反応を確認したり、匂いをかいだりしていたが、納得がいったらしい。
俺が横たえられているベットに、燐光が立ち上った器を持って近寄ってくる。
「薬はできた。普段は塗布して摂取させるものだが、経口タイプにもできなくはないぞ。
勧めはしないがな」
「効果はどちらの方が早いんですか?」
今日の夜に依頼の約束入ってるんでと返すと、簡易な悪態と共に経口だと返ってきた。
人が飲むもんじゃあない。と添えられたが、逆に興味深そうに俺がしたため、今日初めて師匠が笑った。
毒を盛られた本人がこのノリなのだがら、心配しすぎるのも馬鹿らしく思ったのかもしれない。
そうだったらいい。
ただ、いざ口元に器を近付けられると、なんとも言いようがない臭いと青い燐光に身が怯む。
人間が体に入れたらいけない質感と色だ。
やっぱりやめますと言いたくなったが、抱き起こしてくれた師匠はがっちりホールドしてきて、抵抗力がない体ではされるがままにするしかなかった。
結果、成人男性とは思えない悲鳴と嗚咽と唸り声を上げることになってしまったが、元々セヴェリアン・リクターという男は他者の見栄や虚勢などには一切興味がない人物である。全く動じることがなかったのが救いだろうか。
もう少しすれば首から下も動くようになる。珍しい症例ではあるから、レポートを提出するように。といいながら、涙と涎でぐちゃぐちゃになった俺の顔をとりあえず拭ってくれた。
滅茶苦茶雑だったが、逆に丁寧にされても俺の心が萎むばかりだから丁度いい。
予告されたとおり、小一時間もすると俺の体は元通りに動くようになった。師匠の仕事は完璧だ。
不可能を可能にする、有言実行の男の仕事に間違いはないのである。倫理観とか諸々を、すっ飛ばしにするのがたまに傷なのだが。
「ありがとうございます。助かりました。誠心誠意レポートを書かせていただきます」
「そうしてくれ。知識の発展に身をもって貢献する、出来た助手をもてて私は幸せだな」
師匠は満足げに頷いてくれた。実験成功とその顔に得意満面に書いてある。俺も錬金術師のはしくれだから気持ちはわかるけど、だいぶわかりやすいな。本当に研究に関しては子どもみたいだ。
「だから次は、ちゃんと元気な姿で会いに来い。いいかその次も。その次も。ずっとだ」
助手の復活までさせられては、たまったものではないからな。と小突かれた。
お前の脳天気なツラが、死人みたいに青ざめるのを見たのは肝が冷えたぞとも言われたので、随分心配させてしまったらしい。
命懸けがうりの冒険者に無茶を言うなと思ったが、そのくだいてくれた心のおかげで、俺は今も不自由なく動けるのである。
くすぐったさに、思わず口元が綻んだ。
レポート提出の際には、せっかくだからとびっきり珍しく品と一緒に。
彼の助手の、元気な姿を届けにこよう。
了
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